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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その258~悲願⑱~

***


「じいさん、いるか?」

「・・・なんだ」


 レクサスは仮面の剣士――ベッツの宿を訪れていた。レクサスは負けてしまったため暇になったし、ベッツでも探して少し世間話でもしようかと考えたのだ。

 一方ベッツは部屋で静かに精神統一をしていたのか、ベッドの上で胡坐をかいて静かに瞑想していた。普段なら酒を飲みながら軽口と小言を繰り返し、ルイの尻すら触りにいくほどの命知らずの助平親父が素面でいるとは珍しい。

 レクサスは持っていた酒瓶を廊下に残すと、部屋に入った。


「なんで酔ってないんだよ」

「結構マジで勝ちに来ているからな。酒はなしだ」

「ちぇっ、せっかくじいさんとサシで呑めると思ったのによ」

「どうせ安酒だろうが」


 ベッツはクっと笑うと、その場で座ったまま跳ね飛んで後方に回転し、上着をとって入り口の所に立っていた。途中机で手を突いたように見えたが、レクサスの目に間違いがなければ指二本で姿勢制御をしていた。相変わらず年齢を感じさせない化け物だと、レクサスは呆れていた。


「部屋に野郎二人で籠ってたんじゃ、いかがわしい噂でも立てられかねん。飯くらい奢ってやるからついてこい」

「あいよ」


 ベッツとレクサスはそのまま連れ立って宿を出た。時刻は宵の頃、アルネリア近辺の簡易宿の周辺は出店で賑わっている。アルネリア内にある食堂なども出店しているため、現在アルネリア内部は閑散としているそうだ。

 出店の一つに二人は座ると、適当に料理を頼んだ。レクサスの前には肉が並ぶが、ベッツの前には魚と野菜、果物が並んでいる。


「じいさん、野菜なんて食うのか?」

「この歳になると、食べるものにも気を使うんだよ。好きな物食べて体が維持できるのは、まぁ40までだな」

「肉と酒しか摂らねぇかと思ってた」

「お前らが馬鹿みてぇに肉ばっか喰うから、違う物頼むと嫌な顔されるんだよ」


 ベッツは笑うと料理に手を付ける。勢いだけはレクサスと同じで若々しいのだが。二人はひとしきり飯を平らげると、レクサスの背後を振り返った。


「・・・行ったかい?」

「ああ、行ったようだな。ったく、あんな化け物がうろついているから、アルネリアは信用ならねぇとヴァルサスに言ったんだがな」


 レクサスの後ろ、席を三つほど開けたところに二人組がいた。一人は肌の浅黒い背の高い男、もう一人は大柄の黒いローブをまとった男。外見は目立つのに気配は希薄で、適当に料理を楽しむと去っていった。肌の浅黒い男の方は上機嫌に笑っている様だったが、大柄の男は終始無表情だったように見えた。喧噪の中、会話の内容までは聞き取れなかったが。

 その二人が只者でないことにはレクサスもベッツも気付いていたので、意識しないようにして料理を終えた。万一戦うことになったら、とてもどうにかなる相手ではないことだけはわかっていたからだ。

 レクサスとベッツはさらに料理の追加を頼むと、レクサスは酒まで頼んで煽り始めた。


「ぷはーっ! やっと料理が味わえるっす! さっきの奴らは何者ですかねぇ」

「古代の魔獣、もしくは幻獣が幻身した類だろう。ジャバ、ロックと互いに呼んでいたな。それにティタニアの包囲に参加しなくていいのか、どうとか」

「俺は古代の魔物なんてのはやりあったことがないんですけど、じいさんあります?」

「まぁ、遭遇したことくらいはな。だが人間の力の及ぶ相手じゃないよ。あれらに比べりゃ、黒の魔術士なんて可愛く見えてくらぁ」

「じゃあ、どうしてアルネリアは彼らを使って黒の魔術士を殲滅しないんすかねぇ?」


 レクサスの疑問は最もだが、そもそも古代の魔獣に人間が命令できるとは思えない。仮にアルネリアに人間以外の者がいたとしてもだ。彼ら古代の魔獣は、彼らの意志でここにいることになる。そこにどんな理由があるのかしらないが、ベッツはあまり深入りしたいとは思わなかった。


「とにかく、あまりアルネリアに深入りするんじゃないぞ? ヴァルサスは取引したいようだが、俺は反対したからな」

「へぇ? でも俺達って、アルネリアに報告があって来たんだけどなぁ。統一武術大会はそのついでだし」

「仕事だってのならしょうがねぇが、必要以上にかかわるな。特に――うむ、なんだかここ最近余計に変なんだよ、この都市」


 ベッツは言葉にできない焦燥感と不安感を口にした。団内ではベッツは立場も考えてそのようなことを口にすることはないが、勘の良いレクサスなら何か気付くかと思ったからだ。

 だがレクサスもまた何もわかってはいないように、生返事をするのみだった。


「はぁ。変、ねぇ」

「いいから爺の忠告は聞いとけ」

「まぁ副団長は俺より勘が鋭いっすからねぇ。じゃあ逆に、誰なら信用できるんです?」

「・・・イェーガーかな」


 ベッツはぽそりと呟いた。団長であるアルフィリースの戦いを見たが、彼女は勝利のためには手段を選ばない人間だ。だが苛烈な戦い方に見える反面、相手に再起不能となるような攻撃は喰らわせていないように見えた。事実、神殿騎士の少年などは外に放り出されただけである。

 全てを正面から打ち破ろうとするヴァルサスとは全く違う種類の戦い方だが、どこか似ているとも感じさせた。そして戦い方に偽りはあるが、その人格には偽りがないと感じられたのだ。


「もし、万一だがブラックホークに何かあったら、イェーガーを頼れ。それが最も確実だろうさ」

「よしてくださいよ、俺たちやヴァルサスに何かあるわけないでしょ」

「常に戦場に出るんだから、いつか何かあってもおかしくねぇって話だ。まぁ、万一だよ、万一」

「あー、やだやだ。副団長の万一って、10回に1回くらい当りそうだもんなぁ」


 レクサスは嫌な予言を忘れたいかのように、酒を煽った。



続く

次回投稿は、11/25(日)7:00です。

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