戦争と平和、その254~悲願⑭~
「お願いと? どうせろくでもないお願いでしょう?」
「あ、そう構えないで? 私の願いは単純。いずれ時間ができた時でいいのだけど、邪魔の入らない場所で存分に戦っていただけないかしら? もちろん加減なし、相手が死ぬまで存分に」
「?」
バネッサの要求にティタニアが首をかしげる。
「それは構いませんが、あなたに何の得があるのです?」
「得はないわ。強いて言うなら、私の欲望に忠実にってところ。私は老後を穏やかに過ごすことも大きな目標だけど、それまでの人生を鮮烈に過ごすことも目標だわ。恋も、仕事も、戦いも全力。それが私の哲学よ。
自らの哲学に殉じるなら本望ってこと」
「なるほど。では互いが生きていたら、必ず戦うこととしましょう」
「契約成立ね。ではこの子を助けようと思うけど、私がやる? それとも貴女が?」
「私がやります」
ティタニアは黄金の大剣を取り出すと、剣をもって強く念じていた。すると、剣がその大きさを変え、小刀程度の大きさに変化したのだ。バネッサが感嘆の口笛を吹いて、その変化を称讃した。
「それも意志ある武器なわけか」
「会話はできませんが、使い手の意志を汲んでくれます。大剣が本来の姿ですが、このような変化も可能です」
ティタニアはしゃがむと、ジェイクの頭めがけて小刀を丁寧に振り下ろした。ジェイクの頭が裂け、血が外に滴り落ちる。そして一定の量が出たところで、ティタニアはそっと小刀をジェイクの頭の中に差し入れた。
「まさか、戻し切り? さっき腕を繋ぎ合わせていたのもそれだけど、こんな繊細な場所でもできるの?」
「シッ! 加減が難しいのです、話かけないで」
ティタニアからかすかに汗が滴り落ちたが、手元が狂うわけではない。わずか数瞬の間にティタニアは刀を戻していた。
「ふぅ・・・おそらく大きな血管は繋ぎましたが、いつ再び破綻するやもしれません。医者に見せねばならないことは変わりないですね」
「なら私が運ぼう。アルネリアに現在狙われている貴女が運ぶわけにもいかないでしょうからね。それに万一私でも、対処はできるし」
「他人の手に任せたくはないですが、それが今は妥当でしょうね。よろしくお願いします、私にはさらに客が来るようですし」
ティタニアの目の前に現れたのは、三人の少女たち。その姿を見ると、バネッサはいち早くジェイクを抱えていた。
「スピアーズの四姉妹の三人か。やれるのかしら?」
「ええ、問題なく――と言いたいのですが、私もかつて戦った時は痛み分けでした。もっともその時は、キュベェスが完全に起きている時でしたが」
「痛み分け、ということは殺せなかったと」
「殺せますよ? ただ時間をおくと復活するのです。その理由がわからないから、彼女たちは不死身と呼ばれるのです。
それより行ってください、彼女たちの得物が競技会とは違う。どうやら本気のようですから」
ティタニアの声にバネッサは無言で去っていった。ティタニアに激励ほど意味のない行為もないし、スピアーズの四姉妹に目をつけられるとどんな面倒に巻き込まれるかわからないからだ。さしものバネッサもハムネットを手玉にとったとはいえ、人を抱えながら多数を相手に戦闘するのは得策ではない。
ティタニアはバネッサを隠すように立ちはだかると、眼前から迫る三人に向けて独り言をつぶやいた。
「さて。彼女たちが本命ならよいのですが、単なる足止めだとしたら非常に厄介なことになりますね。不死身の兵士ほど足止めに最適な相手はいないでしょうから」
ティタニアは黄金の大剣を元の形に戻し、黒の大剣と共に二刀を構えて彼女たちを迎えうった。
続く
次回投稿は、11/17(土)8:00です。