戦争と平和、その280~悲願㊵~
「ワレワレは、カラミティがニンゲンダッタコロからシッテイル。カラミティをトメルコトがデキナカッタソセンは、カラミティのシンコウをクイトメヨウと、タイリクのナンタンにテイジュウし、カラミティがタイリクをワタルコトをソシシヨウとシタ。
ソレがワレワレ、ワヌ=ヨッダのセンシダンだ」
「カラミティが人間? カラミティとは何者なの?」
「カラミティは『ミコ』だ。シゼンとチョウワをトリ、ケイジをウケル。ニンゲンとしてはタグイマレなチカラをモッタ、マジュツシダッタ」
「それが本当なら、一族でも大切に扱われるんじゃねぇのか? なんでああなった。どう考えても人間に対する恨みしかねぇぞ、あれは」
ラインが口を挟む。何度もカラミティと対峙したラインだからわかる。あれは底知れない怨念と憎悪で動いている。いつも人をくったような態度をとりもするし策も練るが、その本質は人に対する怒りしかないと。
オルルゥはやや言いにくそうに続けた。
「カラミティのコトはもうセンネンチカクモマエノコトにナルカラ、ドコマデセイカクかワカラナイが――カラミティはヒドイ『シコメ』ダッタソウダ」
「しこめ?」
「醜女――ようはとんでもない不細工だったということよ」
ラインの疑問にアルフィリースが答えた。オルルゥが頷き肯定する。
「ソウだ。ソレもフツウのミニクサデハなく、ミルにタエナイフウボウだったラシイ。ダカラミコでアリながら、イケニエとサレタ。シンジュのモリ――イマデハ『八重の森』とヨバレルバショの、ヌシタチへとササゲラレタのだ。
シンジュのモリのヌシ――『神獣』とも『神樹』ともイワレルモトとナッタゲンキョウ。キョダイなムシと、キのバケモノ。ハクギンコウともゴカクにタタカウとイワレタ、バケモノニタイ。ソレのチュウサイをシロナドと、バカゲタメイレイをダシタノダ」
「それは――実質、死ねと言っているようなものね。体のよい厄介払いだわ」
「ソノトオリダ」
オルルゥは強く頷いた。
「カラミティは――ナキサケビナガラ、モリのオクフカクにオキザリにサレタとキイタ。ヒトヒトリではハンコクとイキラレヌほどカコクなモリにタダヒトリ――ソノゼツボウはイカホドダッタロウカ。
ホンライのカラミティはタタカイをコノマヌ、オトナシイセイカクダッタソウダ。ダガスウネンをヘテカエッテキタカラミティは、バケモノとナッテイタ。ダレもテニオエヌバケモノへと」
「それが悲劇の始まりか。迷惑な話だ」
ラインがため息をついたが、ここまではパンドラの断片的な情報の穴が少し埋まったような気がするアルフィリースである。パンドラは姿を小さくし、まるで部屋の内装のように机の上に座しているが、もちろんこの話は聞いているだろう。現に、オルルゥに背を向け見えないように腕を組んでいた。おそらく、表情があれば気難しそうにしているに違いない。
今度はアルフィリースが口を開いた。
「カラミティの発生はわかったわ。現在問題なのは、倒し方を含めた対策、そして本人がこちらに来ているということよ」
「アア、ケハイでソレはワカッテイル――マズカラミティのセイシツだが、カラミティはオヨゲナイ」
「泳げない? カナヅチですか?」
エクラのそんな馬鹿な、といった表情にオルルゥは真面目に答えた。
「アア。モトモトのトチがミズにトボシイし、ホンタイはムシとキのユウゴウタイだ。オヨゲナイとカンガエテムジュンシナイ。
ダカラワレワレもウミをワタッテニゲタ。ウミをワタレば、シュウゲキシテクルムシのシュルイはカギラレテイタカラ。ブンタイやキセイされたコタイもオナジ」
「なるほど。つまり泳げない奴がカラミティの関係者ないしは本体ってことだな?」
「それが本当だとして、どうやって見分けるんですか? まさか各国の使節を片端から水の中に放り投げるわけにもいかないでしょう?」
得たりとばかりに頷いたラインに、エクラが反論する。だがラインも負けじと言い返す。
「ローマンズランドの使節団だけ放り投げりゃいいさ。席の下に穴でも空けてな」
「国際問題になりますよ!」
「アルネリアのせいにすりゃいい。どうせ元々険悪だろ?」
「だめよ。ローマンズランドはそもそも水の資源に乏しい国。飲み水を雪解け水に頼り、慢性的な水不足に困ることもある国で、泳げる国民がどれほどいると思う?」
アルフィリースの指摘に、ラインとエクラが黙った。面白くなさそうな表情をする二人に、オルルゥが続ける。
「ムシもキも、ミズやレイキをイヤガル――ソレダケでもサンコウにはナルダロウ」
「それはそうね。でも肝心な要件を言っていないわ。どうしてアルネリアではなく、私たちのところに来たのか、ということ。カラミティを打倒するなら、私たちではなくアルネリアに行くべきではないの?」
アルフィリースの指摘はもっともだったが、オルルゥは澱みなく返答した。
続く
次回投稿は、1/9(水)23:00です。