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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その263~悲願㉓~

***


「上手くごまかせたようですね。視線のようなものも感じなくなりましたし」


 ティタニアは黒衣の青年との戦いを離脱し、身を隠していた。隠形はそこまで得意ではないが、本気でやれば闇夜に溶けて移動するくらいは容易い。このあたりには明かりも少ない。問題なく人目を忍んで移動することができる。

 そして青年に言われて冷静になってみれば、そこかしこに人の気配があった。自分から一定の距離をとって固まっているあたり、包囲されていたことになる。もちろんアルネリアだろうが、証拠はない。もっとも、ここでアルネリアが自分を殺すために動いたとして何ら不思議はないし、ティタニアとしてもいつ仕掛けてくるのかと考えてはいた。

 だが気配はこちらを監視するだけで、一向に仕掛けてくる気がなさそうだ。その方がティタニアは嫌だったが、視線を一斉に振り切ることに成功したのはありがたい。内心では黒衣の青年に感謝するティタニア。


「まさかジェイクもその企みに加担を? いえ、そんな器用なことができる少年ではないでしょう。しかしそうなると、アルネリアはジェイクのことすら利用したと? あまり邪推したくはありませんが、なりふり構ってないのかもしれませんね」


 拳を奉じる一族すら利用するアルネリアである。ここから先、何を利用してくるのかわかったものではない。

 黒衣の青年の助言通り、ここは一度退いて大会に集中した方がよさそうだとティタニアは考える。黒の魔術士と敵対しているティタニアとしては、今ここでさらに正面切ってアルネリアと敵対したくはない。アルネリアも、自分とは正面から退治したくないからこそ、このような姑息な手段をとったと考えられる。おそらくは、朝になれば何事もなかったかのように大会に参加する日々が続くだろう。ただし、これからも襲撃は続くかもしれないが。

 ティタニアは包囲を突破すべく、意識を気配読みに集中した。センサーほどの精度はないだろうが、おおよその包囲網の隙を探るくらいのことはできる。だが意外なことに、ティタニアの感じた包囲網は隙だらけだった。


「どういうことでしょうか・・・一点隙を作っておいて誘い込むならともかく、ここまで穴だらけとは。もしかすると、アルネリアの側にも何かがあった? それに、シャイアも帰ってきませんし」


 ティタニアは良くない流れを感じ取ったが、さりとて今は自分の安全が一番だ。まずは脱出することを優先しようと一歩を踏みだした瞬間、背後から呼び止められた。


「やぁ、ティタニア」

「・・・ドゥームですか」


 嫌な間で出てくるな、とティタニアは苦い表情でドゥームを出迎えた。その表情と非難の視線をドゥームはむしろ心地よさそうに、ティタニアに忠告をするのだ。


「包囲されているみたいだけど、助けが必要だろう?」

「不要です。この程度の包囲、自力で突破できます」

「そりゃあ突破はできるだろうが、相手は魔術も使う。君の気配読みだけで、果たして一度も彼らと遭遇せずに、突破が可能かな? 明日も統一武術大会に参加するつもりなら、アルネリアの騎士に怪我をさせるのはまずいだろう?

 奴ら、妙な鎧をつけてるぜ? 魔術で身体能力の強化を行うのだと思うけど、中々厄介だ。アルネリアの精鋭を複数相手取りながら、なおかつ傷つけずに退けるのはさすがに剣帝でも大変だと思うけど?」

「では、私の手助けをすると? そうしてあなたに、何の得が?」


 ドゥームは手を広げておどけながら答えた。


「いやだなぁ、仲間でしょ? それに僕に稽古をつけてくれた恩人でもある。あのおかげで、少なからず実力が上がったと思っているんだけどな」

「稽古というよりは、ただ殺すつもりでいたぶり続けろと言われた気もしますが――では貸しではないと?」

「さらっと凄い事を告白したね!? まぁどのみち、そんなつもりはないよ」


 ドゥームは笑顔で否定したが、ドゥームの言葉をそのまま信じるわけにはいかない。だがドゥームの説明はもっとももでもある。魔術で気配を消されれば、正面から鉢合わせする可能性も十分にあった。

 ドゥームは貸しにするつもりはないと言うが、ティタニアはドゥームに借りが増えていくような気がして不愉快な気分となっていた。それでも、現状ドゥームの言葉以上の策があるとも思えないのも事実。


「・・・いいでしょう、あなたの提案に乗りましょう。安全に案内してくださいよ?」

「まかせといて、アルネリアの包囲網をしっかり突破して見せるさ!」


 ドゥームは案内を始める。すると確かに、ドゥームは正確にアルネリアの騎士達の死角を突きながら、するすると包囲網を抜けていった。ティタニアが想定した経路とほぼ同じだったが、ティタニアが自力で抜けていたらおそらくは数度引っ掛かっていただろう。そう考えると、非常に癪ではあるが、ドゥームは役に立ったということになる。

 そして一定の距離動くと、ドゥームはくるりとティタニアの方を振り向いて笑顔で告げた。


「さて、ここまでで十分だろう。後は自力で何とかなるね?」

「ええ、十分です」

「じゃあ僕は行くよ、まだやることもたくさんあるしね。じゃあね~」

「あ、待ちなさい」


 だがティタニアの静止も聞かず、ドゥームはさっさと闇の中に消えていった。いつも粘着質に絡んでくるドゥームなのに、肩透かしをくらった気分になるティタニア。

 そしてティタニアが足を踏みだそうとして、彼女の前に立ちはだかる者たちがいた。



続く

次回投稿は、12/5(水)7:00です。

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