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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
1745/2685

戦争と平和、その283~会議八日目、夜①~

***


「さて、侵入したはいいんだが・・・」


 のっぺらぼうは一つの依頼を受けて、ある人物の元に潜入していた。のっぺらぼうの本領は暗殺だけでなく、情報収集や破壊工作である。一番であるバネッサは戦闘以外の作業は得意ではないため、のっぺらぼうが赴かざるをえない。本来なら3番が一番得意とするのだが、もういない以上仕方がない。

 のっぺらぼうは給仕の一人に成り代わると、目的とする場所に潜入していた。今回の会議での最重要人物となっている、シェーンセレノの宿である。

 シェーンセレノの場合、一つの宿を丸ごと借り切っていた。小国では一つの宿に複数の使節団が宿泊している時もあるが、シェーンセレノは小国ながら護衛の数も多く、一つの宿を丸ごと借り切っていた。そして現地で下働きや傭兵を雇い入れたらしく、かなりの人数に膨れ上がっているのである。


「(まぁそのおかげで潜入も容易いんだけどな)」


 のっぺらぼうは自然に振る舞いながらもそっと周囲の様子を伺ったが、それにしても数が多い。調べた限りではシェーンセレノの使節団は中程度の規模であり、自国の出発時には10名程度だったはずである。だがこの宿にはいまや100名を超える人数がいるように見える。

 大国にもなると毒を盛られる可能性も考慮して料理人までもを連れてくる国もあるが、シェーンセレノはそれすらも現地で雇い入れ、そして宿内を自由に通行させているようだ。

 のっぺらぼうは給仕の振りをしながら様子を伺っていたが、どうやらシェーンセレノの部屋にすら特定の給仕がついているわけではないらしい。無防備極まりないのではと逆に訝しむのっぺらぼうだが、鈍臭そうな給仕の一人に目をつけるとそっと足を引っかけた。


「うわぁ?」

「おっと」


 給仕の持っていた料理が宙に舞うとのっぺらぼうはそれを一部受け取り、給仕に手を貸してやった。


「おいおい、大丈夫かよ」

「ああ、料理が台無しだ。どうしたら・・・」

「俺のせいだな。俺が代わりに謝っておくから、お前は別の仕事をしろよ」

「え、でも」

「いいから行けって。馬鹿正直に謝って報酬を減らされる必要もないだろう。これだけ人数がいるんだから、適当に誰かがこぼしたことにすればいいんだよ。どうせこの場限りの雇われなんだからさ」

「お、恩に着るべ」


 おそらく田舎の出身なのだろう、農民風の口調が思わず出た給仕はその場を去っていった。のっぺらぼうはまずその料理の体裁を整えると、シェーンセレノの私室の方に歩いて行った。

 さすがに部屋の前に護衛は二人いるが、これまたあまり風体の良い男たちではない。傭兵、しかもそれほどランクも高くないあぶれ者のように見える。


「待て、どこに行く?」

「どこも何も、シェーンセレノ様に料理を持ってきたのですが」

「今は頼んでいないぞ? それに先ほどの給仕とは違うようだな?」

「知りませんよ、俺が行くように言われたんですから。必要なら確認に戻りますが、料理が冷えて文句を言われるのはそちらですよ?」

「む・・・」


 傭兵は困ったような顔をしたが、互いに顔を見合わせると通っていいと無言で顎で示した。

 のっぺらぼうは軽く会釈すると、部屋に入っていく。そして中に入って驚いた。


「(――部屋の中に、これほどの人間がいたのか?)」


 のっぺらぼうは人間の気配には敏感だ。壁一つ隔てた程度なら魔術による阻害があろうが、呼吸、心音、気流の流れである程度の人数がわかる。魔術士というものは不思議と壁には注意を払うが、天井と床にはそれほど気を遣わない者が多い。ゆえに上か下から感知すればある程度の人数は絞れるし、さきほど階下にいる時にはせいぜい5人程度が中にいるだけだと思っていたのだが。

 中には、10人を超える人間がいたのである。


「(使節団と、護衛の兵士か。現地で雇った人間もいるようだが――これは)」


 のっぺらぼうは一通り中の人間の表情を確認したが、姿形に統一感はない。文官、武官、兵士、傭兵、そして傍仕えの侍女。だがそれらがずべて、同じようにのっぺらぼうのことを見ていた。

 もちろん部屋に入った者に対して注意を払うのは当然とはいえ、全員に一斉に見つめられると思わず息を呑んでしまう。

 部屋には13人いたが、それでも広く感じるほどの空間がある。どうやら元の構造の部屋を少し改造したようだが、そうだとしたら宿ごと買い上げたのかもしれない。それならばもう少し魔術防御など施してしかるべきだが、そのあたりがちぐはぐで、不格好な印象をのっぺらぼうは覚えていた。

 部屋はさらに奥まっており、奥の扉の先にシェーンセレノがいるようだった。誰も何も言わないので、のっぺらぼうはゆっくりとそちらに歩き始めたが、全員が視線で追うのみで誰も何も言わず、止めもしなかった。

 全員に襲い掛かられたところで問題にするのっぺらぼうではないが、さすがにこれは不気味だと言わざるをえない。



続く

次回投稿は、1/16(水)22:00です。

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