戦争と平和、その253~悲願⑬~
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「な、なぜだ? どうして貴様はそんな武器、を」
「だから、勉強不足だと申したのです。それとも長らく続く歴史の中で、正確な口伝は失われたのですか?」
ティタニアの左手には小太刀、それに切断されたはずの右手には棍棒が握られていた。想定していない武器の組み合わせに、グリッドは対応できず敗れていた。両腕を失い、肺を片方潰された。もうすぐ命が尽きることは明らかだ。
だがどうしても、グリッドは戦いの最中に見た三つ目の武器のことが気になっていた。その武器とは――
「貴様、先ほどの武器はな、んだ? そんな武器は見たこ、ともない。それにそもそも、そんな武器がこの世に――」
「余計なことは話さなくて結構。疾く死になさい」
ティタニアの左手が一瞬だけ動くと、グリッドは目前の死を待たずして八つ裂きになった。思わぬほど頑丈で防御に長けた相手ではあったが、技術的にはティタニアの敵ではない。だがさすがに集中せずに戦えるほど、ぬるい相手でもなかった。
だが時間をかけたことで、ジェイクの容態の変化が心配である。ティタニアは息を吐くと、ジェイクの方を振り返った。
「!?」
と、ジェイクの傍に一人の女性が座っていることに気付く。ティタニアにとってはぎりぎり間合いの外だが、それでもここまで接近されるまで気付かないとは、ちょっと記憶にないため思わず身を固くした。
その反応を見て、女は楽しそうに微笑んでいた。
「その反応、今私に気付いたわね? いいわぁ、伝説の剣帝のその反応を引き出しただけでも来た甲斐はあったかしらね」
「貴様は確か――」
「バウンサーのバネッサ。貴女と同じく、統一武術大会で勝ち進んでいるケチな傭兵よ」
バネッサは好奇心旺盛な瞳をティタニアに向けたが、そこに邪気や殺気はなかった。ティタニアはバネッサが戦闘態勢でないことに安堵した。戦って負ける気はしないが、間違いなく先ほどのグリッドよりも強敵だからだ。
それに、ただの傭兵がこれほど気配を消すのに長けているはずがない。ティタニアは油断なく構えていた。
「何をしにここへ?」
「わかってるくせに。この状況で、アルネリアから貴女の抹殺を依頼された以外で、ここに来れると思う?」
「では、私と戦うつもりですか」
「それならこの坊やを人質にしているんだけどね」
バネッサはジェイクの頭を撫でていた。その手つきに悪意はない。
「この子、頭の中を出血しているわ。大きな出血じゃないけど、一刻も放っておけば手遅れになりかねない。貴女と戦っている間に容態が変わる可能性が大きいから、どうしようかと思っていたのよ。目標の相手以外、死なせるのは流儀に反するわ。それにこの子、警備でも何度か見たけどとっても親切な少年なのよ。威張り散らさないし、良い騎士になるわ。見殺しにするのは忍びないわね。
それで、貴女がどうしたいのか聞いてから戦おうと思って」
「どうしたいか、ですって?」
「そ。ぶっちゃけ聞くわ。貴女、この子のこと好き?」
思わぬ質問に、ティタニアは地面が揺れたかと思った。この言葉こそが、ティタニアにとってはどんな奇襲よりも効果があったろう。質問の意図が分からず、狼狽するティタニアだがなんとか答えを返した。
「そ、それは――人間として非常にできた少年だとは思っていますよ? さすが最年少で神殿騎士団に選ばれるだけはあります」
「あっはっは、剣帝の弱点を見つけたかも。思ったよりか、あんたウブねぇ? そんなこと聞いてんじゃないのよ、男としてどう見ているか聞いてるの」
「男としてって・・・相手は子供で・・・」
ティタニアはこのような口撃を受けたことがなく、しどろもどろになるだけだった。曖昧な返事だが、この反応で十分かとバネッサは考える。
「――まぁ、お子ちゃまをこれ以上からかってもしょうがないか。貴女の反応で十分だわ。それに素質――特性持ちか。ここで死なせるべき人材じゃないようね。
よし、決めたわ」
バネッサは手を一つ叩いて立ち上がると、手を上げて降参の意志を示した。その態度をティタニアが訝しむ。
「何のつもりです?」
「見てのとおり、戦闘の意志はないわ。今日は降参する」
「傭兵がそれでいいのですか?」
「気が乗らない依頼を受けてもしょうがないわ、金と名誉だけが私の全てってわけじゃないし。それより一つお願いがあるのだけど」
バネッサの企み深そうな笑みに、ティタニアが思わず半歩下がる。
続く
次回投稿は、11/15(木)8:00です。