戦争と平和、その307~統一武術大会五回戦、アルフィリースvs森の戦士オルルゥ⑤~
オルルゥが炎の中に消えた後、会場は騒然としていた。まさか武芸大会で大炎上に人が呑まれる様を見ることになるとは、誰も思っていなかったからだ。
炎が広まる速度も異常に早かった。オルルゥが成すすべなく呑まれていったのだ。これにはイェーガーの面々も呆気に取られており、この建造物に関わった面々ですら同様だった。
「あんなことができたのか・・・?」
「知らねぇよ。別々に作ったものを、組み上げる指示をしたのは団長だ。団長しか全部の図面は知らねぇんだからよ」
「ははぁ~、暇さえあれば図面を引いているとは思っていましたが、一つはこれですか」
コーウェンが納得したように頷いた。そこにドワーフの面々が驚きの声を上げる。
「図面ってなんだ?」
「団長殿は暇さえあれば色々な設計図を書いています~。特に仕掛け物が多かったですね~。最近だと~、一人で運転できる攻城車なんてものを創作していました~。斜面での動力が得られないとかで結局断念していましたが~、見る限り平地での攻城戦なら十分使用可能かと~」
「げえっ。新しい武器だけじゃ物足りなくて、そんなものまで作らせるつもりかよ!」
「ドワーフが仲間になったから~遠慮なく注文できるって喜んでましたよ~。城攻め屋プラフィールモロトから色々接収したけど~発展形にようやく取り掛かれるって言ってましたし~」
コーウェンがさらなる仕事の予感をにおわせたので、さしも屈強なドワーフたちもへなへなとその場に座り込んだ。とりあえず一晩の休息と、酒が彼らには必要だろう。
勝負が決したと思ったのかどこか緩んだ空気の中、エアリアルがリサにそっと近づいた。
「あれは死んだのではないか?」
「見た目が派手なだけで、どうやら低温の炎のようですね。アルフィリースがいつか研究していたのを見たことがあります。ハッタリはデカ女の得意とするところでしょう」
「アルフィリースのことを知ってから日は浅いですが、少々卑怯に過ぎたのでは? これでは勝ったとしても、相手も納得しないのではないでしょうか」
ウィクトリエの言葉ももっともだったが、リサは否定した。
「あのデカ女はああ見えて、肝心な部分では正面からの攻勢を望みます。ですが思い出してください、みなさん。ウルスとの激闘のせいで、昨晩まではベッドで安静にしていなければならなかったのですよ? それがほぼ徹夜で動き回り、今日を迎えているのです。まともな状態で戦えていると思いますか?」
「では」
「一晩で強くなれるわけでもない、そして正面から戦うだけの体力もない。そこで考えた苦肉の策というのが、正直なところでしょう。
実際のところ、立っているのもつらいと思っているのですがね」
リサはアルフィリースが使った薬のことを知っている。あれの副作用はそれほど生易しいものではない。一度使うと、3日は反動でまともに体が動かせないこともある。めまいも吐き気も酷かったし、おそらくはアルフィリースも同様のはずだ。アルフィリースは見た目よりも我慢強いところがあるのをリサは知っている。
本来なら数日の静養を要するはずである。それがここまで動くとなれば、まさか連日で薬を使用するなどという馬鹿げた行為に出ていないかどうかを案じるリサである。
そして競技場の上では、アルフィリースが残した足場からゆっくりと降りてくるところだった。会場での惨事に救護班が飛び出してきたが、ブランディオが彼らを手で制した。オルルゥの風船が全損したところは確認したが、まだ砂時計が落ち切っていない。この時点で救護班が手を出せば、自動的にオルルゥの失格となる。それを避けたのだ。
審判の制止とアルフィリースの行為に、会場からは非難の声が飛んだ。だが当のアルフィリースは油断なく崩れた木材の山を見つめ、ブランディオはそのアルフィリースを観察していた。
「アルフィリース、あんさんを信用してもええんやな?」
「さぁ、どうかしらね。私も私を信用しきれていない時があるから」
「禅問答はええねん。死んどらんやろな?」
「この程度で死ぬような相手だとは、肌を合わせた限りでは思わないんですけどね。炎だって見せかけだし・・・それより、時間はまだ?」
「あとも少しや。5・・・4・・・」
ブランディオが数えていたが、そこで木材の一部が崩れてそこからオルルゥが姿を現した。炎は実際に低温だったらしく、オルルゥには火傷の様子は見られない。
会場は盛大な歓声を送ったが、オルルゥの異変に気付いたのはアルフィリースもブランディオも同様だった。そして立ったまま反応のないオルルゥを見て、ブランディオが砂時計が落ち切ったのを見てアルフィリースの勝利を宣言する。だがその声が、観衆の大歓声でかき消された。
そしてオルルゥは試合が終わったにも関わらず動き始めた。その辺にあった手ごろな木材を手折り、即席の棒にした。まだ戦う気なのだろう。試合が終わったことに気付いていないのかと考えたブランディオがオルルゥに近づくと、ブランディオの鳩尾にオルルゥの棒が深々とめり込んでいた。
続く
次回投稿は、3/4(月)20:00です。