戦争と平和、その276~悲願㊱~
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「いやー、さすがグンツは良い仕事をするねぇ?」
「馬鹿っ、俺は死ぬところだったぞ? ティタニアが正面にいるなんて聞いてねぇ!」
「でもでも、みぃんな台無しになったんじゃない?」
ドゥームはグンツと共に撤退していた。最後、ティタニアがいかなる魔術を使用したかは不明のままだが、ティタニアの気配が忽然と消失し、シェバもドゥームもその気配を辿れなかったことでドゥームはあっさりとティタニアを諦めた。
そもそも所在をつかんだところで、もはやどうこうできるだけの力は残していない。だがささやかとはいえ正面を切って反逆したことと、煮え湯をティアニアに飲ませたことでドゥームはそれなりに満足していた。どのみち、ティタニアをこれしきでどうにかできるとは思っていない。
それはシェバも同じだったのか、もちろん本気で殺しにいっていただろうが、同時にティタニアを追い込み切ることで大魔王ペルパーギスが復活することも知っていたようである。戦力を小出しにしていたのも、ティタニアの限界を見極めるつもりだったのだろう。食えない婆だとドゥームは考えたが、遺跡に関する情報交換も少しできた。取引もできる相手だし、知り合ったことは有意義だったと考えるドゥームである。
グンツがドゥームに質問する。
「頼まれた通り、バスケスと戦っていたあの筋肉ダルマを捕まえ、ティタニアに向けて放り投げたぜ? だがあいつらが消えるところまで予想していたのか?」
「・・・ま、なんとなくね。ティタニアは伝説の武器を収集する過程で、敵に囲まれた状態からいきなり消えるってことが何度か確認されている。ティタニアの魔術は転移ではない、移動系の何かと踏んでいたんだよ。正体までは知りはしないけど、ティタニアが部下や仲間をもたず、常に単独行動でオーランゼブルの依頼をこなしていたのも、そのあたりが原因じゃないかと予想していたんだ。ま、推測の域を出なかったけどね」
「ふぅん。ドゥームよぉ、これでアルネリアはティタニアを見失ったし、討ち手もそれなりの損害を受けた。ティタニアも浅くはない傷を負った。拳を奉じる一族とやらは全滅とはいかねぇが、壊滅状態でティタニアも討ち漏らした。お前がご執心のジェイクも意識不明。全員台無しになったんだろうが、一人だけ思うようにならなかった奴がいるんじゃねぇのか?」
「バスケスかい?」
「そうだ」
ドゥームも最後に別れた時の光景を思い出す。バスケスは片脇に少女を抱えていた。確かシャイアとかいう統一武術大会の参加者だったはずだ。その後少女がどうなったのか。ドゥームは興味があったが、それを見届けるほどの余力はなかった。ただ、ろくでもないことになったことだけは想像に易い。余力があればどうするか聞いておいて、適切な助言をできたのだが。
一方、グンツは気に入らないようだった。同族嫌悪とでもいうのだろうか、バスケスに対して対抗意識のようなものを抱いているようなのだ。
「バスケスの野郎、自分だけ楽しみやがってよ。こっちは脚と腕をやられたってのに・・・」
「いいじゃないか。どうせ数日で生えるだろ?」
「痛くねぇわけじゃないんだぞ? 脚が新しく生える時の痒さといったらよぉ、もう女の2、3人でも犯し殺さねぇと我慢できねぇくらいなんだぞ!?」
「はいはい、大会期間中だからアルネリアに目をつけられないようにしてね? 必要ならどこかその辺の村まで送るよ?」
「余計なお世話だよ、畜生。その間に面白いイベントが過ぎちまうだろうが!」
グンツは不満を並べながらも、大人しくドゥームに従った。だがドゥームはこの後、いかにこの大会を台無しにするかを考え、ティタニアに削られた分の力をどうやって補うかを考えていたのである。
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「バスケス、その少女をどうするつもりだい?」
「婆に関係あんのかよ?」
シェバはバスケスの片脇に注目していた。既に意識のない少女がその脇に抱えられており、血を流している。バスケスの人となりを考えるとこの少女がどのような運命を辿るのか、シェバとその弟子たちは嫌悪を明らかにしたが、バスケスは意に介していない様子だった。
そこに伝蔵が合流し、間の抜けた声を出す。
「いやはや、とんだ化け物でござったなぁ」
「あぁん? 伝蔵テメェ、こっちの依頼を無視して剣帝とやりあうってのはどういうことだよ? 俺のことを舐めてんのか?」
「いやいや、普段から世話になっているシェバ殿の頼みを優先したわけでござる。まぁいうなれば、人徳の差でござろうかな? そなたも悔しいのなら、徳を積んだらいかがか?」
伝蔵に諭すような言葉にも、バスケスは唾を吐いた。
「やだね。俺ぁ悪徳しか積まねぇことにしているのさ」
「ひねくれ者でござるなぁ」
「変態ござる野郎よりゃマシだ」
「どっちもどっちだよ。それよりあんたらはまだ統一武術大会に参加するんだろ? 他の連中は来ていないのかい?」
シェバの言葉に伝蔵が答えた。
「エネーマの姐さんが参加すると思うでござるか? アルネリアに近づくのすら嫌がるでござろう。ゼムスも別にやることがあるでござろう」
「やること?」
「ゼムスは次の火種を作りに行ったに決まっているでござる。策士がどこにいるのかを考えれば、ゼムスの行動など想像がつくでござろう?」
「・・・ああ、なるほど。それに、公的には勇者だもんね」
シェバは愚問をしたことに気付いたが、それでも仲間達の異常性に辟易せずにはいられなかった。
「火種まいて依頼を作り、それを自分たちで解決するのだからランクも上がろうってなもんさね」
「そう言うなよ、婆。俺達はどいつもこいつも戦場がないと生きていけない欠落者じゃねぇか。あんただって、戦場があるからこそ魔術が発展するって主張して魔術協会を追い出されたんだろ? 黒の魔術士にだって、本当は参加したかったって聞いたぞ?」
「どうだかねぇ。結果からすると、黒の魔術士に対抗した方が面白かったのかもしれないね。それに、得た知識は使ってナンボだよ。魔術なんて綺麗ごとを抜かしても、ほとんどが敵を効率よく打倒するための手段に過ぎない。戦争が激しいほどに魔術は発展し、巡り巡って生活に役立ってきた。平和な時代になったからって、その事実を否定するのは間違っていると主張しただけさ。テトラスティンは理解を示してくれたが、凡人共には過激すぎたようでな」
「ふん、とんだ戦争屋だな」
「『軍団』にだけにゃ言われたくないよ」
シェバが追いやるように手を払ったので、中将は役目は済んだとばかりにその場を去った。
バスケスが唾を吐きながら中将を罵った。
続く
今年最後の投稿になります。お付き合いくださっている方、まことにありがとうございます。
次回投稿は、1/1(火)23:00です。来年もよろしくお願いいたします。