戦争と平和、その321~統一武術大会五回戦、ベルゲイvsセイト②~
「始め!」
審判の合図と共に、ベルゲイが一瞬でセイトの間合いに入り先制の正拳突きを繰り出す。今までのベルゲイは相手の攻撃を受けながら、どこか諭すような戦い方をしていた。それは自らの力量を確認するための作業でもあったし、相手との力量差を鑑みれば一瞬で終わる戦いばかりだったが、本当に一瞬で終わらせてしまえば何も得るものが互いにないからだ。
これは殺し合いではない。互いの力量を存分に発揮するにはある程度時間が必要であることをベルゲイは承知していた。だから先手を取ったことはないし、拳に殺気を込めたこともない。この大会、初めて自ら仕掛け、しかも本気で打ち込んだ。
それを、あっさりセイトが躱したのである。セイトが腹の感触を確かめながら、ベルゲイの方を見た。
「まともに入っていれば、内臓破裂で死んでいたぞ?」
「手加減した拳では当てることもままなるまい? だが、本気の拳も避けられてしまったがな」
セイトの体表までは当たっていた。そこからセイトはベルゲイの拳を避けたのである。恐るべき反射神経と皮膚感覚だった。
「(これだけの感覚があれば、学べば好きなように後の先で攻撃を当て放題になるだろうし、避けることに集中すれば軍勢の中を無傷で通ることも可能だろう。修行を積めば、おそらくは五賢者の『拳聖』ゴーラにも勝るのではないだろうか。
だが、今は俺の方が強い!)」
ベルゲイが構えと殺気を解放する。右手を上段に、左手を下段に。足は軽く肩幅より小さいくらいに開き、左脚の踵を上げる。大柄で筋肉質のベルゲイにしては小さい構えであるが、その構えを見てセイトの毛筋が逆立った。セイトもまた、拳を上げてしっかりと構えを取ったのだ。
「セイトが構えたぞ?」
「初めて見たな」
獣人たちが知るように、セイトの構えはいつも自然体だ。軽く拳を上げて構えたように見せることはあるが、型のようなものを作ったことはない。動きや拳は早く小器用だが、組めば力づくでも抑え込める。獣人たちの部隊の中ではそのような評価であり、強者とは程遠かった。
だが現在、イェーガーの中で5回戦まで勝ち残った獣人はセイトしかいない。獣人たちは話し合った。
「セイトって、強いのか?」
「いや、俺と戦績は五分くらいだ」
「俺は勝ち越してるな」
「俺はちょっとだけ負け越しているな」
「というか、ほとんど誰とも互角じゃないか?」
獣人たちが違和感に唸る。
「得手不得手がないってことか」
「それどころか、人間とも割と五分だな」
「ヘンテコな武器にも対応するし、器用だよな」
「中隊長級とも互角にやりあうだろ?」
「でもこの前、ヒラの隊員にも負けたぞ?」
「ますますわからん」
さらに獣人たちが唸ったが、ヤオは少し違う印象を抱く。セイトは組手の際、必ず受けから入る。先手を取りたがる他の獣人とは違い、じっくりとこちらの手を見るのだ。
最初は消極的なだけかと思ったが、その割にはじっくりとこちらの手を見ている。観察されると、時にヤオもぞくりと寒気を感じる時がある。そして三本に一本は取られるのだが、ニアにすら十本に一本しか取られないことを考えれば、セイトとの対戦成績は驚愕の数字だった。
「(それも、セイトが本気だったらどうなるのか、な・・・)」
セイトが本気だったら五分以上に取られてもおかしくないと予感が働くあたり、ヤオもまたセイトの実力を測りかねていた。
そしてその獣人たちの前で、ベルゲイが先手を取った。
「速きこと、風のごとく――『瞬歩』」
大柄のベルゲイの体がふっと消えた。そしてセイトの背後に現れると、今度は目にも止まらぬ一撃を放つ。打っては消え、現れては放つ。その一連の動作が継続されると、まるで複数のベルゲイが四方八方からセイトを滅多打ちにしているように見えた。
続く
次回投稿は、3/22(月)18:00です。