戦争と平和、その259~悲願⑲~
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「くっそぉ、まだ決定打にならねぇのかよ!?」
「それはこちらのセリフです。斬っても斬っても手ごたえがない。底なし沼を相手にするような感覚です」
セローグレイスが斬り飛ばされた左腕を回収しながら叫び、ティタニアが剣の血を振り払いながら呆れている。
リアシェッドが息を切らしながら、こちらも呆れていた。
「はぁ、はぁ・・・本当に人間ですの、あなた? 私たち三人を相手にして息一つ切らさないなんて」
「・・・それ、に。襲い掛かってから気付いた、けどいつの間にか腕がつながって、る。金の大剣、傷を治す?」
ティタニアはグリッドの戦いで、利き腕である右腕を落としていた。そして地面に縫い留められていたから隙があると三姉妹は思っていたのに、あろうことは戦いの前にティタニアは右腕を繋ぎ直していたのである。
三姉妹の目がおかしくなければ、腕を傷口に合わせて黄金の大剣を通した時に、腕がつながったように見えていた。ティタニアが三人の消耗具合を確かめながら、説明をする。
「それもありますが、『戻し斬り』というのが正確なところですね」
「戻し斬り? なんだそりゃあ」
「剣とは斬るだけが役割ではありません。切断面をブレなく、一様に斬ることで逆につながっていると傷口に勘違いさせることも可能です。ある程度、得物と剣士の腕前が必要ですが」
「ある程、度なの?」
「勘違いって、おめぇよ」
「はっ、なんてデタラメな剣士でしょうなのでしょうか。本当に人間かどうか怪しいものですわね」
呆れる三姉妹の言葉を、ティタニアは逆に否定した。
「私はれっきとした人間ですよ。弱く才能なき人間だからこそ、それを埋めるための努力をする。貴女たちのように生まれながらに能力に恵まれていれば、逆に努力することもなかったでしょう。
さて、再生の速度も落ちてきたようです。流れた血を再生することは、あなたがたは不可能でしたよね? そろそろ肉塊に分けて冷凍保存でもすれば動きはある程度止まると思うのですが、いかがでしょうか?」
「げ、俺らを解体肉にしようってか? 人間の発想じゃねぇや」
セローグレイスがさすがに足止めも限界かと考え始めた頃、思わぬ形で戦いに割って入る者がいた。
ティタニアの背後から、黒衣の青年が現れたのだ。黒衣の青年は現れるなり、三姉妹に向けて叫んでいた。
「去ね、異形の姉妹たちよ。ここは俺が引き受ける」
「あぁん? テメェ、誰だよ」
「セロー、誰でもいいですわ。そろそろ私達の力が落ちているのも事実。ここは退きますわよ」
リアシェッドとハムネットはこれ幸いとばかりに早々に退いたが、セローグレイスは舌打ちを残して去っていった。そしてティタニアは彼女たちを追うことなく、割り込んできた黒衣の青年を睨み据えていた。殺気も何も感じないが、無視して姉妹たちに襲いかかれるには不気味な相手だと思われたのだ。
「彼女たちが異形とはいえ、戦いに割って入るのは感心しませんね」
「こっちにも抜き差しならない事情があってな。一手手合せ願おうか」
「割り込んでおいてそのつもりがないとは言わせませんよ。こちらも興が削がれたのです、埋め合わせくらいはしてもらいましょうか」
ティタニアが軽く剣を振るう。相手のことは見たことがあった。統一武術大会の出場者のはずだ。今日も見たから、四回戦までは残っていることになるが、戦いぶりには注目していなかった。あまり強者の気配もしないし、どこか動きにぎこちなさすら覚えるほどだった。
現にティタニアが軽く振った一撃でもバランスを崩し、転げ回ってた。ティタニアは剣を振るいながら、おかしな感覚に囚われていた。正直、強いとは思えない。むしろジェイクと一対一なら良い勝負だろう。なのにどうしてこの場に現れたのか。
「(どうしてスピアーズの姉妹たちのことを知っていたのでしょうか? それに私のことも・・・いや、そもそもどうしてこの程度の実力の者を、アルネリアは雇い入れたのです?)」
ティタニアは考え事をしながら剣を振るっていた。いかなる時も目の前の戦いから気を逸らすのは珍しいことであるが、そのうちに青年が反撃がティタニアの横をかすめていた。
「(反撃? 気を抜きすぎましたか)」
ティタニアは少し剣速を上げた。だが今度は青年の方が用意についてきていた。見れば先ほどまでの違和感は徐々に薄くなっており、いつの間にかティタニアとそれなりに渡り合っていた。
まるで一刀ごとに、一挙手一投足ごとに強くなるような手ごたえ。ティタニアは自分が感じた違和感の正体に気付きだす。
続く
次回投稿は、11/27(火)7:00です。連日投稿になります。