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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その313~統一武術大会五回戦、閑話②~

 ルイがレクサスの元に戻ると、レクサスが無言でその後に続いた。その雰囲気はいつもの軽薄な感じが失せ、全身で警戒しているように見えた。当然、ルイがひっそりと問いかける。


「珍しく静かにしていたな」

「・・・嫌な感じだ、姐さん。何が嫌とはいえないが、よくない」


 レクサスの危険に関する勘は、ほとんど未来予知にも近い確率で当たる。いつも軽薄な態度を取り、隙あらばルイに襲い掛かろうとするこの男を傍に置いているのは、この能力にもよるところが大きい。

 センサーとは違う。だがグロースフェルドの魔術による察知と回復、大陸でも有数のカナートのセンサーとしての力量、そしてレクサスの予知にも等しい危険や不運を避ける能力。これらが揃っているからこそ、ブラックホークは大きな死者も出さずやってこれたと言っても過言ではない。かつて四番隊だったヴィラトの隊は、レクサスを侮りその予見を無視して全滅したのだ。

 そのうち、常識人がカナートだけなのは困りものだが。ルイが内容を聞こうとして、レクサスの表情が見たこともないほど険しいことに気付いた。


「相当悪そうだな。どのくらいだ?」

「・・・俺達だけじゃねぇっす。下手したらここにいる全員が死ぬかも」

「全員とは?」

「全員っすよ。競技者も、運営者も、観客も全部っす。悪くとも数日中、いや、すぐにでもここを離れることをお勧めします」


 レクサスの言葉には澱みがなかった。それだけにルイは考える。それほどの脅威なら、どこにいてもそう変わらないのではないかと。そして立ち向かわない限り、むしろ逃れることはできないのではないかと。

 ルイは重ねて問うた。


「ここには相当の実力者がそろっている。それでもか」

「関係なさそうっすね。誰がいても一緒かもしれねぇ」

「相手は何体だ」

「・・・いくつも嫌な闇みたいな気配を感じます。だけど一番ヤバイのは光の方だ。全てを覆い尽くす、光。太陽みたいなもんっすかね。なくてはならないが、近づくと誰でも燃え尽きる。あんな感じっす」

「太陽と来たか・・・だが」


 レクサスが具体的に予見できる時は、ますますまずい。この予見は間違いなく現実に起こりうる。だがルイもブラックホークの団員としてここに来ている。手ぶらで帰るわけにはいかない。


「レクサス、お前を信用していないわけじゃない。だが、ワタシもここで引くわけにはいかない。最低2日様子を見る。それでもいいか?」

「いいも何も、部隊長は姐さんだ。命令してくれりゃあ、俺は従います。たとえそのせいで死ぬとしてもね」

「ワタシはそういうのは嫌いで軍を離れたんだ。お前がまずいと思ったら、ワタシを見捨てて逃げろ」

「そいつは無理な相談だ、姐さん。俺が姐さんを見捨てるなんて、ありえません」


 レクサスは真剣な表情でルイのことを見た。ルイが歩みを止めてその瞳を見返す。


「なぜだ?」

「このやりとり、何回目でしょうね。俺が姐さんに惚れてるってのは、何度も伝えたはずですよ?」

「毎日鳥のさえずりの様に繰り返されては、重みに欠けるとも何度も言ったな? それにワタシは『そういうの』は捨てたんだ。最低でもワタシを倒せる男でないと、好きにはさせてやれないな」

「ちぇー、こっちは大真面目に言ってんのになぁ。こんなに全力で毎日愛情表現しているのに、どうして伝わらないかなー。それに俺たちがやりあったら、間違いなく殺し合いでいいとこ相討ちっす。そんな愛情表現の成就は嫌っすよ」


 だが元々の表現方法が間違っていると喉から言葉が出かかったが、ルイはその言葉を押しとどめた。別にレクサスが真剣なことは知っている。それにレクサスのことが嫌いなわけでもない。戦場で背中を預けるくらいには信頼している。少なくとも軍属時代に、そんな男はいなかった。

 だが所詮戦場で生きる二人なのだ。そして自分は最大の軍事国家のお尋ね者でもある。いつ追手がかかるともしれない状況で、もし新たな命でも宿そうものなら自分と新しい命はおろか、この器用そうで不器用な男すら巻き込むことになるだろう。それがルイは我慢ならないのだ。


「もし、ローマンズランドがなければ――」

「はい?」

「いや、そんなことは考えるだけ無駄だな。それよりワタシの出番は昼だ。少々周囲を歩いてくるとしよう」

「え、試合の準備しなくていいんですか?」


 レクサスの言葉に、ルイが呆れた。


「お前、わかってて言っているな? あんなに物騒な殺気を放つ男がいる控室で、落ち着いて準備ができると思うか?」

「ああー、あの自称格闘家ね」


 その知っているような口ぶりに、ルイが驚いた。


「知っているのか?」

「まぁ向こうもそれなりに有名人ですし、活動範囲が近かったせいでブラックホーク入団以前から知ってるんすよ。あいつがヤバいのは、本来武器を持ってからっすよ。罠、不意打ち、人質なんでもありです。まぁそれはこっちも同じなんで、勘が悪い分随分とからかってやりましたけどね」


 ルイが冷めた目でレクサスを見つめたので、レクサスが慌てて手を振って否定した。


「いや、以前の話っすよ? ブラックホークに入ってからは一切関わってませんし、その頃あいつは有名な格闘家に弟子入りしたとかでしばらく表から姿を消していましたから。その後、再び世に出てから有名になったんすよ。

 でも本当に恐ろしいのは、執念深さとしぶとさ。生き延びて執拗に相手を狙い、必ず仕留める。蛇みたいな執念があいつの最大の武器ですかね」

「お前はよくあいつに恨まれなかったな?」

「腐れ縁っていうか、それなりにやったりやられたり、あいつが雲隠れする時に手伝ってみたり、俺の方がヤバいことしてたり・・・あ、今のはなしなし」

「ほう? 面白そうな話だが――」


 ルイはトーナメントの組み合わせを思い出す。バスケスの次の相手はティタニアのはずだ。ルイもレクサスも、ティタニアが剣帝その人であることに気付いている。

 もちろんティタニアが負けるはずなどないのだが、良くない予感がするのも事実だ。



続く

次回投稿は、3/16(土)19:00です。

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