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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その275~悲願㉟~


「始めまして、私は『軍団』の『中将』です。以後お見知りおきを」

「知らんな。覚える気もない」


 ティタニアは中将を押し戻し際、黒点剣を放った。それをいとも容易く避ける中将。その攻撃の終わり際、今度はティタニアの背後から一撃が放たれたが大剣を背に構え、その一撃をティタニアは受け止めた。

 攻撃を加えた『素浪人』土岐伝蔵が舌打ちをする。


「むぅ、良いとこどりとはいかぬでござるか」

「背後からとは中々の卑怯ぶりだな、素浪人」

「いやいや、中将殿のようにはいかぬもので。それより大隊長殿は来ないのでござるか?」

「剣帝相手には役者不足だろう。だからこそ面倒なのに、俺が出向いたのよ」


 大柄な中将が笑う。体格に似合わぬやや小ぶりで先端のない剣を持つ中将。剣の形状からは斬る、というよりは叩き割る役割で使われるものだろうとティタニアは推測する。

 一方で伝蔵は長めの刀を持っている。長さからは大太刀に分類されるはずでそれなりの重量があるが、まるで短剣のように軽やかに振るっていた。見た目の貧相さからは想像も出来ぬ体幹の強さと、身体操作をしていることになる。

 双方ブラディマンティスなどの魔獣ほどの身体能力は持たずとも、明確な技術を持つ相手だ。それが二人同時ともなると、余程こちらの方が手強いと見て取った。しかもシェバがまだどこかにいるのである。次なる魔術、そして霧や召喚はいかなる方法なのか。

 ティタニアはこれらを考えると、現在の窮地は打開しがたいものと考えた。黒点剣を最大限に活用し、さらに手の内を曝せば勝てぬこともないだろう。だが最悪なのは、手の内を曝した上に逃げられことだ。これだけの実力者を、確実に屠れるほどの自信はティタニアにもなかった。


「――やむを得まい」


 ティタニアがぶつぶつと何かをつぶやき始めた。そして空気がティタニアに収束していくのを見て、いち早く反応したのはシェバである。


「・・・ついに使うか!?」

「なるほど、これが剣帝の魔術かい?」

「おそらくね。魔術、いや魔法かもしれんがね」


 シェバの言葉に遅れて、伝蔵と中将も反応する。


「嫌な空気でござるな?」

「む、危険であるか?」


 攻勢を止め、二人が間を取ろうとしていると、ティタニアが一歩前に出た。


「――貴様たちは危険だな。今ここで、確実に排除させてもらおうか」

「そうはいくかってんだ。グンツ!」

「あいよぉ!」


 どこか嫌味な掛け声と共に飛び出てきたのはグンツ。既に形状は人間のそれを捨て、魔物を取り込んだ部分を曝していた。足は多脚となり高速で大地を駆け、ファランクスを取り込んだ腕でティタニアに襲い掛かった。

 虚を突かれたティタニアだが、グンツの攻撃は受けるほどでもない。ティタニアはグンツの脚と腕を一本ずつ切り飛ばしたが、グンツは体勢を崩しながらも引き摺っていた何かをティタニアの方に向けて放り投げた。


「ほらよ!」

「何?」


 ティタニアがグンツの持っていた縄を切断したが、その何かはティタニアの方に向けて飛んできた。そしてグンツ自身は羽を生やして空に離脱したのである。


「チィ!」


 舌打ちをしたのはティタニアだったが、その直後ティタニアとグンツの連れてきた何かの姿が忽然と消えた。その場にいた全員――魔術で感知していたシェバもまたティタニアに気配が突如消えたことに狼狽し、その姿を追っていた。


「突然消えたじゃと?」

「おい婆ァ、逃がしたのか?」

「いや、消えた。わずかな魔術の痕跡はあるが、完全に消えたわ。転移とも少し違うようじゃし分析しないといかんが――しいて言うなら、ティタニアの気配が広がり、相手ごと消えたように感じたね。

 小鬼。何を、いや、『誰』を投げつけた?」

「知らないよ。一番面白く、そして台無しにしてくれそうな奴さ。詳しくはあんたの仲間に聞いてみたら?」


 ドゥームが顎で指した先には、ニヤつくバスケスが立っているのだった。


***


「・・・む、ここは?」


 タウルスは目の前が暗転したことで気絶したと思っていたのだが、どうやら違うようだった。周囲は薄暗いが四肢の感覚は確かで、腕は冷たい地面に触れていた。土ではない、何らかの金属だろうか。

