戦争と平和、その309~統一武術大会五回戦、アルフィリースvs森の戦士オルルゥ⑦~
「シイッ!」
オルルゥが繰り出す連撃を、アルフィリースが紙一重で躱す。今までどの競技者も躱すことはおろか、見極め防ぐことすらできなかった連撃をアルフィリースは躱しているのだ。
専守防衛で反撃すらままならない状態ではある。だが十数回の攻撃を躱したところで、アルフィリースが一度退いた。観客は既にこの試合が終わっていることにも気付かず驚嘆の声を上げ、狂戦士状態のオルルゥも驚く反応を見せる。
「やっぱり速いわね。でも、もう慣れたわ」
「ケアァア!」
オルルゥが怒りの表情で突撃した。同時にアルフィリースも前に出て、再度オルルゥと対峙する。アルフィリースの腰には木剣があるが、もはや試合が終了したこの状態では意味をなさないと判断したのか、手にすることもない。
アルフィリースはオルルゥの連撃が始まると、今度はそれらを素手で捌き始めた。10、20、30と捌くにつれ、アルフィリースが一歩前に出た。捌く度にアルフィリースの反応速度が上がり、対応に余裕が出る。
アルフィリースが一歩、二歩と踏み込むと、オルルゥが後退し始めた。攻撃しているのはオルルゥの方なのに、である。驚愕の光景に観衆は大歓声を上げたが、イェーガーの仲間はむしろ絶句していた。
「なんで・・・? なんでそんなことができる!?」
「信じられません。アルフィリースの反応速度は、オルルゥを上回ると言うのですか?」
「こんなことができるなら、なぜ最初からしない?」
その言葉に答えられる者は何名もいない。推測できているのは、リサ、ライン、それにレイヤーのみ。
「(アルフィリースの反応速度は、おそらくは魔術を使用した強制的な行動。他人に施す補助・間接魔術は非常に苦手だと言っていましたが、自分にかける分にはそれほど苦手でもないのかもしれません。
アルフィリースのここ最近の急激な近接戦闘の技術上昇は、精神修養で影と手合せをしていると言っていました。その際に魔術の使い方のコツも教わっているのでしょう。魔術を併用した近接戦闘では、大陸でも有数の使い手になっているのでしょうね。
もはやアルフィリースと互角に近接戦で渡り合うためには、何らかの補助がない限り魔獣とて一筋縄にはいかないでしょう。人間のそれを大幅に上回っています)」
「(魔術もそうだが、棒術ってのは間合いに入られると圧倒的に不利。にも関わらずオルルゥが圧倒しているのは、初撃の上手さ。一手目で相手を確実に崩すことによって、連撃を成功させている。
相手を崩す攻撃と、ダメージを与える連撃をつなぎ合わせ、相手の動きを封印してあたかも一方的に攻め立てているように見せていることだ。だがアルフィリースはその初手を見切って封じた。オルルゥ並みの棒術使いと訓練した経験があるな?)」
「(エルシアもそうだけど、団長の特徴も見切りの良さなんだよね。体の反応速度さえ追いつけば、副長も上回るんだろうな。魔術で反応速度や筋力的な問題を解決できるなら、理屈の上では近接戦では負けようがない。
もちろん一定以上の技術に裏打ちされていないと駄目だろうけど、正直反則みたいなものだね。まぁ、魔術をあれだけ使えてなおかつ格闘技術まであれほど修得している人間が、一体世の中に何人いるのかって話になるのだろうけど)」
三者三様の思考は似た結論に達していた。そして彼らの考えは、アルフィリースの目論見をずばり当てていたのである。
「(やっぱりだわ。初撃さえ封じてしまえば、ある程度繰り出す攻撃は想定される。単純な攻撃速度では師匠を遥かに上回るけど、意外性のある攻撃は一つもない!
師匠とのやり取りでは、必ず予想不可能の攻撃で逆転されていた。『偉大なる人物』から一本取ったのも、棒術でと言っていたわね。その予想不可能の一撃がオルルゥにはない。
それはそうだわ、これだけ逆上した状態で、本能以外の攻撃が繰り出せるわけがない。リサの薬の原材料は、南の大森林原産のものもあったはず。オルルゥの切り札として想定していたけど、その通りになるとはツキはこちらね!)」
アルフィリースが棒を払う左手に力を込めた。そもそもオルルゥが使っている棒とは質も太さも違う。それが影響していることも間違いないが、払っていた攻撃をアルフィリースが打ち落とすと棒が半ばから砕けたのだ。
この瞬間、アルフィリースが攻勢に出る。
「勝機!」
「ウォアアア!」
オルルゥの態勢が流れたのを見て、アルフィリースの拳がオルルゥの急所に迫る。だがオルルゥは前に倒れながら、後ろ脚を上げるようにして蹴りでアルフィリースの顔面を捉えた。
アルフィリースにはこの攻撃が見えていたので、顔面に魔術を集めてガードすることには成功したが、一瞬オルルゥの全身が視界に収まらない。そして腹部に突然熱い痛みが走ったのを感じると、アルフィリースは再度飛びのいた。
「うっ!?」
「なんだ、ありゃあ?」
ラインが叫んだが、アルフィリースの体に剣で斬ったかのような傷が複数できていた。特に腹部の傷は大きく深い。
これを見ていたゴーラとベルゲイが別の場所でそれぞれ呟いた。
「肘、脛。それに――」
「手刀か」
オルルゥの各所にアルフィリースの血が付く。これを見たロッハが唸った。
「狂戦士状態のワヌ=ヨッダの戦士は全身が武器だ。武器を奪っても、獣人と素手で渡り合うことも珍しくない」
「なんだそりゃあ。人間か?」
「獣人と渡り合う戦闘部族だぞ? 魔獣と隣り合わせに暮らすということは、人間も相応の進化を遂げるのだろう。むしろここからが本領発揮ではないのか?」
ロッハの不吉な予言と共に、オルルゥが雄たけびを上げた。
続く
次回投稿は、3/8(金)19:00です。