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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その236~銀の一族ヴァトルカvsルナティカ⑤~

「どこへ行くのですか? あと5も数えるうちに時間切れですが、時間稼ぎのつもりですか?」


 既にヴァトルカは踏みだしかけていたので、ルナティカが弾けたように動いたことで一瞬反応が遅れた。絶妙な間での飛び出しでなければ即座に反応して取り押さえていたところだが、ルナティカが何をするのかヴァトルカには興味が湧いた。そのためわざと半歩遅れて、ルナティカの後についたのだ。

 ルナティカが予備の武器に向かうのを見て、ヴァトルカは奇妙な印象を覚えた。試合の前には気にしてもいなかったことだが、そこには網が置いてあった。確かに網は殺傷力がないということで武器として認められているし、アルフィリースも同じような武器を使っていた。

 だがヴァトルカは網そのものにも確かにおかしいと思ったのだが、その形状にも違和感を覚えていた。


「(あれは網? だが何かが違うような・・・?)」


 だが高速の戦闘ゆえ、そのことに気使う時間もない。ヴァトルカは一瞬意識をとられたが、さすがに武器をとらせるほどの余裕をルナティカに与える気はなかった。


「何を企んでいるかは知りませんが、いまさら足掻くとはみっともない」

「だから、お前は戦士失格だと言った!」


 ルナティカはヴァトルカの言葉を振り払うように、そのまま踏み込むとさらに加速した。競技場の端に設置してある武器を取るにしては、加速しすぎである。このままでは止まることはできないのでは――そうヴァトルカが考えてルナティカを捕まえようとしたが、ルナティカはさらに加速して、ヴァトルカの手をすり抜けた。


「何!?」


 ヴァトルカの手をすり抜ける瞬間、ルナティカは背後をみないままマチェットを後ろに放り投げた。ヴァトルカも虚を突かれたが、その程度の投擲では命中しない。だがルナティカが投げたマチェットには紐が巻き付けてあり、それがヴァトルカに絡みつく。

 ヴァトルカは反射的にマチェットを外そうと掴んだが、その眼前に無数の木の球が出現した。ルナティカが申請していた武器の二つ目であるが、形状が撒菱まきびしのように尖っていた。ヴァトルカは高速で動いていたためちょっとしたものが当たっても怪我をしやすいのだが、くわえて尖った形状であると反射的に人間は身を護ってしまう。木製の撒菱などで大したダメージを受けるはずもないことをヴァトルカが理解したのは、防御のために手を挙げた後のことだ。

 ヴァトルカの視界が一瞬塞がれると、今度は防御に上げた手と反対の腕がマチェットのせいで急激に引っ張られた。


「そんな馬鹿な!?」


 ルナティカは競技場から勢いよく跳躍していた。それこそ躊躇のない、全力の跳躍だ。ルナティカの跳躍力なら、下手をすれば観客席まで届くだろう。だがそれでは場外でルナティカの敗北となってしまう。

 ヴァトルカが困惑したが、ルナティカは紐でヴァトルカを引っ張りながら、反対の手で縄の一部を掴んでいた。すると網が急激に締まり、ルナティカの引っ張った一部が伸びたのだ。いわば、広げ切った投網を締める時の要領だ。ヴァトルカが感じた違和感はこれだったのだ。

 そしてルナティカは伸びた部分をヴァトルカが予備の武器を置いておく場所にひっかけ、空中でぐんと姿勢制御をしていた。ヴァトルカの武器設置の部分を活かして、外に飛び出たルナティカが競技台に反転してくる。もちろん外に引きずりだされ、このままでは場外になるのはヴァトルカだけになってしまう。

 ヴァトルカはルナティカの用意と機転に感心したが、それ以上にかっとなった。こんな子どもだましの手段で勝とうと考えられたのが、癇に障ったのだ。


「舐めるな!」


 ヴァトルカは自ら競技台を蹴った。それはルナティカにとどめをさすため。手の中に作った空気の塊を、ルナティカのどてっぱらに命中させるためである。ルナティカもまたヴァトルカを引っ張る手が軽くなったことからその意図を察したが、どう防御するかは考えていない。 

 だがここまではルナティカの想像通りだった。仮にこの一撃を食らったとしても、時間切れで自分の勝利だ。吹き飛ぶ時間を利用すれば、より確実に勝てる。確実でないのは、自分の命だけ。下手をすれば、いや、かなりの確率で致命傷になると考えていた。しかも相手を挑発し、逆上させている。手加減は望めない。

 身の安全よりも、勝利と仲間の名誉を優先した。そのことがルナティカには誇らしくもあり、そう感じる自分を新鮮だと思っていた。暗殺者だったころと違い、自分も傭兵になったのだと確信を得ることができた。

 いつ死んでも仕方がないし、それだけのことをしてきたのだとルナティカはいつも心に決めていた。しかもこのような銀色の連中にイェーガーが目を付けられるくらいなら、自分はいない方がよいのではとさえ思っていた。心残りはアルフィリースとリサ、それにラック。

 特にラックからは注がれた愛情に何も応えてはいないのではないかと、それだけが申し訳なくて、生き延びて何かを伝えたいと考えた。

 とその時、何かがはまるようにルナティカの脳裏に浮かぶ映像があった。


「(この技は――)」


 ルナティカは咄嗟に構えた。それが何なのか、そしてどんな結果をもたらすかを考える時間はなかった。だがその構えをした瞬間、今度はヴァトルカが驚きに目を見張った。

 そしてヴァトルカは付きだそうとした攻撃をやめ、自らの武器の台だった場所を蹴り、競技台にルナティカと共に戻って来たのである。そして丁度そこで時間切れとなり、ルナティカの勝利が宣言されたのだった。



続く

次回投稿は、10/12(金)11:00です。

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