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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その227~森の戦士オルルゥvsウィクトリエ②~

「(そんな、馬鹿なっ。こちらの動きを全部予想し、当てているとでも言うの?)」

「トテモガンジョウ。ホメテヤル」

「舐めるなっ!」


 ウィクトリエは防戦しながらも懸命に思考を巡らせていた。後退すれば一息に制圧されるだろう。それならばと、ウィクトリエは強引に間合いを詰めた。棒の一撃一撃に、ウィクトリエの意識を刈り取るほどの威力はない。ウィクトリエはダメージ覚悟で間合いを潰し、強引に超近接戦に持ち込もうとした。

 棒の長さを考えれば懐では振るえないだろうし、最悪、格闘戦になれば膂力の差でどうにかなると考えたのだ。だが棒の振るう長さより間合いを詰めても、まだ棒がウィクトリエを滅多打ちにした。どうしてこんなことが起こるのかとよく見れば、オルルゥは棒を手の中でするすると短く持ち、間合いを自在に変化させているではないか。


「(なんという棒術なの・・・だが、それでも!)」


 ぐらつく意識をなんとか保ち、ウィクトリエがオルルゥを押し倒すべく、タックルのような姿勢で低く潜ろうとした。その瞬間、ウィクトリエの意識は完全に暗転した。

 何が起きたのかウィクトリエにわかる術はない。だが周囲の観客はオルルゥの足がウィクトリエの顔面を見事に蹴飛ばすのを見ていた。しかも一撃ではなく、高速の乱撃。ロッハが数えた限り、7度の蹴りが一度にウィクトリエを襲っていた。いかにウィクトリエが頑丈でも、顎に七度蹴りが入れば意識を保つことは難しかった。


「勝負あり、か」

「マジかよ。ウィクトリエが触れもしねぇとはな」


 ロッハが残念そうに首を振り、ラインは信じられないものを見たと言わんばかりに呻いた。そしてチェリオが付け加えた。


「あんなのがいるから、誰も南方戦線を攻略できないってことか。やはり人間は侮れないな」

「お前、知っていたのか?」

「噂にはなっていましたよ。でもワヌ・ヨッダの戦士団は獣人じゃなくて、他の化け物たちを相手にしているって噂でした。それが何かまでは知りませんが」

「そうか、一度話を聞いてみたいものだな」

「ソウカ、ナラバキカセテヤル」


 そう語るロッハたちの傍に、いつの間にかオルルゥが立っていたのである。まるで気配なく接近されたことに驚き、思わず獣人二人は身構えたが、ラインだけはのんびりと構えていた。


「アルフィリースか?」

「サキホド、スコシハナシタ。メがサメタラ、チャンとハナシ、スル」

「それは構わんが、お前が敵じゃないと言う証拠は?」

「ダイシンリンのセンシはヒキョウなマネはシナイ。ショウコはナイが、ワレワレはダイダイカラミティとタタカッテキタ」


 カラミティ、と名前を呼んだことにラインは興味が惹かれた。


「なるほど。じゃあ武器は預かるし、お前には魔術である程度制約をかけさせてもらう。それでもいいなら来るといいぜ」

「カマワナイ。デハコヨイ、マタ」


 オルルゥはそれだけ述べると、あっさりと去って行った。獣将二人を前に堂々とした態度からも、若いながらも既に風格のようなものを漂わせている。見た目からはアルフィリースとそれほど変わらないように見えたのだが、何か覚悟のようなものをもってここに乗り込んできているのがわかった。

 ラインはそれを知りたいと思い、オルルゥの申し出を受けたのである。


***


「やれやれ、誰も彼も盛り上げてくれる」


 ディオーレがそれぞれの試合を見ながら、ため息をついていた。だがその表情は明るく、自分もまた観客のように楽しんでいることがありありとわかる表情だった。

 ディオーレの経験をして、これほどまでに強者が集まる統一武術大会は記憶にない。各国の代理戦争として一定の権威と盛り上がりを見せるとはいえ、あくまで貴族や諸侯としての戦いという色合いが強く、ここまで一般にひらけた大会は久しぶりだった。

 特にディオーレの記憶にある限り、勝ちあがる者はおおよそ同じような面子になっており、また中には八百長のように予めどちらが勝つか決まったような試合もあった。諸国の力関係を考えればしょうのないこともあるとはいえ、戦いの場に政治を持ち出すことをディオーレはよしとしなかった。

 だが今回の大会では傭兵が容赦なく騎士を倒したり、互角に戦う者が増えていた。それだけ傭兵が経験を積む場があるということではあまり望ましくはない状況だが、大会は盛り上がっているのでディオーレも歓迎していた。まさかここまで残った64名の中に、アレクサンドリアの騎士が5名しかいないとは驚きの結果だったが。それもここまで二人が負けており、ディオーレの予想では自分以外に一人が残ればよい方だと考えていた。

 その自分の相手も油断ならないのだが。


「ディオーレ様、次ですな」

「ああ」

「まさかディオーレ様が魔物ごときにおくれはとりますまいが、予想はいかほどですかな?」


 年配の騎士がやや底意地の悪い質問をしたが、ディオーレの心持を全てわかっての質問だ。ディオーレは薄く笑いながら答えた。


「ディルム、わかりきったことを聞くな。私に油断はない。いつも勝つのは私だし、相手が魔物だろうが魔王だろうが変わりはない。だが相手を魔物よばわりするのは礼を欠くぞ?」

「はっ、これは失礼いたしました」

「相手は人気者だからな。今回ばかりは我々が悪役だろうが――?」


 ディオーレは次の対戦相手のことを考えて答えたのだが、その時ディオーレの目にもまさかの光景が映った。



続く

次回投稿は、9/24(月)12:00です。

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