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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その251~悲願⑪~

「貴様!」

「おっと」


 タウルスの左裏拳を後転で躱し、再度窓から外に出るバスケス。先ほどは窓の外から出たふりをして、実はすぐ窓枠の上に隠れていたのだ。そこで気配を完璧に消し、機を窺っていた。

 タウルスの背中から飛びのいたシャイアがバスケスの後を追う。今度こそ、バスケスは下に逃げていた。シャイアが見下ろしたその先で、先ほどの女が血まみれで倒れていた。遠目にも助からない出血量だ。バスケスとは距離があるのに、どうして死んでいるのか。バスケスは左胸の一点を指で突くと、その場から走って去っていった。


「まさか――百歩殺し?」

「なんだ、それは?」

「殺しの技術です。打ち込んでから、ちょうど百歩で相手を殺すという。正確には浸透剄の一種ですが、効果を遅くすることで相手を時間差で殺すことが可能です。

 達人になると、何日後とか、何年後とかでも思うがままにできるとか」

「それを、ただの女に? 何故?」


 バスケスが最後に笑顔だったことを考え、シャイアは声を絞るように答えた。


「多分、その方が楽しいからでしょう」

「良人の死を見せることがか? 異常だな、バスケスとは快楽殺人者か?」

「まさに。バスケスにとって世の全ては楽しいか、そうでないかだけ。子供の頃、虫を戯れに殺したことから歯止めが効かなくなり、対象は大きい物へ、そしてより強い者へ。何より、蛇よりも執念深いその気質が、彼の上達を支えました。強い快楽が伴う殺人を経験するためなら、どれほどの修練でも耐えることができる。それこそ、呪いのように。それが『格闘家』バスケスという男だと認識しています」

「今ここで、なんとしても殺す必要があるということか」

「ええ、しかし――」


 バスケスは長期戦も厭わないつもりだとシャイアはわかっていた。もうすぐ日が暮れる。バスケスは気配を断つことにも長けているから、暗闇の戦いではますますバスケスに有利になる。シャイアは深い森の中の闇に取り残される気分を味わっていた。それはかつて辺境の原生林で魔物に囲まれて一晩を過ごすよりも、ある意味では恐怖だった。


***


「あ~あ、拙者のところまで来ちまったでござるかぁ」

「何者だ!」


 バスケスを追って建物の屋上に到達した拳を奉じる一族の男が見たものは、頭を抱えながら胡坐をかいて座る男だった。男は諦めたような表情でざんばら髪をかき上げると、着流しからだらしなく脇をかきながらゆらりと立ち上がった。

 当然、拳を奉じる一族の男は油断なく構えている。


「貴殿らに恨みはないが、仲間からの依頼にて御免つかまつる。拙者、土岐伝蔵と申すしがない『素浪人』にてござる。出会ってすぐになんでござるが、お命頂戴」

「おい、ふざける――」


 先頭の男が一歩踏み出そうとした瞬間、懐に伝蔵の姿があった。一歩で詰める脚力、そして抜刀術は刀身を見ることすらできなかった。

 伝蔵が剣を鞘に戻すと、拳を奉じる一族の男は何が起きたかを理解した。上半身がなくなった自分の下半身が、眼下に見える。上半身が一刀のもとに吹き飛ばされたことを悟ると、逆に意識が覚醒した。


「貴様っ、バスケスの仲間か!」

「む、胴を両断したのに元気でござるなぁ。切れ味はよかったが、収まりが悪かったか。拙者もまだまだ未熟」

「質問に答えろ!」

「仲間、とは心外にござるな。拙者はあそこまで外道ではござらん。せいぜい金を貯めて幼子に貢ぐことぐらいしか、やることがござらん。その際にちょっとばかり『奉仕活動』を要求するくらいでござろうかな?」


 伝蔵の言葉の意味するところを知り、男が激昂した。



続く

次回投稿は、11/11(日)8:00です。

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