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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その233~銀の一族ヴァトルカvsルナティカ②~

 ルナティカはいつものようにマチェット様の二刀。対するヴァトルカは、自前の稲妻形状の風変わりな二刀である。互いによく似た外見、雰囲気、その構えと戦い方に、会場が何やら因縁めいた空気を感じ取り始めていた。

 二人の間には熱気ではなく、見ているとまるで空気が冷えていくような冷たい殺気が漂ってきたからである。


「これ・・・競技会だよな?」

「ああ。そのはずだが」

「まるで決闘、いや、殺し合い見てぇな空気だぜ」


 観客が、他の競技者が空気の変調を感じ取る。徐々に観客の歓声が静まり、ついにはしんとしてしまった。異様な空気の中、ヴァトルカは得物をひゅんひゅんと回しながら自然体でルナティカの周りを歩き、ルナティカは常にヴァトルカに正対しながら油断なく構えていた。

 そしてヴァトルカがふっと笑った瞬間、その姿が完全に消えた。


「消えた!?」

「いや、上か!」


 闘技者の中で目が良い者はその姿を追えた。だが上から襲い掛かるヴァトルカの姿がかき消えたかと思うと、ルナティカの姿もぶれ、その間に実に7度のつばぜり合いの音。ヴァトルカの姿が再び見えた時には、ルナティカの体のあちこちから小さな出血が見られていた。

 ヴァトルカが木剣についた血を、確かめるように指でなぞった。


「ふむ、反応速度は中々。外で育った割には上物と判定しましょう。よほど良き戦に恵まれましたね」

「・・・風船。なぜ狙わない?」

「? だって、面白くないでしょう? そんな他人が決めたやり方で決着をつけるなんで。私は私のやり方で、私たちには私たちの流儀がある」


 そして指でふき取った血を舐めとるヴァトルカ。その行為と共に艶やかに微笑んだヴァトルカを見て、多くの競技者も審判も理解した。この女は危険極まりないと。

 既にその危険性を理解しているジェミャカは、手を合わせて合掌した。そして審判が何かしらを言おうとした瞬間、今度はルナティカの方から仕掛けた。実力差は明白。だがルナティカの方から仕掛けたことに対し、ヴァトルカはさらにぞくぞくする快感と、失望を同時に覚えていた。


「(先ほどの攻防で実力差はわかったはず。それでも動くのは愚策であり、棄権が正解。が、しかし。この展開は私がもっとも望むところですね)」


 ヴァトルカには試合を終わらせるつもりはない。場外も許さず、風船も壊さず。時間いっぱい、死なぬ程度の攻撃を加え続けるつもりだった。ヴァトルカの頭には任務は残っている。それはルナティカの資質を見極めるというもの。だが、楽しんではいけないとは言われていないし、資質というものは追い込んでみて初めてわかることも多い。

 そのことを言い訳に、ヴァトルカは多くの素材を壊してきた。もちろん無事に生かした者も多いが、里の外部で活動した者の経験として、外部の素材が使い物になったことは滅多にない。どうしてそんな無駄なことに駆り出されるのか、というのが密かなヴァトルカの不満である。

 それならば里の中で仲間と共に訓練に明け暮れる方が余程有意義だし、年に一度戦士長に万全の態勢で挑める方が、戦士としては余程有意義である。ジェミャカのように食い意地が張っていない限り、外の世界になど興味を引かれるものなどさしてないのだが、他者が流す血の色は悪くないとヴァトルカは思う。

 自分が倒した相手の、後悔と許しを乞う目の光が、何とも言えず快感だとヴァトルカは常々感じていた。今回の相手は特別である可能性が高いとはいえ、それでも制限をつけられたわけではない。ヴァトルカは喜々としてこの任務を遂行しようと、心に決めていたのだ。


「さあ、良い声でお鳴きなさい」

「・・・あなた、戦士として失格」


 ルナティカの反論は敗者のさえずり程度にしか感じていなかったヴァトルカだったが、異変を感じたのはその直後のことだった。



続く

次回投稿は、10/6(土)11:00です。

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