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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その302~統一武術大会五回戦前⑤~

***


――統一武術大会、五回戦――


 本日も空は青く、会場には多くの人が足を運んでいた。現在開催中の部門は複数あるが、中心となるのは総合部門と、並行して行われる女性部門である。

 今回は総合部門で行われる試合に多くの女性が参加しているため、疲労度や進行具合を考慮し、総合部門で実績を上げている選手は本戦のいくつかを免除されることになっている。

 そしてイェーガーの参画もあってか、女性部門は総合部門に劣らない参加人数となり、予選から参加した選手にとっては、10回は戦わないと優勝できないというほどの盛況ぶりだった。

 女性部門の半数近くがイェーガーの傭兵ではないかと言われており、イェーガーでは朝から連れ立って会場に向かう傭兵達が多かった。競技としては総合部門ほどの迫力はないかもしれないが、華やかな戦いを期待して会場に足を運ぶ観客は多い。

 そんな戦いに緊張の面持ちで向かう女性がいた。エルシアである。


「ふぅー、本戦かぁ・・・」


 エルシアは見事予選を勝ち抜いて、本戦へと駒を進めていた。本戦での組み合わせはまだ不明だが、予選会で勝ち上がっていった傭兵はおおよそがB級以上で、エルシアは番狂わせ中の番狂わせだった。後で知ったことだが、エルシアの勝ち抜けには数十倍の掛け率がついており、ひと山当てたイェーガーの仲間から昨晩奢ってもらうことになった。

 出場する面子の一覧だけはある程度わかっていたが、ちょっと見ただけでも目が眩むような名前ばかりである。ディオーレ、ティタニア、ティーロッサ、リリアム、アルフィリース、ヤオ、ロゼッタ、ドロシー、バネッサ――現在勝ち抜けている者達は2回戦までは最低免除されることが決まっているが、状況によっては最悪リリアムと一回戦で当たることもありえるのだった。

 どの名前を見ても、またイェーガーの仲間でもそうそうたる面子が本戦には勝ち上がっており、エルシアの緊張も無理からぬことだった。エルシアは朝気を取り直しては大きくため息をつく行為を、朝から何度も繰り返していた。


「あー、青い空が恨めしい」

「何詩人みたいなことを言っているのさ」

「きゃあ!?」


 突然背後からレイヤーに話しかけられたエルシアが悲鳴を上げた。レイヤーとしては気配を消していたわけではなかったので、むしろエルシアの反応に驚かされた。


「脅かさないで!」

「こっちのセリフだよ? どうしたのさ、一体?」

「うるさいわね、緊張しているのよ!」


 緊張している、と言葉に出すと、すっと肩の荷が下りたような感覚になったことをエルシアは自覚していた。

 そしてレイヤーもまた、エルシアの心境を鋭く掴んでいた。


「今日が女子部門の本戦抽選会だっけ?」

「そうよ! どんな組み合わせになるのか、誰も彼も強敵過ぎて気になるじゃない?」

「へぇ、勝つつもりでいるんだ」


 レイヤーの言葉にエルシアがはっとした。そもそも相手は誰でも格上なのである。それに対し、勝つつもりでいるからこそ緊張していると、今初めてエルシアは悟った。

 レイヤーが身支度を整えると、すぐに席を立った。


「じゃあ見に行こうか」

「え? 仕事は?」

「朝はないよ。ゲイルと試合でも見に行こうかと思っていたんだけど、ゲイルはロゼッタに連れ去られていったよ。朝の肩慣らしと、ついでに応援までさせられるんだってさ」

「すっかりロゼッタの弟分ね」


 エルシアは苦笑いすると、エルシアとレイヤーは連れ立って食堂を出た。その際に、幽鬼のようにふらつきながら食堂に入っていく一団を見た。ドワーフ、シーカー、エルフ、それにコーウェンである。珍しい取り合わせなので声をかけようかとも思ったが、


「団長は鬼だ・・・」

「夜中にたたき起こされて、そのまま強制労働とか・・・」

「腰が痛い」

「う~徹夜がこたえるとは、歳ですかね~」


 などと口々にアルフィリースへの文句を垂れていたので、やめておいた。

 そして会場前につくと、結構な人だかりができていた。人ごみを潜るようにかき分けると、そこにはリリアムがたまたまいたのだ。


「あら、仲が良いわねお二人さん?」

「げ、リリアム」

「対戦相手は決まった?」


 レイヤーの言葉に、リリアムがすうっと指差す。緒戦の相手はイェーガーのB級傭兵だった。


「高名な選手は同じブロックにあまりいないわね。準決勝くらいまでなら普通にいけるかもしれないわ」

「凄い自信じゃない? 勘違いで終わらなければいいけど」

「自信じゃなくて、確信よ。知らない名前には要注意だけど、全て一度試合を見るか情報のある相手ばかりだから。一回戦で負けてから、大会の強そうな女性競技者を一通り見て回っていたしね。

 誰かさんがちっとも相手をしてくれないから、暇で暇で」


 リリアムがそう言って悪戯っぽくレイヤーをのぞき込むと、レイヤーはのけぞるようにその視線を避けた。エルシアがリリアムの頭を掌でどけようとしたが、絶妙に躱されていた。


「それよりエルシア、あなたのブロックは大変よ? 私のところまで上がってくるのは無理じゃないかしら?」

「は? そんなのやってみなけりゃわからないわ!」

「そう? じゃあ頑張ってみてね」


 リリアムがエルシアの名前の場所を指して去っていったが、確かにその周辺の名前を見てエルシアは一瞬で青ざめていた。レイヤーもまた、苦い顔をするしかなかったのだ。


「何よこれ・・・ありえない」

「一回戦、紫陽花の君ティーロッサ。二回戦、ミュラーの鉄鋼兵サティラ。三回戦、アルフィリース。四回戦、ヤオ。準々決勝、ティタニア。で、その次がリリアムか。

 うん、確かに厳しいね」


 レイヤーは正直に感想を述べただけだが、エルシアはしばし呆然としたままその場に立ち尽くしていたのである。



続く


次回投稿は、2/22(金)20:00です。

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