戦争と平和、その266~悲願㉖~
リサはその四人に構うことなく、ティタニアの気配を探った。
「やはりあの程度では死にませんか。まぁそうでなければ剣帝などと呼ばれはしないでしょうが。ですが仕掛けはこれからが本番です」
「まだやんのかよ・・・なんておっそろしい女なんだ。シェバの婆より怖いんじゃねぇか」
「これだけの魔術都市で魔術阻害の罠をかいくぐり、なおかつ剣帝の気配探知も阻害したうえで、我々にセンサーを用いながら同時に指令を出している。こんなセンサーがイェーガーにいるとはね」
「おまけに、ゴーレム相手に貸与してくれた武器の数々。どれも恐ろしい威力と効果だ」
四人の魔術士達の賞賛を受けながら、リサは松明を回して合図を行った。すると建物の屋上から、同じように松明が回る合図が成されている。
リサはそれを見ると、足早に移動を始めた。
「次の場所に向かいますよ。同じ場所に留まれば、ティタニアに気付かれないとも限りません」
「おいおい、どんだけ仲間がいるんだ? 結構な数の反応があったよな?」
「アルネリアが雇ったのはあなた方だけではないということです。本来なら指揮を執るべき人間がいないのは不幸な事故でしたが、それを逆にアルネリアは利用しているようですね。包囲網に穴を作り、そこにティタニアを誘導しているのです。
ですが私がここに志願したのは偶然です。私には剣帝に意趣返ししたい気持ちはあったのですが、あなた方のような人材がいたこと、それに雇われた顔ぶれを見る限り、剣帝に一泡吹かせるくらいはやれそうですね。
もっとも、そこにはアルネリア以外の意図も関わっていそうですが。ねぇ、ドゥーム?」
リサの言葉に反応するように、背後からドゥームが現れた。ばつが悪そうに、頭をぽりぽりとかいている。その出現に魔術士達は身構えたが、リサは全く気にも留めずにいた。
そしてドゥームが呆れながら答えた。
「なんでわかるかなぁ? 今は完全に気配を消していたつもりだったんだけど」
「私から逃がれられるとでも?」
「それ、僕が使いたい台詞ね!?」
「やかましいですよ。それより、ティタニアをこちらに誘導したのはあなたですね? どうしてそんな真似を?」
リサの詰問に、ドゥームはあっさりと答えた。
「だって、ムカつくし?」
「どの辺が」
「前に訓練と称して僕を切り刻んだ相手だよ? 成長はしたけど、死ぬほど痛かったしね。恨み骨髄ってやつさ。色々あって協力したり助けたりしたけど、基本恨みは忘れない性格でね。意趣返しするならここだ! と決断したわけさ」
「なるほど、実にわかりやすい。それが本心がどうかはさておき、ならば手札を用意していますね? 出しなさい、いますぐに」
ドゥームは手を出しながら迫るリサにやや驚いたが、すぐに指を鳴らしてデザイアを呼び出した。
「まさか僕まで手駒に加える気かよ。そこまで節操なしになるなんて、女の嫉妬は怖いねぇ。ティタニアにジェイクを独占されていたのがそこまで気に障った?」
「黙りやがれです、この腐れ○○○。テメェは黙ってリサの言うことに従っていりゃあいいのです」
「く、腐れ○○○って・・・そこは腐ってないけども。そんな容赦ないお言葉をありがとうございますって言えばいいのかな」
「・・・ドゥーム、死ねばいい」
「あれぇ? デザイアまで?」
デザイアの言葉にドゥームは軽く衝撃を覚えながらも、デザイアに命令した。デザイアは嫌そうに、しかしドゥームの命令には従っていた。
デザイアの足元から霧が出現し、アルネリアを静かに覆っていく。この霧が何を意味するのか、魔術士たちはすぐに理解した。
「これは――甘い匂いがしますね。淫夢などに引き摺り込む結界ですか」
「剣帝に真っ向勝負なんてしないよ。今は少し精神的にも不安定みたいだから、そこを徹底的に突かせてもらおう。もっとも体調面でも不安は多いようだけどね。どっちにしても、いつかほどには力がないと見た」
「だから殺す、と。ふん、弱るのを待つとかどれだけ悪趣味なのですか」
「何とでも言いなよ、勝てばいいのさ。真っ向勝負でティタニアをどうにかできるなんて、微塵も思っちゃいないさ。魔人ブラディマリアさえ警戒させる人間だぜ? 皆も同じ考えだから、アルネリアだってリサちゃんだって、これだけの包囲網を敷いてティタニアをなんとかしようと思ったんだろう?」
「・・・ふん」
リサはその問いかけには明確に答えず、ただドゥームから視線を切った。その態度がドゥームをさらに喜ばせたことにまでは気付かず、ただリサはティタニアの対処に心を砕いていた。
続く
次回投稿は、12/11(火)6:00です。