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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その317~統一武術大会五回戦、閑話⑥~

***


 その頃、武術大会の会場では予想外の出来事が起きていた。競技場の上にはダロン。イェーガーの中でも、魔術を用いない戦いでは最強の一画と目される戦士だ。

 巨人は腕力だけで常人の数倍あることが特徴とされるが、ダロンの場合はそれに俊敏性も加わる。元々の歩幅があるから短距離も速いし、反射速度も普段の温厚な態度からは想像もつかないほど俊敏に動くことができる。

 骨格も違うからおおよその関節技が効かず、分厚い筋肉はほとんどの打撃や急所攻撃を無効化する。下手をすると、槍や剣ですらその肉を迂闊に傷つけることはできない。

 そのダロンが、膝をついていた。しかも、相手はただの女性。その表情はフードで見えないが、ダロンを膝まづかせておきながら歓喜も興奮もなく、ただ平然と立っているように見えた。


「誰だ、あれ?」

「こんな強かったか・・・?」

「なんて名前だよ」

「えーと、試合前の審判の説明じゃあ、フラウだったな」

「賭け率はどうなってる?」


 観客が騒ぐ中、ダロンはぐらつく頭で必死に考えていた。確かに加減しようとはした。相手は人間の女性だ、ダロンがそれなりの力で殴れば死んでしまう。ダロンにとっては、ここまで勝つことよりも相手を殺さずにいる方が大変だった。

 だから、捕まえて場外に連れて行くつもりだった。相手の武器は大槌だったから、間合いに入ればすぐに終わると考えた。実際ダロンは開始の掛け声と共に猛然と突進し、フラウの間合いに内に入ったはずだった。だが、その直後ダロンは両膝から崩れ落ちていた。

 ダロンが必死にぐらつく思考をまとめる。


「(何があった・・・? ぼんやりとして焦点が定まらん。これは・・・脳を揺らされたのか。だがしかし、巨人の骨の厚みは人間の5倍以上。これを人間の拳で揺らすことは不可能だ。鉄製の槌ならともかく、木製では叩いても槌の方が砕け散るだろう。一体、何が)」

「速いな、お前。まさか間合いに入られるとは。おかげで驚いてつい、全力で殴ってしまった。死んでなくて何よりだ」


 フラウが感心と賞賛の声を上げ、同時にダロンの顎を蹴りあげた。ダロンの巨体が宙に一回転し、後方に3回転して止まった。

 フラウという女は長身だが痩身で、腕回りならダロンの3分の1もない程度である。腰すら、ダロンの腕回りの方が明らかに太い。それがどうして、こんな力を発揮するのか誰も理解できないでいたのだ。

 当のダロンも衝撃は理解したが、どうしてこうなったのかは理解できない。そうする間にもフラウがダロンの腕を引いて、ずるずると引っ張っていく。フラウは片手しかつかっていないが、ダロンの巨体が苦も無く動いている。


「力は隠しておきたかったが、この辺が潮時だな。当初の予定はまだ達成できていないからな、ここで負けるわけにはいかんのだ。許せよ」

「――いや、許してもらう必要はない」


 今まで引きずられていたダロンが素早く跳ね起きると、フラウに全力で襲い掛かった。今までとは明らかに違う隆起した筋肉と、浮き出た血管が異常を知らせる。何より、ダロンの表情が必死になっていた。

 ダロンは両腕でフラウを捕まえようとしたが、それをフラウが受け止める。


「もう動けるのか。巨人がここまで頑強だとはな」

「脳が揺れるのは経験がなかったゆえに戸惑ったが、慣れればどうということはない。ここまでできる相手に、全力を出すことにももはや躊躇らわん。すまんが、女性とはいえ骨の一本や二本は覚悟してもらおうか!」

「女子だからという差別もなし。そしてわざわざ宣言するその紳士ぶり、実に気に入った。だが世の中、上には上がいることを教えてやろう」


 フラウがダロンの手としっかり組み合うと、上から押さえつけているはずのダロンの膝が段々と崩れてきた。そしてまるでフラウの方が巨人であるように、腕力のみでダロンを押さえつけ始めたのだ。

 完全に膝をつかされたダロンが、苦悶の表情にあえいだ。


「ば、馬鹿な・・・!」

「お前が悪いわけではない、私は生まれつきこうなのだ。このまま両腕をへし折ることもできるが、貴様ほどの戦士にそれは忍びない。が、まだやることがあるのでな。勝たせてもらう」


 フラウはそのままダロンを場外に投げ飛ばした。その際にダロンがフラウにつかまろうと手を伸ばしたが、フラウのフードに指をかけて外すのが精一杯だった。

 だがダロンが投げ飛ばされた衝撃よりも、フラウを見た観客の反応がかき消した。


「な、なんて――」

「美しい・・・」

「あんな女性がいるの?」


 観客は男のみならず、女までもが感嘆のため息を漏らした。本当に美しい物を見た時、人は声を失うという。まさにその状況が、この満席に近い競技場で起こったのである。

 だが当のフラウはフードを被りなおすと、何事もなかったかのように競技場を後にした。フラウがいなくなってから、審判でさえもはっと我に帰ったのであった。



続く

次回投稿は、3/24(日)18:00です。連日投稿です。

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