戦争と平和、その322~統一武術大会五回戦、ベルゲイvsセイト③~
「一方的だ!」
「審判、止めろ!」
「――いや」
この試合の審判は巡礼3番のメイソン。メイソンも一方的な展開に一歩足を前に出して止めようとしたが、そうではないことがセイトの表情でわかった。
「反撃を――狙っているのか」
確かに些か打撃の中で跳ねまわりすぎのようにも見える。セイトが反撃の機会を狙っていることはベルゲイも気付いたのか、明らかに攻撃のリズムが変化した。
「さらに速きこと、音のごとく――『瞬歩瞬撃』」
今度はベルゲイの打撃の速度が目に見えて上昇した。一撃を繰り出しているはずなのに、同時に5発以上の衝撃が刺さる。その全てが、重い。速度と威力が同居し、セイトの反撃を封じ込める。
「ぬ・・・ぅ!」
「まだだ、まだこんなものではないぞ? 速きこと、光のごとく――『瞬動乱舞』!」
ベルゲイの姿が完全に消える。その直後、肘、膝、裏拳、頭突き、貫手、掌打、中足。あらゆる打撃がセイトを捉えていた。何発入ったかはわからない。ただ、全方向から凄まじい衝撃が飛んできた。まるで巨獣の掌に捕まえられて握りつぶされるような――そんな錯覚がセイトを襲う。
そして観客は見た、全方向から加えられた衝撃でセイトが直立したまま宙に浮いたのを。凄まじい衝撃が同方向から均等に加えられた結果だが、ベルゲイはその結果を見て逆に攻撃を止めた。
「ぬ・・・貴様」
セイトの目が死んでいない。普通これだけの攻撃を加えれば気絶してもおかしくない。それが倒れるどころか、反撃がこめかみをかすめた痛みがあった。現に一筋の血がベルゲイのこめかみから流れていた。
「あの速度に合わせた・・・のか?」
「いやぁ、間合いだろ」
ロッハの驚愕に、ラインが答えた。
「速いってのはスゲェな。だけどよ、究極に速いといっても相手は一人だ。攻撃の対象が定まるなら、速くなるほどに一撃一撃の間隔は狭くなる。かつ全方位から攻撃が来るってぇのなら、冷静に最後まで来ていない方向に的を絞っておけばいい。
速いほどに反撃された時のダメージは増す。馬で全力疾走すると、舞い散る葉っぱでも頬が切れる時があるだろ。あれと一緒だよ。セイトは冷静に方向を定めて、最後まで打たれなかった空間に手を差し出しただけだ。それだけで、下手をしたらベルゲイを仕留めていた。あそこまで一方的に攻撃されて、なんて冷静な奴だ」
「その判断をあの猛攻に晒されながら・・・?」
「やったってことだな。とんでもねぇ獣人だ、グルーザルドの層の厚さはすげぇな」
ラインは素直に感心していたのだが、ロッハは返事をしなかった。あんな逸材がそうそう出てくるものか。ベルゲイの攻撃は明らかに自分やリュンカを超えていた。ヤオならばひょっとしたらあの領域に到達するかもしれないが、あれだけの威力の連撃をできはすまい。
ものが違う。ロッハはカプルから聞いたことを思い出していた。
「次の獣王が出るとしたら、此度の遠征部隊の中からであろう」
戦場に身を置くことで獣人は強くなる。だからこそ南方戦線での戦闘はグルーザルドにとって重要だし、度重なる遠征に誰も批判をしない。だが南方戦線では優秀な人材や獣将は出たが、王たる器は出現しなかった。
ドライアンもかつて人間世界を放浪することで強くなった。人間世界への兵士の派遣はそういう理由もある。此度選抜された兵士は、将来獣将以上を嘱望される若手戦士たちの集団であることを、彼らは知らない。知っているのは獣将の一部と、ドライアンだけである。
そういう意味では、セイトもヤオも王たる器を試されているのだが。
「セイト――やはり」
「やはり?」
「いや、何でもない。結論には早いな」
ロッハが見守る中、セイトが再度構える。セイトは猛攻に晒される瞬間、脱力することで余計なダメージを防いだ。全方位の衝撃なら、脱力して抵抗しないことで衝撃が相殺されると咄嗟に判断したからだ。
果たしてその目論見は半分当たっていたが、やはりダメージはある。
「(あと2、3回同じことをされれば立っていることは不可能だな)」
つまらない内容と結果になるだろうが、自分がベルゲイなら同じことをするだろう。先ほどの技がベルゲイそのものにも負担を強いることはわかったが、確実に勝利するならその選択あるのみだ。
だからセイトは構えをさらに開いた。攻撃に転じた構えをすることで、ベルゲイを挑発したのだ。
ベルゲイが獰猛に笑った。
「その意気やよし! ようやくその気になってきたようだな」
「一つ間違えれば死ぬことはわかった。まだ死にたくはないからな」
「結構。では次の段階に参るとしよう」
ベルゲイの言葉に、まさか先ほどよりも速い打撃があるのか――と畏怖したセイトだが、逆にベルゲイは通常の歩みのようにセイトの方にまっすぐと歩いてきた。
続く
次回投稿は、4/3(水)18:00予定です。