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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
1733/2685

戦争と平和、その271~悲願㉛~

***


「この! この! この!」


 ドゥームはティタニアに向けて雨のように攻撃を繰り出していた。球体に変えた悪霊を雨のように打ち出し、ティタニアの反撃と動きを封じる。一つ一つは礫のような威力だが、その中に時折重い一撃を混ぜることでティタニアの警戒心を煽る。

 訓練の最中でもティタニアに通じた数少ない手だが、その時よりも遥かに数が多い。事実、ティタニアは防戦一方となっていた。

 が、


「(一発も、当たってないだと?)」


 ティタニアは黒い球体をせわしなく動かし、雨と撃たれる悪霊の弾幕を防いでいた。黒い球体は時に盾のように広がり、円盤のように変形し切り裂き、ティタニアはドゥームの攻撃を捌いていたのである。


「くそっ、どんな目と反応をしてやがる。だがまだまだ!」


 ドゥームの攻撃が三方向からの攻撃に切り替わる。一つ一つの方向からの攻撃はやや薄くなるものの、多方向からの攻撃ならどうかと考えた。

 だがこれもティタニアは難なく捌いていた。ドゥームにとっては、腹立たしいくらい『予定通り』である。


「これならどうだぁ!」


地面から槍に変形させた悪霊が延びる。だがこれもティタニアは飛んで躱すどころか、最低限の槍を捌き、槍の間で躱していた。怒り心頭の癖に、腹立たしいほどに冷静な挙動。

 槍に身を預けたティタニアが呆れ顔で諭す。


「もう終わりで?」


 だがドゥームは意に介すた様子もない。そしてティタニアがはっと気づくと、ドゥームの顔には『口』がなかった。


「む?」

【――風を汚し、肉を腐らせ、我が敵を粉砕せよ】

死風暴発デッド・エクスプロージョン


 気付いた時には、ティタニアの周囲の槍に口と手がついていた。ドゥームは体の一部を靄へと変形させ、遠隔に飛ばすことができる。ならば、口と手をだけを本体から飛ばして魔術を別の場所から発動させることはできないかと試した結果、可能なことが判明したのだ。

 対ティタニアに考え出したわけではないが、ドゥームの奥の手の一つ。


「お前なら、きっと最低限の槍しか裁かないと思っていたさ。零距離からの広範囲魔術、これならどうだ!」


 直撃すれば肉が削げ落ち、骨が風化する魔術である。かすりでもすれば、大きなダメージを与えられるはずだった。

 だが――


「――無傷かよ」


 ティタニアと魔術の間には、4つ目の球体が出現していた。それが薄く広がって高速回転し、ティアニアへの汚れた風の直撃を防いだのである。

 ティタニアは冷徹な視線をドゥームに向けると、拍手をした。


「見事。発想、着想は常々独創的だと思っていましたが、そう来ましたか。魔術を収束させる溜めがなければ、私も危なかった」

「・・・マジかよ。どんな反射神経だ」

「反射神経ではありません。全ては集中と呼吸、正しい体の動作、そして武器への熟練と選択。私と修行したあなたなら、思い当る節もあるでしょう」

「・・・?」


 ドゥームはティタニアとの屈辱的な修行を思い出す。ほとんど一方的にやられていただけで、単に虐めかティタニアの憂さ晴らしだとばかり思っていた。今回のように左腕が再生しないような場面はなかったから今では加減されていたとわかるのだが、当時はそんなことがわかろうはずもない。

 そう、ただ多様な武器を用いて一方的に殴打、惨殺され――


「・・・待て。そういえば多様な武器、だったな?」

「その通り。私が剣帝と言うのはただの呼称。私は確かに『剣を奉じる一族』の出身ですが、それは単に武器として剣が多く、また父も兄もその先代も剣が得意だっただけというだけの話。

 私に得意武器はありません。ですが武芸百番のみならず、千番全て使用して見せる自信がある。この黒い球体は、その中でも特に自信のある武器ですが」


 ティタニアの言葉を聞いて、ドゥームもまた読み違えていたことを理解した。この大会でも示していたではないか。ティタニアは多様な武器を使って戦っていた。その中に、一つでもぎこちない武器があっただろうか。

 全武器最高熟練マスター・ワン。それがティタニアの本領なのだ。ティタニアは続ける。


「多様な武器を扱う内、私は見たことのない武器ですら手に取りさえすれば扱い方がわかるようになりました。伝説の武具は使い手を選ぶと言いますが、いまだかつて私に扱えなかった武器は存在しない。

 この球体もそうです。これが今代の武器ではないことくらい、あなたもわかるでしょう?」

「・・・遺物か」

「その通り。この武器はあらゆる全てを例外なく切り裂く、黒い剣。あらゆる相手を死に追いやるくせに、黒点剣ブラックライブズという銘がついているのはなんとも皮肉だと思いますが」

「ちぇ、冗談じゃない」


 ドゥームは踵を返して一目散に逃げだした。今までの啖呵は何だったのかと言わんばかりの逃げっぷりにティタニアは一瞬呆れ、そして黒点剣を薄く伸ばし、その両脚を切り飛ばした。

 黒点剣が霊体などの実体を持たない相手にも効果があるのは、今までの使用で経験済みだ。事実ドゥームの腕は再生が遅れ、両脚も再生していない。

 ティタニアは地面に這いつくばったドゥームの傍に立った。



続く

次回投稿は、12/21(金)6:00です。

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