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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その262~悲願㉒~

***


「どうやら、面白いことになっているようだね」


 夕暮れから闇の帳が降りる時、最もこれからの時間を好む者がいる。ほかならぬドゥームだ。ミルネーを回収後、彼にしては大人しすぎるほどにこの祭りを見学していた。純粋に大きな祭りを楽しむ気がなかったわけではないが、もちろん最も楽しむべき時に楽しむため、極力目立つ行為を控えようと考えたのだ。

 現在、アルネリアには考えられないくらい大陸の強者が集まっている。この中でうかつな行動を見せればさすがに正体がばれて、いづらくなりかねない。そのためドゥームはちょっとした不満を抱えながらも、大人しく傍観に徹していたのだ。

 だが闇の中で大勢の人間がよからぬことを企んでいると気付けば、もはやじっとしているのは本能として不可能だった。闇の中の企み事を見逃すほど、ドゥームはお人よしではない。まして、ドゥームはジェイクとティタニアの訓練の存在を知っているのだ。その様子を遠目に見守ることもまた、当たり前のようにやっていた。

 そして、つくづくジェイクとは因縁があるものだと思う。意図せずこうして互いにティタニアに教わり、行ってしまえば兄弟弟子のようなものともいえる。不思議な因縁を感じる一方で、決して相立たぬこともわかっている。どこかでジェイクを殺さねばならないだろうが、それが今ではないのだろうなということも理解しつつ、ドゥームはぼんやりと最初はジェイクとティタニアの訓練を眺めていたのだった。

 そうこうするうちに、周囲がおかしいことにも当然いち早く気付いたのだが。


「これはティタニアの捕獲作戦なのかな・・・? 大変だね、彼女も」


 ドゥームはティタニアに修行をつけられた身として、彼女の強さを嫌というほど知っている。アルネリアの騎士程度ではティタニアを捕縛できるとはとうてい思えないのだが、先ほどからちらほらと見かけるアルネリアの騎士の様相が少し違っている。


「なんの全身鎧だろうね? 前の襲撃の時にあんなものはなかったけど」


 さきほど、街の中で少女と追走撃をしていた騎士の身体能力は普通ではなかった。ドゥームは魔晶石の何たるかまでは知らないが、一つの仮説を導き出す。


「あの全身鎧は魔力を通じて、アルネリアの騎士の能力を底上げするものかな? だとしたら魔力が高い者程強くなるのか・・・中々面白い物を用意するね。弱者の知恵と努力の結晶ってところか。涙ぐましいねぇ。

 だがそれでもティタニアに及ぶようなものじゃないだろうに。というか、普通の人間が集まったところで、ティタニアを捕えたり殺したりできるとは到底思えないんだけどね。 

 やるとしたら僕がドン引きするくらい卑劣な罠を仕掛けるか、あるいはティタニアの意識の裏をかくか・・・可能性があるのは魔術で何かやらかすかってところか。それともティタニア以上の手札を実は隠し持っているのか」

「ドゥーム」


 ドゥームの背後からデザイアが現れる。この聖都は常にアルネリアの手によって浄化され続けているめ、大陸で最も澱みが少ない土地だ。だが他所からこれだけ人が流入してくると、さすがに様々な問題が起こる。死人こそ出ていないが、統一武術大会と大陸平和会議といった大きな催事を維持するため、浄化がおそろそかになっているのは事実だ。

 その隙をドゥームが逃すはずがない。デザイアを使って少しずつ、土地の汚染を進めていた。そう、ドゥームは何もしていないが、その取り巻きまで何もしないとは言っていないから。

 そしてデザイアは隣にもう一人の人物を連れていた。グンツである。


「なんだぁ、ドゥームよぅ。こんな清浄な空気の所に連れてこられたら、息が詰まりそうになるんだけどよ?」

「そう言うなよ、グンツ。それが中々面白そうなことが起きているから連れてきたんだからさ」

「おぉ?」


 グンツは目を凝らして周囲を見渡す。既に半ば以上人ならざる者になったグンツは、夜だろうが関係なく視力が働く。そして視力自体も非常に良くなっているので、夕暮れ時に何が起こっているかはすぐに理解出来た。


「ははぁ、なんとなーくわかったぜ。ありゃあ格闘家バスケスか。なんだか特定の連中につっかかっているようだな?」

「ああ、そのようだ。僕にはバンドラスの知識もあるからわかるんだけど、バスケスってのは君に負けず劣らずのクズのようだね?」

「よせやぃ、俺よりタチが悪いぜ! 俺は誰に対しても平等に襲い掛かるけどよ、バスケスの野郎は努力家とか相手が真面目な程執着する奴でよ。積み木ってよ、高いほど壊した時派手になるだろ? あれと同じだがよ、バスケスの場合は下手したら積み木をかさねる手伝いをした後で、後ろから崩すような奴だぜ? 俺よりタチが悪いや」

「うん、どっちもクソッタレには間違いないね。で、どう引っ掻き回すと面白いと思う?」


 グンツが周囲をじっくりと観察する。そして提案した。


「・・・あの集団で動いている連中よぅ、おそらくティタニアを襲撃したいんだよな? だがバスケスに絡まれて、身動きできねぇってところか?」

「僕にもそう見える」

「なら、やるこたぁ一つだろ? どいつもこいつも、歯ぎしりするような展開にしてやろうぜ」


 ドゥームと同じ決め台詞を吐いたグンツがにやりと笑い、やはり彼を仲間にしてよかったとドゥームは考えたのだった。



続く

次回投稿は、12/3(月)7:00です。

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