戦争と平和、その305~統一武術大会五回戦、アルフィリースvs森の戦士オルルゥ③~
「アルフィ、何やってやがる?」
アルフィリースは既に競技場の上にある、三角錐の木造建築を昇り始めていた。これには審判であるブランディオも驚いたが、血化粧をしたオルルゥも驚きに目を剥いていた。
そしてアルフィリースが半ばまで登ったところで、叫ぶ。
「武器をいじっちゃだめだなんて、誰が言ったの? オルルゥ! あなたが昇り始めたら、試合開始よ!」
「――ハハハ、オモシロイヤツだ」
オルルゥは背中から長い方の棒を取り出した。
「シンパン、アイズはイラヌ」
「そうもいきませんって言いたいけど、もう走り始めて――ああ、もういいや。勝手に始め!」
ブランディオのいまいち引き締まらない合図とどちらが早かったのか、オルルゥは既に台を昇り始めていた。アルフィリースが四肢を使ってよじ昇るのに対し、オルルゥは脚だけでいとも簡単に駆けあがっていく。
アルフィリースは既に上層に差し掛かっていたが、オルルゥがあっという間に半ばまで駆け上がる。だが、そこでオルルゥが突然足を滑らせた。
「? アブラか」
一部の木材には油がまんべんなく塗られていたので、オルルゥはそれで足をとられたのだ。一つ間違えれば真っ逆さま、打ちどころを間違えれば死ぬ高さである。
よく見れば、建築物のそこかしこには仕掛けが施してある。ささくれにみせかけて『返し』がついている足場もあるし、太さが変わったり強度が変わったりと、昇りにくくなるように工夫が施してあった。
オルルゥはそれらを見て煩わしく思うのではなく、実に胸を高鳴らせた。
「ナルホド、コレはオマエのモリか!」
「いえいえ、ただの武器ですから!」
武器、という体で会場に持ち込んだ以上、それを貫き通すアルフィリース。懸命に頂点を目指すが、アルフィリースがもう一歩というところで、オルルゥが先に頂点に立ちあがり、アルフィリースを見下ろした。
「ザンネンダな、ワタシがサキだ」
「ええ、そうなると思っていたわ。そこに立たせるのが目的よ!」
アルフィリースが右手で掴んでいる木材を回す。すると、頂点を組んでいた木材が突如として崩れてオルルゥは宙に放り出された。そのまま地面に落ちれば即死の高さだが、途中にはしっかりと木材が組んであり、オルルゥはそのうちの一つを掴もうとした。
だがそのうち一つは油で滑り掴み損ね、咄嗟に足を掛けると激痛が走った。確認ができなかったとはいえ、返しがついた木材を思い切り踏みつけたのである。木材にもそれなり以上に固いものは存在し、オルルゥの足の裏に返しがついた突起が刺さっていた。抜こうとすると、さらなる激痛がオルルゥの足に走った。
「ヌゥ・・・!」
オルルゥが返しを壊せないかと試みるが、その隙にもアルフィリースが外側から降りて来て、さらに木材の一つを回した。すると今度はいくつかの木材が外れ、オルルゥめがけてまるで振り子のように多方向から襲い掛かったのである。
「コノテイド!」
振り子の速度は早いとはいえず、片足を固定されたままオルルゥはあっさりとそれらを捌いた。だが固定された足を狙ったものは躱しきれず、命中した時にオルルゥが激痛に顔を歪めた。
その瞬間をついて、絡まり合った振り子の紐がまるで網のようになり、オルルゥの体に絡みついた。そしてオルルゥの動きを封じると縄は固定されていた部分から外れ、まるで罪人の枷のようにオルルゥの動きを制限したのだ。
逃れようともがくオルルゥ。そしてオルルゥが対戦相手であるアルフィリースのことを一瞬忘れ、足に刺さった返しを無理矢理引き抜いた瞬間である。
「ようやく隙を見せたわね」
手に持った鞭を足場に巻き付け、アルフィリース自身が振り子のように飛んできた。そのまま飛び蹴りでオルルゥを吹き飛ばし、オルルゥを外に押し出そうとする。
オルルゥはアルフィリースの蹴りをまともに受けながら、すんでのところで耐えた。足はまたしても滑る木材だったが、両腕を広げるようにしてひっかけて耐えたのだ。
その目の前にいたアルフィリースが、今度は建築物の一部を回している。すると一部の木材が外れて、アルフィリースの手に収まった。
「ドレダケシカケテイル!?」
「私の悪知恵が働く限りかしらね、せいやぁ!」
アルフィリースの突きを逃れようとしたが、オルルゥの足元が滑ってまともに動けない。オルルゥはアルフィリースの突きを腹に受けると、そのまま体が建築物の外に舞った。
既に半ば近くまで落ちてきたとはいえ、このまま落下すれば怪我では済まない高さである。それに、闘技場のほぼ限界の広さまで建築されたここから外に落ちることは、そのまま場外を意味する。
観客から「ああっ」という悲鳴が聞こえたが、冷静なのはオルルゥ本人だった。背中の棒を取り出すと、身を翻して地面に突き刺し、しなる反動を利用して再び建築物に取りついた。その身のこなしの見事さに観客が拍手をしたが、アルフィリースはオルルゥの棒が場外に置き去りになったのを確認すると、無表情のまま建築物の中に戻っていった。
対するオルルゥもまた、慎重に建築物の情報を睨み据えていた。
「すげぇな、団長。どれだけ罠を仕込んだんだ?」
「あんなものじゃありませんよ~。ただ大きな木造の建築物を組むだけなら~、ドワーフのみなさんで2刻もあればできます~。木材の一つ一つに至るまで~、団長の罠だらけです~。よくもまぁ、これだけの罠を思いつくものだと感心することしきりです~」
「卑怯さ加減については、デカ女の右に出る者はいないでしょう。ですが・・・」
リサがオルルゥの様子を探る。呼吸も体温も、戦いの前よりも下がっているように感じられた。戦いの前の高揚から覚め、冷静になっているのだ。
続く
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