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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その257~悲願⑰~

「――違うわ。私が招集したのは、バネッサ、勇者ゼムスの仲間数名、スピアーズの姉妹たち、それに拳を奉じる一族のみ。彼らを先鋒とし、仕留めきれなければ神殿騎士団の戦力を投入する算段よ。そして万一を考えて、『彼ら』にまで待機してもらっているのだから」

「イェーガーは動かしていないので?」

「・・・ええ」


 ミランダの返事は澱んでいた。確かに戦力だけを考えるのなら、イェーガーはうってつけである。だがこの戦いにイェーガーを巻き込んだ場合、それこそ殲滅戦になり被害が拡大する可能性があった。

 そうなると心配なのは、ドゥームとカラミティだ。彼らがリサやジェイク、あるいはアルフィリースにご執心なのは知っているし、イェーガーの被害が拡大すればその隙に何を企むかわからない。イェーガーはドゥームやカラミティがいることを想定し、予備戦力として残しておきたかったのだ。

 それにアルネリアでティタニアを発見した以上、ミランダは自分の戦力で討ち取っておきたかった。自分の庭ともいえる場所まで引き摺り込んだのだ。ここで仕留められなければ、土台無理に決まっているし、面目丸つぶれである。

 そして黒衣の青年の報告を受けたところで、ミランダの元に乗り込んできた者がいた。


「邪魔するぞ」

「ベルゲイ? こんなところで何を? というか、よく見つけたわね」


 拳を奉じる一族のベルゲイが作戦本部まで押し入ってきたのだ。貴族の別荘の一画を魔術で隠し、仮の作戦本部とした場所に踏み込んでくるとは、少し彼の眼力を見誤ったかもしれない。

 そのベルゲイがじろりとミランダを睨む。


「ウルスを見つけるよりも、ここの方が容易かっただけだ」

「ウルス? ああ、あなたの仲間だったわね」

「彼女はどこだ? この作戦にはあの娘が必要なのだ」


 ベルゲイの言い方に、違和感を覚えるミランダ。


「我々が治療していた時、とてもじゃないけど戦える状態じゃなかったわよ? 我々の治療をもってしても、立てるようになるまで数日、それなりに戦えるようになるまでは7日はかかるわ」

「そういうことを言っているのではない! 息さえしていれば使いようはあるのだ。だがあの娘がいなくては、ティタニアを倒した後、収まりがつかん」

「・・・ははぁ、読めたわ。そのウルスってのが、依代か」


 ミランダはベルゲイの言葉から意図を察していた。ティタニアのことはミランダたちも調べている。厄介なのは、倒した時よりもその後ではないかと。もちろん仮説の一つにしか過ぎなかったのだが、ベルゲイの言葉で確信を持った。

 仮にティタニアの中に大魔王ペルパーギスが本当に封印されていた場合、ティタニア討伐後、聖都アルネリアが地獄絵図となる可能性も否定はできなかった。そのためティタニアの討伐を中止するべきだという意見すら計画段階ではあったのだが、拳を奉じる一族の出現が趨勢を変えた。彼らがいるのなら、対抗策があるのだろう。ならば、そのやり方を見るべきではないかと。

 ティタニア討伐後、ペルパーギスの再封印というのは最も有力な仮説だった。拳を奉じる一族の動きが鈍いと思ったが、どうやらウルスという依代がいないと動くに動けないらしい。大魔王を封じるほどの依代とあれば、調整するだけでも相当な運と時間を要したことは想像に易い。ここまで準備をしておきながら当日にアルフィリースに台無しにされるとは、なんという巡り合わせのなさか。

 本来であれば、ウルスは棄権させて夕刻に備えるべきだったろう。レーヴァンティンが惜しまれたのか、それともアルフィリースを侮ったか。どのみち彼らは判断を誤ったというわけだ。

ミランダは思わず失笑しかねない自分を律したが、ベルゲイはミランダに一つ詰め寄っていた。


「貴様、なぜそのことを知っている?」

「落ち着きなさい、アタシたちだってティタニアのことを調査はしているわ。弱点を探る過程で、仮説が浮上しただけよ。確信を持ったのは今だわ」

「ふん、まあいい。それで、ウルスはどこなのだ?」

「ウルスとやらを戦いに引き摺りだせば死ぬ――なんて、あなたたちに言っても無駄だわね。アタシたちとて正直ウルスの生死なんて知ったことじゃないわ。本当にいいのね?」

「構わん、既に覚悟も別れも済ませてきている。何より本人も父も承知の上の戦いだ。命を惜しむものは我々の仲間におらぬ」

「愚問だったわね――ウルスのところに案内してあげなさい。深緑宮内の治療棟にいるでしょう」

「いや、今からでは遅くなる。直接ここに連れてきてくれ。自力で歩けないなら、どんな手段を用いてもだ」


 ベルゲイの要求に素直にミランダは頷いた。自分たtの損害を減らし、ティタニアに対して決定打となりうるのならこれ以上望むべくもない。だがベルゲイにしてもミランダにしても予想外だったのは、既にアルフィリースがウルスをイェーガー内に移していることだった。

 アルフィリースもまた、ウルスがそこまで本日必要とされていることを知らない。ミランダが本作戦の詳細をアルフィリースに伝えなかったこの偶然の巡り合わせが多くの運命を変えることになるとは、この時点では誰も予想しえないことだった。



続く

次回投稿は、11/23(金)8:00です。

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