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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その274~悲願㉞~

「組織が綺麗事で回らぬことくらいわかっておるよ。じゃが最近のアルネリアはおかしい。どうおかしいとまでは言い切らぬが、辺境で生きる婆じゃからこそ見えることもある。

 巡礼と魔術協会の幹部をどちらも兼任した、歴史でも数少ないアタシじゃからこそ、わかることもあろうて」

「へえー。で、趣味は遺跡探索なわけだ」


 ドゥームの言葉にシェバの手が止まりかけたが、かろうじて魔術だけは発動させていた。

シェバは初めてドゥームを認識したかのように、敵意の籠った視線を向けた。


「小鬼、貴様はなぜそれを?」

「悪いけど、盗み聞きと覗き見が趣味でね。それに土地の汚染と遺物の収集が任務だったものだからさ、黒の魔術士の中では遺跡や遺物には詳しい方だと思うわけよ。

 人間でもそこに目をつけている奴らはほとんどいないだろ? アルネリアや魔術協会だってそうだ。だから人間で遺跡なんぞに興味を持っている人間なんて、ちょっと見たら見分けがつくんだよ」

「ふん、遺跡の探索なんてギルドの依頼にも溢れているだろうに」

「誤魔化すんじゃないよ、ばあさん。あんたの使っている素材はどれも普通の遺跡じゃとれないよ。僕が言っているのは、『本当の』遺跡のほうさ」


 その言葉にシェバの手が止まる。ティタニアの相手も忘れ、しばしドゥームを見極めるようにじっと見つめていた。

 そのシェバを見て、ドゥームがにやつく。


「よせよ、婆さん。女は好きだが、さすがに僕の好みから外れ過ぎだ」

「カッ、生意気な小鬼じゃ。じゃが、多少興味が湧いたのも事実じゃ。貴様、取引せぬか?」

「僕に有意義なら喜んで。その前にティタニアをなんとかしなきゃね。仕留められるだけの策をお持ちかい?」

「いや、せいぜい困らせるくらいじゃの。剣帝の対策はしたが、最後の魔術を見極めねば倒すことは能わんじゃろう」

「ふーん・・・ひょっとすると、偶然だけど使えるかもな」

「?」

「婆さん。その話、詳しく聞かせてよ」


 悪霊と賢者の話し合いは霧の中続いていた。その周囲の霧が赤く、まるで血の色に変化する中で。

 そしてティタニアは孤軍奮闘を続けていた。通常なら百体いようが苦戦する魔物ではない。だが統率されると討伐軍が組まれるほど脅威になるリザードマンが相手であり、また通常より強化されている。なおかつこの地形、そして受けた傷がティタニアを苦戦させる。

 そしてそろそろ呼吸が上がる時となって、霧の色が変化し始めたことに気付いた。


「まだ何かあるのか――」


 気付けばリザードマンがいなくなっている。だが足元のぬかるみから脱出するよりも早く、赤い霧が迫り来た。

 そして赤い霧に包まれたと思った瞬間、ティタニアの目に激痛が走った。


「ぐあっ!?」

「(どうかね、ここにきてただの目つぶしの霧とは? 中々苛つくじゃろう?)」


 からかうようなシェバの声が響く。ティタニアは激怒するよりも、視界が奪われたことをなんとかしなければと考えた。幸いにして聴覚は奪われていないが、センサーは封じられ、皮膚感覚もあやふやである。ここで聴力が効かなくなれば、五感はほとんど封印されるに等しい。

 ティタニアは逆に冷静さを取り戻した。ここで仕掛けてくるとすれば、切り札とでもいうべき強者を出してくるだろう。ティタニアが初めて構えをとった。右手で肩に大剣を担ぎ、左手の大剣は地面に置いている。周囲の黒点剣は6個にまで増えており、それぞれが鼓動するように収縮と膨張を繰り返していた。

 ティタニアの感覚が研ぎ澄まされていく。


「(地面からの振動――その数、2、3・・・5。リザードマンより大きいな)」


 ティタニアには見えないが、周囲は囲まれていた。ドゥームとシェバには見えているが、周囲には6本鎌の、鈍い赤色の外皮を纏う大蟷螂。辺境にしか生息しない、ブラディマンティスと呼ばれる強力な魔獣。音もなく忍び寄り、鋼鉄すら両断する鎌で相手を仕留める化け物だ。繰り出される鎌の速度は音にも近いと言われ、正面から相対すればA級の傭兵ですら生きて帰ることは不可能とされている。

 それが剣帝の周囲に計5体。しかもシェバによって調教され、統率されている。その個体にシェバが命令を送る。


「やりな!」


 シェバの命令の元、音速の鎌が同時に襲い掛かる。ティタニアの五体が細切れに――と思われた刹那、宙を舞ったのはブラディマンティスの五本の鎌だった。


「なんてことだい?」

「げえっ、どんだけ化け物だよ」


 ドゥームの驚きも他所に、痛痒を感じぬブラディマンティスは一本腕が飛ぼうが、構わずシェバの命令の元襲い掛かり続ける。たとえ鎌が全て残らず切り落とされようが、首が飛ぼうが。そして全てのブラディマンティスの腕と首が落ちた所で、ドゥームが呆れていた。


「道理で全方向から攻撃しても当たらないはずだよ。未来でも見てるんじゃないの?」

「まだだよ!」


 シェバの言葉通り、全ての攻撃手段を失ったはずのブラディマンティスの傷口から突然黒い塊が伸びた。ブラディマンティスの体内に巣くう寄生虫は、宿主が死ぬと飛び出て相手を攻撃し、隙あれば乗っ取ろうとする。だが予兆のないその攻撃すらティタニアは一撃で全て切って捨てた。

 流れるような一連の動作に、ドゥームは恨みも忘れて思わずため息を漏らす。


「ああ、畜生。人間のくせにすげえな」

「ああ、確かに凄まじいね。だがまだやれることはあるのさ。そのためにあれを呼んであるのだからね」

「あれ?」

「我らの仲間の中でも、最大の戦力さ」


 シェバの言葉と同時に、ブラディマンティスが崩れ落ち巻き上がる泥の陰から、高速で一人の影がティタニアに襲い掛かった。ティタニアがすんでの所で反応したが、音に近いほどの魔獣の一撃すら叩き落としたティタニアと拮抗する剣の鋭さ。

 霧の中剣を挟んで対峙する二人だが、影がティタニアに挨拶した。



続く

次回投稿は、12/28(金)23:00です。

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