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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その273~悲願㉝~

「沼?」


 いつの間にか足元には灰色の沼が広がっていた。最初は幻惑あるいは転移かと思ったが、それらの気配は感じていない。それに、この沼は蠢いていた。


粘液生物スライムですか、しかもこんなに大量に!」

「(ご名答。スライムは種類や育て方によって、多様な性質を持つ魔物に変化する。このスライムは湿地帯で育てた奴だが、一つ性質があってね。生き物を見つけると群がり、固まるのさ)」

「ぬう!?」


 シェバの言葉が聞こえるうちにも、ティタニアは足の動きを封じられていた。スライムは切っても切っても押し寄せてきて、ついには波のようにうずたかく盛り上がったかと思うと、ティタニアめがけてスライムの壁が押し寄せてきた。絡めとられれば動きもそうだが、呼吸ができなくなる恐れがある。

 危機を察したティタニアは、黒点剣ではなく大剣を地面に突き刺し、気合込めて一押しした。


「ハアッ!」


 衝撃波が固まったスライムごと吹き飛ばし、一瞬自由を取り戻したティタニアが黒点剣を迸らせスライムを切り裂き脱出した。だがその先に、今度は紫の煙が押し寄せる。


「今度はなんですか」

「(なんだろうねぇ?)」


 ティタニアは危険を感じていたが、呼吸をしないわけにはいかない。そして一息吸ったところで、猛烈な嘔気に襲われ吐瀉した。見れば血も混じっている。


「(毒・・・!)」

「(単純に毒さぁ、並の人間なら一吸いで生死に関わるねぇ。気功を使うあんたじゃしばらく大丈夫だろうが、それでもどのくらいもつかね?)」

「(おのれ)」


 ティタニアが呼吸を止めて突っ切ろうとしたが、毒は皮膚からも吸収される。魔術も合わせて発動させているせいかまとわりつくような紫の霧の中、ティタニアは殺気を感じ取った。


「(殺気・・・!)」


 ティタニアが殺気に向けて剣を突き出すと、大型の蜥蜴男リザードマンの胸を貫いたところだった。

 リザードマンは右手に大振りの斧、左手に重戦士が装備するような大型の盾を装備していた。リザードマンは基本的に知能が高く、人間が扱う基本的な武具は使用することができる。場合によっては、弓矢も使用する一族がいると言われている。

 このリザードマンは体色が紫に変化しているところを見ると、毒に適応した亜種だろう。それにしても人間より頭一つ二つ高い程度のリザードマンだが、どう見ても人間の倍近い体躯を誇っていた。

 現にティタニアの一撃でも背中まで尽きぬけたわけではなく、しかもリザードマンがティタニアの大剣を抱え込むようにしてうずくまった。ティタニアの膂力ではリザードマンから瞬間的に剣を引き抜くことができず、しかも先ほど追い払ったスライムが再度リザードマンに集まり、リザードマンごと固まろうとしていた。

 そしてその後ろには群れが続いてくるのがうっすらと見える。リザードマンは基本20から50体程度の群れを形成するのをティタニアは思い出した。


「群れごと調教テイムしましたね? 調教と召喚もできるとは!」

「(ヒョヒョ、伊達に賢者は名乗っていないよ。魔術と名のつくものはひとしきり齧った経験があるのさ。そら!)」


 リザードマンの群れが襲い掛かってきた。その間から魔術が飛んでくる。それぞれは小さい魔術だが、氷、風、土、炎と属性が多様だった。ティタニアは黒点剣をリザードマンの群れに向けたが、シェバの支配下にあるリザードマンたちは怯えることなく、仲間の死体を踏み越えて向かってくる。

 仲間の死え躊躇する一瞬の間がないこと。それがティタニアの余裕を少しずつ削っていく。


「(外皮が通常のリザードマンよりかなり固い。それに耐久力も桁違いだ。武器も斧だけでなく、斬馬刀や槍、種類を混ぜてかく乱してくる。まるで軍隊でも相手にしているかのようだ)」


 思わぬ苦戦を強いられるティタニアだが、その口に再び血の味が広がってきた。明らかに粘膜からの出血がひどくなっている。このまま毒の霧の中で戦い続ければ、致命傷になりかねない。


「ええい、鬱陶しい!」


 ティタニアが周囲のリザードマンを気合一閃、薙ぎ払う。その様子を霧越しにシェバは見通しながら、次の一手を考える。


「ふぅむ? 妙だねぇ。もっと大技を連発するかと思っていたけど・・・やはり、伝承は本当かねぇ」

「くくっ、ティタニアの弱点を教えようか?」


 シェバの近くに、生首だけとなったドゥームがゆらりと浮かんできた。シェバはそれをじろりと睨むと、手で追い払った。


「いらんね。悪霊の手を借りるほど落ちぶれちゃいないさ。それにあんたが何を企んでるのか、わかったもんじゃない」

「ひどいなぁ。今はただ、ティタニアを倒すために皆で手を組むべきだと思うけど?」

「その結果どうなるのか、それを気にしているって言ってるのさ。あんたの存在は世に害悪しかもたらさないものだ。弟子の意趣返しでもなければ、剣帝なぞ無視するに限るね」

「不平不満はアルネリアに向けたら? 今回、人を完全退避させずに建物に残したのは、アルネリアの指示だ。ティタニアは戦いに関する相手以外、不殺を原則にしている。そのことを知っているからこそ、肉の壁として住民を残したんだと思っているんだけど?

 僕よりもよほどアルネリアの方が悪党だと思うぜ」

「それに関しては否定はせんさ。だからこそ、アルネリアを見極めるために出てきたんじゃがね」


 シェバが次なる魔術を唱えながらドゥームに答えていた。



続く

次回投稿は、12/25(水)23:00です。

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