 先ほどまでシャイアという少女と共に格闘家バスケスを追い、そしてある程度追い詰めたと思っていた。バスケスの態度からすれば誘い込まれた感じはしていたが、シャイアがバスケスに攻撃を加えようとした瞬間に、突然魔獣が飛びこんできた所までは覚えている。

 魔獣からシャイアをかばうように突き飛ばしたが、魔獣は攻撃するのではなく縄を投げて自分を捕えた。そこで初めて相手が魔獣ではなく、おそらくは魔王の類であることに気付いた。

 魔王は凄まじい膂力でタウルスを引き回し、また縄も通常のものとは異なり腕力では引き裂けぬ類のものだった。タウルスは怪我を負わぬよう体の操作をしながら魔獣に引き回され、そして機を見て反撃に転じようとしたところで、突然放り投げられたのである。

 そこでタウルスははっとした。


「そうだ、ティタニアが!」

「ここにいますよ」


 暗がりの中、ティタニアの姿がぼうっと浮かび上がった。幽鬼かと思ったが、体に浮かび上がる呪印が暗闇の中ティタニアを照らし出していることがわかった。そしてティタニアが手をかざすと、松明が灯り周囲を照らし出した。

 そしてタウルスはその周囲を見て絶句したのだ。


「こ、これは・・・まさか!?」

「そうだ。あなたにはこの意味が何かわかりますね?」


 タウルスの目には信じられないものが映っていた。そして理解したのだ。剣帝の本当の意味とその力を。

 タウルスは驚愕した後、我を取り戻すと深呼吸をしてゆっくりと構えた。それを見てティタニアもまた大剣を構える。

 タウルスが問うた。


「不意を突こうと思えばできたはず。なぜそうしない?」

「昔も今も、正々堂々と向かってくる武芸者相手には不意は突かぬことにしています。まして彼の青年の子孫であれば、なおさら」

「その心がありながら、なぜ一族を皆殺しにした?」

「正確には皆殺しにはしていない。だが貴方には真実を知る権利があるでしょう」


 そしてしばしティタニアは昔を語った。その旅にタウルスの表情に憐憫が浮かんだが、それでも拳を緩めたり下げることはなかったのだ。

 そしてティタニアが語り終えると、タウルスは再び問いかけた。


「ではお前は――たった一人、千年の時を超えていまだに約定を守っているのか」

「そうなりますね。それを忘れれば、私の存在意義そのものがなくなるでしょうから」

「今からでも遅くはないだろう。我々は手を取り合うことはできないのか?」

「そうしたいとも思ったことが何度あったことか。その度、誰も聞く耳を持たなかったのはどこのどなたたちでしょうか?」


 批判めいたティタニアの反論に、タウルスは言葉を詰まらせた。そしてティタニアが心底残念そうな顔をした。


「残念ながら機会は失われました。もはや私かあなた、どちらかが死ぬしかないのです」

「どうしてもか?」

「そう、どうしても。そして私には死ぬつもりはなく、あなたを殺せば二度と仲間を説得できなくなるでしょう。

 残念ながら、ドゥームに台無しにされたのです。あの悪鬼が先ほどの攻撃で死んだとは思えませんが――いつか殺さねばならないでしょう。もっとも、その時間が私にあれば、ですが。

 さあ、構えなさい。この時のために磨いてきた拳でしょう? これだけ疲弊し傷ついた私を前にするのはとても珍しいことです。千載一遇の機会ですよ?」

「――できれば、万全のあなたとやりたかった。これが予想しえた中で、最高の好機なのだとしても」


 これまた心底残念そうなタウルスを見て、外見こそ違うがティタニアはかつての誠実な青年を思い出していた。ああ、確かに彼の血を引いた者なのだなと。残念そうな表情が、切なそうな表情がそっくりなのである。


「――私も同じ気持ちですよ。できれば殺し合いではなく、武芸を競う場で出会いたかった」


 そしてティタニアは剣を振るい、タウルスはそれに応えたのである。



続く

次回投稿は、12/30(日)23:00です。

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