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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その260~悲願⑳~

「(待て。どうして先ほど程度の腕前の剣士が、本戦四回戦まで勝ち進んだのです? それになんですか、この強くなり方は。いえ、元々強い剣士が実力を取り戻しているような)」

「ふぅー、少し馴染んできたぞ」


 青年は一度離れると、息を整える。それが本来の息継ぎでないことをティタニアは知っていた。身体機能と、剣の技量が一致しない。剣士としてははるか格が上のはずなのに違和感がある。ティタニアはその違和感の正体を感じ取り始めていた。


「あなた・・・その体は借り物ですか?」

「さすが剣帝、この程度の手合せで見破るか。だが借りものというのは少し違う。この体は造り物だ」

「造り物・・・?」

「俺の本来は、こっちだ」


 青年の姿が闇に包まれた。そしてその中にティタニアに見える様にだけ現れた姿を見て、ティタニアが驚愕した。


「その姿は?」

「お前も知らないのか。かつて剣を奉じる一族と、我々は深い関係を持っていたのだがな。俺の姉は、お前たちの一族に剣を奉じられたことのある人物だった」

「それは一体――」


 闇が動き、剣帝と剣を合わせる。幾度かの煌めきの中、ティタニアは相手の実力を察した。このままここで戦えば、確実に死闘になると。

 だが数十合の剣を合わせた後、闇の中で相手はティタニアにそっと囁いたのだ。


「剣帝、ここは退け」

「何? どういうことです?」

「アルネリアはお前をここで仕留めるつもりだ。このままでは確実にお前は殺される」

「ふん、そんなことができる相手がいるのなら戦ってみたいものですね」

「強がるな。古代の魔獣や古竜まで出てくれば、お前とて勝てる道理はない。虚は突けても、殺しきれるかどうかは別問題だ。お前はあれらがどういう存在なのか、わかっているはずだ」

「・・・」


 ティタニアは沈黙したが、それを青年は肯定と受け取った。


「アルネリアはお前を始末し、その後に出てくるペルパーギスも魔獣たちに始末させるつもりだろう。確かに格としてはそれは可能だろうが、この都市がどうなるかは不明だ。何らかの手があるのか、それともそもそも街の被害を度外視しているのか。

 アルネリアの上層部が何を考えているのかわからん。いや、ひょっとするとアルネリアですらないのか。だからここは退くといい」

「あなたは何か、この都市に守らなければならないものでもあるのですか?」


 その言葉に青年は口を開きかけ、そしてつぐんだ。


「――それは貴様には関係ないだろう。それよりレーヴァンティンを手に入れることだけを考えていればいい」

「――なるほど。確かにおっしゃる通りです。では一つ借りとしておきましょうか」

「貸すつもりはない。俺もお前と戦えてよかった、久しぶりに自由な戦場を得たからな」

「なるほど、苦労しているのですね」

「互いにな。いつか気ままに、何にも縛られることなく剣を振るってみたいとも思う」


 その言葉と同時に、闇が爆発した。そして闇が晴れた後、その場にはティタニアも黒衣の青年も姿はなかった。


***


「ジャバウォック、本当にやる気か?」

「あぁ、しょうがねぇだろ。それがミリアザールと俺たちの契約だ」


 幻身で人の姿をとったジャバウォックとロックルーフが歩いている。彼らは久しぶりに地上に出て、人前に姿をさらしていた。いかに力を隠すのが上手い魔獣とはいえ、そのあたりをうろうろしていたのでは人間にばれてしまう恐れが大きいからだ。

 事実、腹ごしらえをしている最中にも人間に気付かれた。一瞬だったが男の二人連れがこちらに気付いた様子があったのだ。人間にしては相当に腕の立つ連中だろうが、それだけにこちらに対して無視を決め込んだ。一瞬で実力差を感じ取ったのだろうが、実に賢い連中だった。もしあからさまに何らかの行動をとれば、こちらのことを口外しないように、『念押し』が必要になったであろう。あの分なら口外の心配はなさそうだが。

 統一武術大会の開催期間中なのだ。他にも人間の強者が山のようにいることはわかっている。それでも今日は乗り気でない仕事の前準備として、一日の自由時間をもらっていた。露店で飯を食べようが、今日だけはミリアザールに文句を言われることもない。ジャバウォックは遠慮なく酒を飲み、飯を食らっていた。


「しかし、人間は取るに足らねぇ生き物だと思っていたが、酒の開発と飯を美味くすることだけにかけては貪欲極まりないな! ただに肉に香草や香辛料をつけるだけであれほど美味くなるとはよ!」

「人間が他の種族より優れているとしたら、『欲』だろう。生存欲、性欲、食欲。そのどれもがなければここまで発展はしていないだろうさ」

「魔物や獣はあそこまでこだわらんからな。飯は腹が膨れれば問題ないし、番の美醜など問わん。戦いでも己が死ぬか生きるかだけ。死んでまで何かを残そうとはせんからな」

「そういう意味では我々は人間に近いかもな。生き汚いことでここまで強くなり、そして幻獣とまで呼ばれるようになった。

 そしてお前は何百年もミリアザール一筋だ。それこそ人間を上回る性欲だろうよ」


 ロックルーフの言葉に、ジャバウォックが指を振って否定した。


「ちっちっち。ロックの旦那、そういうのは性欲じゃなく、一途っていうんだぜ」

「どちらでも構わんさ、そういうのが人間臭いと言っているんだ」


 ロックルーフがそうぼやくと、軽く飛んだ。だが軽く踏みだしただけの一歩は、彼の体を建物の四階のさらに上、屋上を越したはるか上空へと運ぶ。ジャバウォックもそれに続き、突然視線の先に人間二人が現れた鳥たちが驚きのいななきを上げていた。


「ははっ、邪魔するぜ」

「・・・見えた、あそこだ」


 遥か眼下にティタニアの戦いを見つけるロックルーフとジャバウォック。どうやらスピアーズの姉妹達と戦闘になっているらしい。彼女達に気付かれないだけの距離の建物の上に着地し、確認する二人。


「もう一度確認するぞ、ジャバウォック。ミリアザールの依頼は、ティタニアの始末。それでいいんだな?」

「ああ、そうだ。正確にはティタニアの始末と、その後に出現する大魔王の始末だそうだ。それがミリアザールが俺たちと契約した、ただ一度の全力勝負の討伐相手。シュテルヴェーゼ様とレイキはまだ依頼されてないが、俺達はそれでいいそうだ」

「ふん、本来はそんな契約を聞く必要がないのだがな。シュテルヴェーゼ様のご命令と、お前の許可があればむしろミリアザールなる女狐を八つ裂きにしたいところだ」

「よせやい、旦那。そんなことしたら、俺があんたを殺すぜ?」


 ジャバウォックは茶化したが、決して目は笑っていない。その言葉が本気であることをロックルーフも承知している。

 ロックルーフはこれ以上の話し合いをやめ、踏みだそうとしたその時である。



続く

次回投稿は、11/29(木)7:00です。

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