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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その315~統一武術大会五回戦、閑話④~


「互いに虚勢を張るのは止めましょう、ベルゲイ。腹を割って話すべきよ。少なくとも、我々が戦ってもどちらにも得はないわ」

「貴様が素直にウルスを返しさえすればよい。貴様がウルスを打ちのめし取り込んだせいで、昨日我々は悲願を叶える機会を失ってしまった。我々は多くの犠牲を出し、千年待った結果が一日でふいになった。この責任、どう取ってくれる?」

「それこそお門違いよ、ベルゲイ。あなただってわかっているはず。千年待った悲願だというなら、意志ある人間が関わるような方法を取らなければよかった。ティタニアの封印先の依代は、人ではなく物にすれば簡単だったのよ。千年もあったのだから、それを研究する時間がなかったとは言わせないわ。

 それにウルスだって、どうして競技会に出場させたの? それほど欠いてはいけない人間だというのなら、四肢を切り落として動けなくしておけばいいのよ。あなたたちはウルスを人間として扱い、その成長を楽しみにしていた。仮に封印を施しても、その後人間として扱うつもりだったはず。

 あるいはウルスの戦士としての資質もまた重要視されるから、鍛える必要があったか。どちらにしても、非道になりきれなかった段階で失敗だわ。

 さらに言うなら、ティタニアのような運命を負った人間を作ってしまった段階で――その人間を逃がしてしまったことそのものが、あなたたちの責任だわ。ウルスも一族というのならその責任はあるかもしれないけど、間違えても彼女一人で背負うものではない。まして私は何の関係もないわ。私のせいにしないでちょうだい、迷惑よ」


 アルフィリースが一気にまくしたてた言葉を、ベルゲイはただ黙って聞いていた。そして殺気が和らぐと、今度は悲痛な声が漏れてきたのである。


「・・・口惜しいが、貴様の言う通りだ。全ては俺の――我々の責任だ」

「あなた一人のものではない。それはかつてティタニアを敵にしてしまった人たちの責任だと思うけど、今となっては誰の責任かはさほど関係がない。もうティタニアはどうやっても止まらないでしょうし、これからどうするかの方が重要よ。

 もちろんティタニアに何があったのかを知ることは、これからの対策の手掛かりになるかもしれないけど。ティタニアとは何者なの? あなたたち以上に詳しい人間は、現在いないでしょう? 私も知っておきたいわ」

「今それを話す時間はないだろう。だが、ウルスも俺と同程度のことを知っているはずだ。知らぬことは一つだけ、ティタニアが剣帝となる前、どういう人物だったかということだ。それは代々、俺と同じ役目の者だけが知ることになっている」

「へぇ。ティタニアって、どういう人物だったわけ?」


 ベルゲイは少しためらったが、アルフィリースが既に黒の魔術士との諍いに巻き込まれていることを知ると、話すことにした。


「ティタニアは本来、戦いを好まぬ少女だったそうだ。山野を男と一緒に駆け回るお転婆ではあったが、料理が得意で、怪我をした動物の手当てをする――家畜の一匹を手にかけることすら心を痛めるような、心優しい少女だったと」

「どうしてそんなことを口伝に?」

「拳を奉じる一族の開祖は、特にティタニアと仲が良かったそうだ。一族の命令として討伐に参加せねばならぬが、追い込んだ責任はそもそも我々にあることを忘れるなと。そしてティタニアを倒すにしても、苦しませることなく、正当な方法で倒すように告げている。

 さらには、その後のペルパーギスの打倒にこそ、心血を注ぐようにとのことだった」

「正当な方法ねぇ。なら、あなたたちがアルネリアの策に加わったのは正当な方法と言えるかしら?」


 アルフィリースはミランダから昨日の作戦の全容をあらまし聞いていた。ミランダがリサに追加報酬を払い、さらにはウィスパーすら雇って行った行動は知らなかったが、その前の作戦を聞くだけでもミランダのやったことが最初は信じられなかった。まさか民衆を肉の盾にするとは思わなかったのだ。

 むしろミランダがそこまでせざるをえなかったのかと考えたが、アルフィリースの中にも納得できないしこりが残った。だからこそ、こうしてベルゲイに対する口調も荒いものになったのかもしれない。

 だがベルゲイの方は口下手なのか、不満こそ表情に出ているがアルフィリースには反論しなかった。アルフィリースの方もこうしてベルゲイをやり込めることが目的ではなかったので、逆に気まずい事態となっていた。


「言い過ぎたわ、ごめんなさい。あなたと敵対するつもりはないのよ」

「いや、こちらこそ。冷静に考えれば、病床の女人の寝所に押し掛けるなど男子として恥ずべきことだ。許せ」

「そうね。ただ話がこじれていれば腹に一撃入れるつもりだったでしょう?」

「それは――否定はせん。切羽詰まっているのは事実だからな」


 否定もしないところにベルゲイの誠実さを感じたアルフィリースであり、だからこそ一つ自分から折れることにした。


「ウルスの所には案内をさせるわ。でも言った通り、あなた達が死を厭わぬ戦いをするつもりなら、ウルスは連れて行かないで頂戴。まだあの子は強くなるし、ティタニアの問題はあなたたちにとっては悲願でも、もう話はそれだけにとどまらないと思う。

 拳を奉じる一族だけで対抗できないのなら、知恵を出し合って力を合わせるべきだわ。そうは思わないの?」

「同感だが、俺には責任というものがある。そして俺自身、人生をここまでティタニア討伐に捧げて来て、その結果を見たいという衝動が止められそうもない。

 だから身勝手な考えと知りつつも、もしお前がその気ならウルスの身柄をこれからも預けたいのだ」

「本当に身勝手な願いだわ。だけど、そのつもりで私もウルスを預かっているのよ。というか、元々あなたもそのつもりで来たのでしょう?」


 ベルゲイはその問いには答えず、自嘲気味に笑っただけだった。胆力、実力共にアルフィリースが信頼に足ると考えたのか、それとも他に手段がなかったのかはわからない。


「ウルスを貸す代金といってはなんだが、もう一つ頼まれてはくれないか」

「ものによるわ」

「弟のマイルス、それに生き残った者があと3人いる。宿はアルネリアの者に聞けばわかるだろう。彼らの身柄も頼む」

「構わないけど、その分しっかり働いていただくわ」

「無論だ、証拠にこの腕輪を預けておく。これで奴らはお前の言葉を信じるだろう。そしてもう一つ、ウルスとマイルスの父は死んだ。そのこともウルスに伝えておいてくれ」


 その事実にアルフィリースが顔を曇らせた。



続く

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