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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その238~拳士バスケスvs仮面の拳士(大司教)エルザ②~

 エルザは本能で距離をとった。接近戦がまずいことくらい本能でわかる。だがバスケスは意外にも、開始と同時には間を詰めてこなかった。予想外の行動に、警戒していたエルザの緊張が一瞬だけ緩む。

 その隙を突くように、バスケスが一瞬でエルザとの間を詰めていた。


「はっ!?」

「お前、拳士のくせに対人での格闘戦が不足してるな?」


 バスケスの指摘はもっともだった。アルネリア内でも格闘術の訓練はあるが、それはあくまで護身術から発展したもので、打倒を目的とした格闘術ではない。ミリアザールが経験から得た技術の一部も伝承されてはいるが、ミリアザールとて我流での格闘術にすぎず、きちんとした技術体系を考えたわけではない。そもそもがミリアザールは圧倒的な速度と腕力、魔術を併用した格闘術なので、相手より能力で上回っていることが前提である。

 その点、人間の格闘術というものは相手よりも劣勢であることが前提なので、全ての状況を想定している。バスケスがもっとも得意とするのは、人間相手の素手の格闘戦なのだ。

 バスケスはエルザの防御を嘲笑うかのように、防御の隙間をぬって打撃をねじ込んだ。体を守れば顔面、顔面を守れば体。打撃を散らして、エルザを滅多打ちにした。


「うわぁ、容赦ねぇ」

「そりゃあ戦いだからしょうがないけどよ」


 あまりに一方的な攻撃、だがエルザが倒れることはない。それもそのはず、バスケスは明らかに手加減していた。口笛を吹きながら、腰を入れて撃つのではなく手首だけをきかせた拳を打ち続ける。相手に打撃を残すのではなく、相手の表面だけを的確に破壊する打撃の連打。

 エルザは大したダメージを受けていないが、撃たれた部分がみるみる腫れていく。既に顔面はエルザの美しい顔が台無しになるほどに腫れあがっており、女性の観客などは悲鳴を上げながら目を背け、ひどいものでは気絶する者まで出る始末。

 だがエルザにとって一番屈辱だったのは外見の変化ではなく、明らかに手加減されながらここまで一方的に嬲られる事実だった。確かに普段は魔術を併用した格闘術を主とするエルザだが、基本的な修練も怠ったことはないと自負していた。アノーマリーに負けてからはそれこそ一層の修練を繰り返したのに、人間相手にここまで差があってたまるかと、冷静なエルザでさえ思わずむきになっていた。


「おのれ!」

「ははっ、キレて強くなれるんなら苦労しねぇよ!」


 エルザが間を詰めようとすると、それを察して間を取るバスケス。リーチではあきらかにバスケス優位なので、距離をとりながら攻撃を加えるだけでもバスケスは勝利するだろう。だがバスケスの狙いは当然違うところにあった。

 エルザがさらに間を詰めようと、やや無理な突貫をした瞬間である。この試合を見ていたロッハが叫んでいた。


「いかん!」

「かかりやがった!」


 今までとは質の違うバスケスの拳がエルザの腹にめり込んだ。突然重くなった拳の衝撃がエルザを遅い、エルザはたまらずもんどりうった。一撃で肺の空気が外に搾り出される感覚。胃の内容物は全て逆流し、エルザは恥や悔しさすら考える暇もなく、その場にうずくまってしまった。


「カウンターでの内蔵打ちだ。三日は飯が食えんぜ」

「う、ぐぅえ」

「さぁて、こっからがお楽しみの時間だ」


 この試合の終了は、風船が全て割れてから一定時間が終了するか、場外か、降参を宣言するか。つまり、声もだせず身動きも取れず、反撃もできない状況では試合を終わらせる方法がない。



続く

次回投稿は、10/16(火)10:00です。

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