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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
1782/2685

戦争と平和、その320~統一武術大会五回戦、ベルゲイvsセイト①~

***


「勝負あり! 勝者、バネッサ!」


 統一武術大会五回戦、バネッサvsロゼッタの決着は一瞬だった。正面から猛然と斬りかかるロゼッタに対し、バネッサはその剣を受けるふりをして流すと、ロゼッタを投げ飛ばした。

 そのまま場外でもおかしくなかったが、ロゼッタが反射神経を活かして踏みとどまるとそのロゼッタの鳩尾に一撃、顎に一撃。たたらを踏んだロゼッタの肩を押し、場外に押し出した。


「悪いわね、今日は盛り上げる気分じゃないの」


 ロゼッタが天を見上げてぽかんとしていると、バネッサが競技場の上からそんな言葉を投げかけて去っていった。観客も呆然としていたが、バネッサは普段とは違い無表情で、髪を一度かき上げると挨拶もせずに去っていった。

 バネッサは苛ついていた。他でもない、2番であるのっぺらぼうが死んだことにである。


「(ついに私一人になったわね。いずれこういうこともあるかと思ったけど、本当の意味で酒を酌み交わせる相手が減ったことに、こうも苛つくとは! 私も情に脆くなったかしらね。

 だけど、のっぺらぼうをやった奴にはきっちり落とし前をつけさせるわ。たとえそれがウィスパーに意向に背く形になったとしても)」


 バネッサは自信に満ちている。自分より優れた戦士がいるとは考えていないし、自分が先手をとれる条件なら、この統一武術大会に出ている誰にでも勝てる自信がある。魔術が使える相手でも関係ない、それすら凌駕してみせる自信があるのだ。

 だがバネッサにも一つ誤算がある。それは、この統一武術大会にすら参加していない強者の存在。この大陸が狭いようで広いことを、ウィスパー程バネッサは知らない。


 そして次の試合。

 ドロシーはシャイアと戦う予定だったが、知る人はシャイアが命も危うい重態だと知っている。当然のごとく、試合はドロシーの不戦勝となった。

 ドロシーは不戦勝を告げられると丁寧に四方に礼をし、拍手を浴びていた。この光景に一番感動しているのは、実はイェーガーの古参組である。なぜなら身分も教養もなく、基本的な剣の修練から全てイェーガーで行ったドロシーが、自らの努力と鍛練で勝ち取った名誉だからだ。

 ドロシーの才能が群を抜いているのはアルフィリースを始めとして、誰もが認めるところである。団においては斥候から斬り込み隊長まで、依頼されれば薬草採取から警護、荷運びから魔獣討伐まで嫌な顔一つせずにこなすドロシーのことを悪く言う者はいない。彼女が天覧試合に出場する名誉を受けることは、古参の団員にとっては我がことのように誉れであり、新人にとっては良い目標でもある。

 そしてドロシーが控室に引き上げようとすると、次の入り口にはセイトが待っていた。


「おめでとう」

「うっす! 次はセイトの番っすよ!」

「ああ」


 セイトとドロシーは仲が悪いわけではないが、セイトの声は素っ気なかった。ドロシーはそれでも笑顔でセイトの肩を叩いたが、セイトにはいまいちどういう顔をしてよいのかわかないのだ。

 セイトがドロシーを嫌いなわけではない。だがアルフィリースやベルゲイが睨んだ通り、セイトには自身が戦う意義が希薄だった。獣人は戦うことこそが存在意義であり、勝利こそが名誉である。そのような考えに生まれつき同調できなかった。

 そんな自分が変わり者であることを知りつつも、かといって他の道を知ることができるわけではなく、戦って勝利すれば充足感に包まれる自分に悩んできた。ただ獣人の選抜部隊が人間世界で活動すると知り、初めて自ら積極的に行動を起こした。人間世界で戦い以外の何かを知れば新しい世界が開けるかと思ったのだ。


「(だが結局、変わらずまたしても戦っている。これではどこにいても変わらないな)」


 戦いが名誉になるのは人間でも獣人でも同じかと知れると、この大会にも勝ち進む度に興味が薄れていった。イェーガーとグルーザルドの名誉を汚さないために下手な負け方はできないが、次の相手は獣将すら打ち負かすウルスを従える一族の長である。普通に戦って勝てる相手ではないことは明白だ。

 セイトは足取りが重いことを悟られないように競技会場に向かったが、ベルゲイと対峙するとその覇気のなさを一目で見抜かれていた。


「なるほど、確かに獣人にしては覇気がない。人間にも劣るな」

「・・・確かにとはどういうことか」

「先だっての戦いを見て、少し灸を据える必要があると感じたまでだ。覇気のない者に負けるほどの屈辱はない。望まずとも強いというだけで果たすべき責務がある。そうは思わんか?」

「責務など面倒で迷惑なだけだ。放っておいてほしいものだな」

「なるほど、重症だな」


 ベルゲイは思わずおかしくなって笑った。自分はひたすら強くなることだけを考えてきた人間だが、目の前には望むだけ強くなれそうなくせに強くなりたくないという者がいる。何とも皮肉な出会いに、ベルゲイは約束だけでなく、自身もまたこの獣人の本気を引き摺りだしてみたいという衝動に駆られていた。



続く

次回投稿は、3/30(土)18:00です。

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