戦争と平和、その264~悲願㉔~
「見いつけたぁ」
「私たちが一番槍か」
「何者!?」
緊張を解きかけたティタニアが、剣を片手に構え直す。目の前にはよれよれのローブをまとった女と、東方風の袴をつけた女剣士がいた。ティタニアの警戒心が告げていた、この相手は容易ではないと。
よれよれのローブをまとった女が、ケラケラと笑いながらティタニアの問いに答えた。
「そんな型通りのやりとりが聞けるなんて、クランツェ感激ぃ」
「何者かと問われれば、答えぬわけにもいかぬだろう。拙者、白藤と申す武芸者にござる。伝説の剣帝ティタニアにこうして対峙できるとは感激の極み。いざ尋常に、勝負!」
白藤が剣の柄に手をかけた瞬間、ティタニアの周囲で小規模の爆発が同時に複数起きた。何が起きたかわからず、困惑するティタニア。気功で咄嗟に守ったとはいえ、今ので右足の踏ん張りが効かないほどに損傷を受け、背部、左肩にもそれなりのダメージを負った。繋いだ右腕は実は半分ほどしか力が入っておらず、近距離の爆発ゆえに鼓膜もやられたようだ。
そしてその様子を見て、白藤が激昂した。
「クランツェ! 貴様、名乗りもなく先制するとは恥を知れ!」
「白藤ちゃんがやりたければ勝手にやりなさいよぉ。私も一応は名乗ったし、殺せば依頼達成よぉ? それに白藤ちゃんの戦い方のほうが、私はどうかと思うんだけどぉ」
「五月蠅い。そういう戦い方なのだから、仕方ないだろう!」
二人のやりとりはティタニアの耳は入らない。だがこのままではまずいことだけはわかる。
白藤が再度剣の柄に手をかけ、構える。ティタニアは思わず防御の姿勢をとったが、白藤は申し訳なさそうな顔でティタニアに詫びていた。
「すまぬが、私の『魔術』に防御は効かぬ」
白藤が剣の鍔をちぃん、と鳴らすと、ティタニアの右目の視界が急に暗転した。それが刀傷によるものだと理解した時には、次に吐血をしていたのである。斬撃は見えなかった。ティタニアはこの場所にいることは危険だと判断し、剣で地面を薙ぎ払って逃走した。
巻き上がる石畳の破片と砂利に、クランツェと白藤が防御の姿勢をとる。
「逃げたか。良い判断だ」
「白藤ちゃんの魔術って、防御不可能だもんねぇ。正々堂々とした性格と剣士風のいでたちで魔術士とか、見た目詐欺だよねぇ? しかも得意な魔術が罠設置とかさぁ、今のも空中に設置した魔術の斬撃にティタニアが入ったんでしょ? ずっるーい」
「仕方ないだろう? これが一番得意だったんだから。クランツェこそ、使い魔に爆弾を持たせて特攻させるとか、魔術士としてどうなんだ?」
「勝てばいいのよ、勝てばぁ。それにしても、さっきの爆発で合図になったでしょうからぁ。次々これから刺客が襲い掛かるわよぉ? アルネリアも汚いことを考えるわぁ、包囲網の内と外で二重に刺客を用意しておくなんてぇ」
「それにしても、まさか待機していた場所にティタニアが自ら突っ込んでくるとはな。警戒心も薄かったし、何かあったのだろうか」
「さーてねぇ。だけど、嫌な感じがしますよぅ。バスケスが暴れているのもそうだし、打ち合わせたわけでもないのにここに仲間が沢山いるのも。誰かが意図したものじゃなきゃいいんですけどねぇ」
クランツェはアルネリア中に放った使い魔のおかげかなんとなくの事情を察していたが、白藤には何も言わなかった。クランツェもまた確証がない中、不安を煽るだけになるからだ。
そしてティタニアが離脱した先で一度傷口の出血を止めようと、人気のなさそうな建物に身を隠した時である。後ろの壁を突き破って手が出現し、ティタニアを羽交い絞めにしてその動きを止めていた。
「何?」
ティタニアは慌てて手を振り払おうとしたが、手は一本どころではなく次々に壁を突き破って出てきていた。しかも一つ一つの腕力が尋常ではなく、長さからも人間ではないことは明らかである。
ティタニアは動きが完全に封じられる前に、地面を強く踏みぬいた。木造の床はその衝撃で抜け、崩れたバランスのせいでするりと左腕が抜ける。その一瞬で、ティタニアは懐の短刀と抜き、無数の腕を一瞬で切断していた。
「ゴーレムか! しかも手だけウォルフラム製だと?」
大剣を抜き背後の壁に突き刺すと、壁が崩れた後ろから八つ手のゴーレムが見えた。大剣で貫かれながらも痛痒を感じないゴーレムはなおも前進を試みるが、ティタニアの剣が一瞬揺れたかと思うと、ゴーレムを八つ裂きにしていた。
そしてティタニアは同時に無数の動きに勘付いた。階上にも外にも、いつの間にか無数の動く何かがいる。
「これはまさか、全てゴーレムか? いつの間に配置した?」
ティタニアが大刀を二つ構える。そしてティタニアを包囲した大量のゴーレムと、その様子を少し離れた場所から見守る魔術士が二人いる。
続く
次回投稿は、12/7(金)7:00です。