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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その319~統一武術大会五回戦、閑話⑧~

「あーん、ちょっとこっちを向いてくれたりしないかなぁ。しっかし、なんでうちの総隊長の名前がここで出るわけ?」


 ミストナとは、フリーデリンデ天馬騎士隊の総隊長の名前だ。ターシャがつぶやくように疑問を口にした瞬間、メルクリードの視線が一瞬動いた。そして顎で別の方をさ示すと、フラウがそちらに向かって動き始めた。


「ちょ、ちょっと。どこ行くのよ? 今動いたらバレるし・・・ああ、もう!」


 ターシャが二人の消えた先を追おうとして立ち上がると、背後から首根っこを引っ掴まれてつまみあげられた。やったのはフラウ。いつの間に後ろに回られたのか、どうやら位置がばれていたようだ。

 まるで子猫を持ち上げるように掴まれたことで、逆にターシャは反抗する気も失せていた。


「え、えへへ。こんにちは」

「知り合いか、フラウ」

「まぁな。下手くそな尾行だと思ったが、いきなり頭を潰さなくてよかった」


 恐ろしいことをさらりと告げた後、フラウは呆れたのはため息をついていた。


「お前はイェーガーで何を学んでいるのだ、ターシャ。尾行は基本2人一組で、できるならばセンサーと組むのは基本だろう。そんな体たらくでは、またエマージュに尻を叩かれるぞ?」

「いやぁ、そんな危険はないという直感だったんですけど~。というか、なんで私のお姉ちゃんの名前を?」


 不思議がるターシャに、ますますフラウが盛大にため息をついた。


「お前は・・・もし今のがカマを掛けたのだったら、お前は実姉の名前を教えたのに等しいぞ? それが原因で姉に危険が迫ったらどうするんだ。

 センサーでもないくせにそもそも私たちの後を尾けることができるのは不思議だが、お前は鈍いのか勘が良いのかまったくわからん」

「んー、その物言いは誰かに似ているような・・・」

「まだわからんのか。私だ、ヴェルフラだ」

「ヴェルフラ・・・って、部隊アテナのちんちくりん怪力隊長!?」


 ターシャは言ってからしまったといわんばかりに口で手を覆ったが、表情が引きつるフラウと、その傍で笑いを噛み殺すメルクリードが対称的だった。


「ふ、ふふふ。笑ったのは実に数十年ぶりだ。お前の傭兵団には面白い部下がいるな。そう考えれば、カラツェル騎兵隊は実に生真面目な奴らばかりだ」

「今お前がいなければ『これ』の下着をずり下ろして尻叩き50回だがな。そうか、裏で他の部隊からはそう呼ばれているのは知っていたが、面と向かって言われたのは始めてだ。エマージュがいつも頭を悩ませている理由がわかったよ」

「え、えーと・・・なかったことには、なりませんかねぇ?」

「ならん!」


 フラウがぱっと手を離してターシャが地面に落ちると、ターシャは平伏して謝った。


「お、お願いします! これがばれたらエマージュお姉ちゃんに何回尻叩きの計になるか。私の経験上300回は優に超えます! お尻が腫れて一つになっちゃう!」

「許すも許さないも・・・そもそもなぜおまえはここにいるんだ?」

「だって、どこかで見たことのある人だなって思ったから」


 フラウの容姿はフリーデリンデにいる時とはまるで違う。身長、容姿、髪型や体型まで。別人といっても差し支えない姿だ。この姿をとっている時、気付ける者は限られる。代々の総隊長以外、他の隊長仲間や同じ部隊の者ですら知らないのだ。それにどうして気付けたというのか。

 フラウ、いやヴェルフラは思わずつぶやいていた。


「素質があるというのか・・・」

「はい?」

「いや、こちらの話だ」


 フリーデリンデの歴史を鑑みるに、ターシャのような勘を持つ女が代々の隊長となってきた。ミストナの若い時もそうだったし、いつからか自分が総隊長の見定め役となってきた。そうでない者を総隊長に据えた時、なぜかフリーデリンデは大きな損害を被るのだ。

 もし歴史通り運命が繰り返すのなら、ヴェルフラは役目を果たさねばならない。


「そういうことか・・・運命とは皮肉だな。極寒の大地で厳しい訓練に励む者に素質がなく、お前がそうだとは。いや、これはフリーデリンデも変革の時を迎えているということなのか」

「あのー、ヴェルフラ隊長?」

「いや、こちらの話だ」


 ヴェルフラは目を閉じて一度気持ちを切り替える。


「ターシャ、ここで見たことは内緒にしてもらえると助かる。いや、誰にも話すな」

「はぁ。そう言われても何を話していたかもわかりませんし、話しようがありません」

「それならそれでいい。だがお前が知りたければ、お前だけには真実を話してもいい」

「うーん、やめときます」


 ターシャの意外な言葉にヴェルフラが驚いた。


「なぜだ? お前は噂好きだし、知りたがりだろう?」

「私は嘘がつけない性格なので、多分真実を知ったら顔に出ると思います。今の私に必要ない情報なら、不要です」

「そうか、ならば一つだけ伝えておこう。いずれ私もお前も、互いが必ず必要になる。その時、誰を敵に回すことになろうとも躊躇うな。お前が正しいと思ったことを、必ず実行するのだ」

「誰を敵に――それはミストナ総隊長やアルフィリースも入ってるってことですか?」


 ターシャの言葉にヴェルフラは何も答えなかったが、その言葉はターシャの胸に重くのしかかり、やはり追いかけるのではなかったと後悔することになったのだった。



続く

次回投稿は、3/28(木)18:00です。

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