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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その244~悲願④~

 そうしてジェイクが剣を振るのをしばし眺めていた二人だが、一つ挙げるとすればジェイクの体力は素晴らしかった。だがシャイアにとって剣の鍛錬をただ眺めるだけは少々もどかしく、せめて果汁でも買ってきて差し入れようかと考えた。


「ティタ――ティニー殿、少し買い出しに出てまいります。今しばし、こちらにいらっしゃいますか?」

「――え、ええ。そのつもりです」

「では少ししたら戻りますので」


 そうしてシャイアは駆け出したが、ティタニアが一瞬油断していたことにはそこまで注目していなかった。シャイアはまだ幼く、ティタニアがジェイクを見つめる視線にある思いに気付くには、少々経験が足らなかったのである。

 そしてシャイアが駆け出してしばらくすると、シャイアは街の異変に気付いた。先ほどここに来た時にはまだ人通りもあり、果汁屋の屋台があったはずである。だが出店が少ない場所とはいえ、ここいらには商店もなく、ある程度は常に出ていることは既に調査済みだったのだ。それが、今や一つもない。

 シャイアは首をかしげると、走って広場に向かった。そこなら人通りもあるだろうと想定し、何らかの露店が一つくらいあるはずだと考えたのだが、シャイアの目の前には人っ子一人いなかったのである。

 シャイアはここにきて、この光景の異常さに気付いていた。


「これは一体――?」

「シャイア殿」


 突然シャイアの背後から呼び止める者がいた。シャイアは背後を突かれたことで反射的に飛びのいて構えていたが、相手は敵意を持っておらず、剣を後ろ手にして礼をしていた。

 その前身は鎧に覆われており表情を知ることはできないが、アルネリアの騎士であろうことは想像にやすい。ただ街中で全身鎧とはなんと物々しいことかと、シャイアは訝しんだ。


「あなたは?」

「作戦中には名は申しませぬが、このままにて御免つかまつる。できればここにてしばし時を過ごしていただければ」

「友人と、尊敬すべき剣士を待たせています。顔も出せぬ者の頼みを聞くいわれはないかと」

「どうしてもでしょうか?」

「くどい」


 シャイアはそのまま横を通り過ぎようとしたが、その瞬間周囲から鎧の騎士たちが一斉に現れていた。その威容に、シャイアの足が止まる。

 最初の騎士がくるりと振り向く。


「ならば、力づくでも足止めさせていただく。我々はその覚悟でいることをお伝えしておきましょう」

「・・・できますか?」


 シャイアは地面を全力で踏み込んで、騎士の頭を足場に一瞬で跳ねのいた。少女とは思えぬ跳躍力に騎士たちから声が漏れたが、行く手にも騎士がさらに出現する。加えて、元の騎士たちも全身に鎧を着こんでいるとは思えぬほどの速度で追いかけてきた。


「む。ならば」


 シャイアは目の前の三階建ての建物の廂とわずかな飛び出た足場を頼りに、屋上まで一瞬で駆けあがった。猿と原生林で追いかけっこをさせられたこともあるシャイアにすれば、この程度朝飯前である。


「全身鎧ではさすがにこれは真似できないでしょう」


 このまま撒いてやろうと駆けだした途端、目の前からも横からも騎士たちが屋根の上に上がって来た。まさかの動きにシャイアは建物の下を見たが、鎧の騎士はシャイア以上の跳躍力で建物を上がってくるのである。

 その異常な光景に、シャイアの表情が曇る。


「なるほど、本気ということですね。ですが、私も相当頑固だと師匠に言われていまして」


 シャイアは深呼吸すると、全力で駆けだした。夜の森林で魔獣に追われて訓練したこともある。いかに身体能力に優れようと、追いかけっこで適うものかとシャイアは騎士たちを振り切るつもりでいたのである。


***


「遅いですね・・・」


 ティタニアはシャイアがいなくなってからジェイクの剣技をじっと見つめていたが、ふと我にかえった。シャイアの帰りが遅いと思ったからだ。果汁屋はティタニアも来る時に見たが、そこまでさほどの距離があるとは思わなかった。

 そしてティタニアはシャイアの気配を探ろうとして、周囲の異常に気付いたのである。


「これは・・・?」


 周囲からは人の気配が消えていた。いや、正確には建物の中には人がいる。だが外には誰もいないのである。いつの間にこんな状態になったのか。いや、こんな状態になるまで油断していたことに、ティタニア自身が驚いていた。

 ティタニアがさらに周囲の様子を探ろうと、警戒心を上げた直後である。ジェイクもまたティニーの様子が変わったことに気付き、剣を止めていた。


「ティニーどうした?」

「様子が変です。気を付け――」


 その瞬間、ジェイクに突然襲いかかる者がいた。ジェイクが剣を振っていたのは、それなりに大きい街路樹の傍だ。街路樹の傍には横道があり、死角がある場所で剣を止めて一休みすることなど普通はないが、ティニーという達人が傍にいたことと、剣の修業に没頭していたこと、疲労していたこと、そしてティニーの方に気をとられたことなど、複合の要因がジェイクの隙を作った。

 それでもジェイクは初撃を止めたが、襲い掛かってきた者は複数だった。同時に襲い掛かる複数の攻撃を止めることはできず、棍棒のようなもので後頭部を殴られると、ジェイクはその場に倒れ伏した。



続く

次回投稿は、10/28(日)9:00です。

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