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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その240~拳士バスケスvs仮面の拳士(大司教)エルザ④~

 エルザの体が場外に吹き飛んでいたのであった。


「……あ?」


 もちろんバスケスは触れてはいない。エルザが自力で場外に出たわけでもない。ただ、エルザの体が自動的に吹き飛んだのである。

 バスケスもわけがわからないが、思わずエルザが吹き飛んだ方向と逆の方向を見ていた。そこには遠当てを繰り出したであろう競技者が構えを解かずに立っていた。


「すみません、長ベルゲイ。若き才能が潰されることに、どうしても我慢ができませんでした」

「――ふん、構わんさタウルス。我々にとってどうせこの協議会は余興と演習程度の意味合いしか持たん。どのみち明日以降は全員棄権だ。だが、どうしてやるならもっと早くやらなかった?」

「というと?」

「あの女拳士、アルネリアの指揮官の一人だ。おそらくは今日の夕刻も指揮を執るだろう。だがあの怪我ではアルネリアがどれほどの医療技術や回復魔術を行使しようとも、夕刻までに復帰は無理だ。貴様はあの女の命を救ったが、特に我々に利点はないな」

「長・・・」


 タウルスはベルゲイの厳しい物言いに項垂れたが、ベルゲイもまた自分と共にいつの間にかこうして最前列に出てきたところからも、ただこの試合を眺めていただけではないことはわかっている。ただ立場上、やむを得ないというところだろう。 

 そしてエルザが場外に出たところで、審判がはっとしたようにバスケスの勝利を告げた。だがそこに歓声はなく、拍手も歓喜もなかった。それどころか観衆の多くはバスケスを憎しみのこもった目で睨んだが、それもバスケスが人睨みすると目を逸らさざるをえなかった。そしてエルザはアルネリアの関係者が慌てて運んでいった。かろうじて息はしているが、重態には違いない。俄かにアルネリアの大会本部が慌ただしくなっていた。

 そして勝利した当のバスケスは、足早にベルゲイとタウルスの方に近づいていた。


「おいおい、何してくれてんだテメェら!?」


 殺気立つバスケスに対し、タウルスは汚らわしいものを見るように、憎しみの視線を向けて射た。


「遠当てだ。わかるだろう?」

「そんなことを言っているんじゃねぇんだよ! 俺の戦いに水をさしたこと、どう落とし前つけてくれんだって話だよ!」

「・・・あのままでは相手が死んでいただろう。むしろ我々は助け舟を出したと思うが? それともこの大会での勝ち上がりには興味がないのか?」


 ベルゲイの冷たい物言いに、唾を吐いて不快感を露わにするバスケス。


「舐めてんのか!? このバスケス様が相手の生死の判断を間違えるかよ! あの一撃じゃ一生寝たきりになるだけで、死にゃしねぇよ!」

「な、なんてやつだ」

「狂犬だな」


 タウルスは呆れて侮蔑を隠そうともしなかったが、ベルゲイはただ冷静にバスケスを断じていた。このような輩が世の中にいることをベルゲイは承知しているし、別にそれに対してどうと思うこともない。

 だがバスケスの方は収まりがつかないのか、殺気を一層膨らませて二人を挑発した。その殺気に周囲にいた観衆が後ずさり始めた。


「で、どう落とし前つけてくれるってぇ?」

「落とし前をつける気はない、その必要もない。それとも我々二人を同時に勝つつもりか?」

「んだとぉ!?」

「やるというのなら、俺もこちらにつくぞ?」


 そこに顔を出したのは獣将ロッハ。ロッハもまた殺気を隠そうともせずに、バスケスに向き合った。ロッハもまた、先ほどの戦いにはらわたを煮えくりかえらせる一人だ。大会の規約がなければ、いますぐにでもこのバスケスをぶちのめしたいところだった。

 もちろんヴァーゴであれば既に飛びかかっているだろうが、ヴァーゴのその様子を思い浮かべることで、ロッハは逆に冷静さを保っていた。


「貴様がこの場でこれ以上を求めるのなら、もう容赦せん。大会の規約など無視しでも貴様をぶちのめす。意外と俺に賛同する奴らは多そうだな?」

「・・・へっ」


 気付けばその辺からも殺気立つ者は多くおり、バスケスのことを睨み据える競技者がじりじりと集まっていた。バスケスもさすがに不利と感じ取ったのか、冷静さを取り戻していた。

 だがバスケスは逆に不敵に笑うと、その場にいる者に向けて悪態をついて去って行った。


「テメェらの面は覚えたからよ。このままじゃすまさねぇぜ?」

「ふん、よく吠える犬だ」


 冷静になったタウルスがバスケスを罵ったが、バスケスはさらにニヤニヤと嫌な笑顔を浮かべて去って行った。そしてバスケスがいなくなった後、ロッハとベルゲイが同時に呟く。


「・・・あの手の類の男は執念深い。気を付けることだ」

「なんという目をする男なのだ。獣人にもあそこまで闘争本能をむき出しにする奴はそういない。獣よりも獣らしく、しかも残酷な獣ときたか。できれば関わりたくはない、が」


 もしこの先当たることがあれば、戦士の名誉にかけて全力で叩き潰していやるとロッハは心に誓っていた。

 そして固く誓う者はもう一人、シャイアだった。掴む欄干をへし曲げんばかりの勢いで握りしめている。ゴーラがぽん、と肩を叩いた。


「よく耐えた」

「・・・間違いなく、やつこそ『あの』バスケス。私はこのために――」

「運命は巡り合わせる。きっと戦う機会は訪れるであろう。その時まで研ぎ澄ますがよい」

「はい、師匠」


 シャイアは改めて決意を固く秘めたのだった。



続く

次回投稿は、10/20(土)10:00です。

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