戦争と平和、その303~統一武術大会五回戦、アルフィリースvs森の戦士オルルゥ①~
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「なんだあれ・・・」
「なぁ、ここは統一武術大会の会場だよな?」
「ああ、そのはずだが」
統一武術大会の会場に集まった観客たちがざわめていた。それもそのはず。円形である競技台の上に、巨大な建造物が一夜にしてできていたからだ。
大きさはゆうに人の10人分の高さを超え、樹で組まれたまるで子供の遊戯場のような建造物。小さければ子どもも喜んで上るだろうが、いかんせん大きすぎて呆然と見上げるばかりである。
それはまた審判を務める者達も同じだった。その日の審判を任されるべき者達がその場にいたが、ブランディオとウルティナが呆然とそれを見上げていた。
「これ、いいんでっか?」
「ミランダ様に確認したわ。そうしたら、『確かに巨人族が参加することを考慮して、武器の尺については規定を作っていないけど』とおっしゃっていたわ。
つまり、これはアルフィリースの武器という認識よ。アルフィリース自身が昨晩遅くにミランダ様の寝所にまで押しかけて、確認を取ったらしいわ」
「いやぁ、あの女団長らしいといえばそうやけども」
ブランディオは見上げながら考える。これだけの大きさである、当然持ち運べるはずもなく、おそらくは夜半、いや夕刻から設置に取り掛かったのだ。昨晩はアルネリアによるティタニア包囲戦が展開された関係上、日が変わるまではイェーガーが会場警備の責任者だった。会場内への立ち入りは、問題ないといえばない。
そして、アルフィリースの試合はレイファンの護衛を務める関係で、早朝ないしは昼のみと決まっている。早朝一番であれば、前日の試合終了後には伝えられているはずである。
おそらくは、この日この時でなければ設置できなかった武器に違いない。
「運なのか何なのか、思いつきか狙っていたのか。これで何するか楽しみやんなぁ・・・ところでウルティナさんよ」
「何かしら?」
「審判交代してくれへん? ワイ、こんなけったいな試合の審判はようやらんよって」
ブランディオが両手を合わせて頼み込んだ。だがウルティナは冷たい視線を送っただけでそれを受け流す。
「いやよ。どうして私が」
「これ、絶対互いに昇って戦うやんなぁ? そしたら審判も昇る必要があるやんな?」
「そうでしょうね」
「そうしたらあんさんのスカートがめくれたりとかして、観客が喜ぶんちゃうか・・・って。あっ、殴らんといて。しかも光る御手でやるの止めてぇ!」
ウルティナがブランディオを追い回しながら会場を出て行った。二人のことを知らない人間たちは少し呆気に取られていたが、メイソンは、
「仲がクソおよろしいことで」
と、眼鏡のずれを直しながらつぶやいていた。
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そして対戦相手であるオルルゥもまた、控室のざわめきにつられて会場の様子を見に出てきていた。そこにある建造物を見て、オルルゥの直感が告げる。
「モリのタタカイ・・・ソウカ、ワタシにトクイなバショでのタタカイをイドムか。オモシロイオンナだ。ソレデハワタシもセイイッパイのモテナシをセネバナラヌな」
オルルゥは建造物を少々真剣に眺めると、再度控室に戻っていったのだった。
そして会場が満員となり、その場にいる者達が妙な期待感と戸惑いでざわめく中、イェーガーの者達が巨大な建造物を前に口々に感想を告げていた。
「これですか、昨夕から慌ただしかったのは」
「そうですよ~アルフィリースが突然持ってきた図面を元に現場指揮させられて~。結局一睡もしていませぇん~」
リサの隣でコーウェンが会場の手すりに顎を乗せてへばっていた。そのほかにも眠そうな者を団内でニアは多数見かけている。どうやら少なくない人間がこのために駆り出されていたようだ。
ニアは木造の骨組みで組まれた巨大な三角錐の建造物を見ながら、感想を漏らしていた。
「子供の頃、こういう場所で遊んだな?」
「ああ、それなりに深い森に行けば木々の間をくぐって遊ぶのは日常だった。しかし相手は森の戦士オルルゥ。この仕掛けは逆効果ではないのか?」
エアリアルの感想をウィクトリエが否定する。
「しかし、この中に入ってしまえば棒術は振るえないでしょう。その場所があるとも思えません」
「だが森の戦士は徒手格闘も一流だ。まして木の足場を利用した立体的な戦い。棒術を封じても、これでは不利では? それともアルフィリースは森林戦が得意なのですか?」
「ふん、あのデカ女がそんな殊勝なタマなものですか。性悪い仕掛けがあるに決まっています」
リサが吐き捨てるように、しかしどこか面白そうに答えていた。が、それはアルフィリースを知る誰もが同じ気持ちだったので、何かしら面白い勝負になると誰もが感じていたのは事実だった。
続く
次回投稿は、2/24(日)20:00です。