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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その226~森の戦士オルルゥvsウィクトリエ①~

「誰?」

「ヨゲンドオリだ。モリのセイレイはウンメイをタメシタモウ」

「? リサじゃないのね?」

「スグにアエル。ソウ、ツギのタタカイで」


 まさか、この声の主がオルルゥかと閃いたアルフィリースだが、確かめようがない。既に気配は傍から消えていたし、アルフィリース自身にも追いかけるどころか体を起こす体力も残っていなかった。

 そして次の試合の開始がアルフィリースの耳に遠く聞こえているところで、アルフィリースの意識は眠りについたのだった。


***


「イェーガーのウィクトリエ、森の戦士オルルゥ、前へ!」


 審判ウルティナの合図で、二人の戦士が競技場で対峙した。オルルゥは今日も変わりなく、南方の蛮人らしい最低限の体を隠す衣服と仮面、それに棒を持っていた。ウィクトリエも同じく軽装だが、得物として槍を持ち込んでいた。そして念のため、腰には剣を佩いている。

 槍よりは剣の方が得意なウィクトリエだが、間合いの差を考えてこの選択をした。少なくとも相手より間合いの長い武器を持っていないと、試合にならないではと危惧してのことだ。

 そしてウルティナが試合前の定型的な説明を始める前に、オルルゥが突然仮面を脱いだのだ。

 その瞬間、ウルティナもウィクトリエも目を見張った。短髪で褐色肌の女戦士は、蛮族という触れ込みからは程遠い高貴な気配を纏っていた。美しく知性的な青い瞳が、ウィクトリエをじっと見据え、そして言葉を紡いだ。


「モリのセンシ、アイテにケイイをハラウトキ、カメンヌグ」

「私に敬意を?」

「ソウ。オマエ、ニンゲンジャナイナ? ダガ、トテモツヨイセンシのニオイ。ソシテ、ツギのアルフィリースのナカマ」


 オルルゥが棒を背後でひゅんひゅんと回転させる。もう臨戦態勢に入っているようだ。


「オマエタオシテ、ツギのタタカイのニエにスル。それがウンメイのアイテへのテミヤゲ」

「・・・なるほど、挑発されているようですね」

「チョウハツジャナイ。ワタシよりツヨイセンシ、ココニイナイ。キンゾクがナイ、マジュツもナイ、キのブキダケならワタシがサイキョウ」

「両者離れて!」


 注意が終わり、ウルティナが合図する。おそらくオルルゥが心からの言葉を告げていることはウィクトリエにもわかっていたが、だからといって恐れる理由もなかった。むしろアルフィリースとの戦いの前の贄にすると言われて、燃える自分がいることに気付いた。


「なるほど、私もやはり母と同じ戦士の血筋ですか。こんなことで血が湧き立つとは。強敵とはわかっていますが、私もアルフィリースとやりあってみたいので、簡単には負けませんよ?」

「ソウカ、ガンバレ」


 そう言ったオルルゥには本当に悪気はなく、淡々と事実と素直な気持ちを述べたのだとウィクトリエにはわかったので、静かな気持ちで戦いに臨むことができた。集中力は最高、わずかなオルルゥの動きも見逃すものではないと構えていた。

 そしてウルティナの開始の合図と共に、ウィクトリエは同時に七発の攻撃を受けた。


「・・・え?」


 腹部に二発、胸に一発、左膝に一発の突き。後頭部に一撃の払いと、顎、右足にも一発ずつの横薙ぎ。知覚できただけで七発の攻撃にウィクトリエは襲われていた。

 一つ一つはそれほどのダメージにはなっていない。ウィクトリエの見た目は人間でも、体の構成は人間のそれとはかなり違う。防具を纏わずとも、全身重装備の戦士とそれほど変わらぬ強度を持つ。

 だからこそ少しぐらりと傾く程度で済んでいたが、全てが急所を躊躇なく狙った一撃だった。それを七発。普通の人間ならもうこれで試合が終わっている。ウィクトリエは今までオルルゥに負けた戦士たちのことを思い出した。何もできず、武器すら抜けずに負けていた。その理由がよくわかった。


「無拍子・・・」

「オモッタよりガンジョウ」


 オルルゥの動きは一歩目だけは速かった。だがそれも獣人に比べればそれほどでもないだろう。それでも反応できないのは、予備動作が一切ないこと。ヤオの動きを捕えることもできるウィクトリエの目をもってしても、オルルゥの攻撃は光ったようにしか見えなかったのだ。

 防御できる相手ではない。ウィクトリエは痛みをこらえて反撃を試みたが、動こうとする端からオルルゥの攻撃が当たり、動きを押さえられる。左手を動かそうとすると、突きで戻された。足を前に運ぼうとしたら払われた。ウィクトリエは反撃どころか動くことすらままならず、じわりじわりと後退せざるをえない。

 その戦いを見ながら、ロッハが唸っていた。


「南方の蛮族、その中でも最大勢力の戦士であるワヌ・ヨッダの戦士団。その中の大隊長以上の戦士だ。とんでもないのが出てきた」

「そいつは強いのか?」


 ラインがロッハに質問する。ロッハは畏れと共に頷いた。


「獣将と互角に戦うのもいる。いつも戦況が膠着するのは、やつらの部隊が出てきてからだ」

「人間が獣将と互角に戦えるのか?」

「ウルスとやらはリュンカを打倒したわけだが?」

「そりゃあルールありの競技会だからだろう。何でもありの野戦で、獣人に勝てる戦士が何人いるかね?」


 ラインの疑問ももっともだったが、そこにチェリオが付け加えた。


「ロッハさんよ、ありゃあ大隊長じゃないぜ」

「何? どうしてわかる?」

「仮面の飾りと彫り物。仮面の飾りの個数と種類、大きさで階級を現す。仮面の大宝石が一つで小隊長、小さいのを何個つけているかで強さがわかる。中隊長なら大宝石2つ、大隊長なら3つだ」

「あいつの仮面・・・ちょっと待て、何個ついてる?」

「見ただけで、7つ。人間の階級でいうなら、師団長どころか大将軍じゃないのか? 加えて、奴らは一つ強敵を倒すごとに体に彫り物を入れる。俺は大隊長級の戦士を見たことがあるが、それでも両腕が埋まる程度だった。あの女の刻印は四肢どころか、背中も胴体もびっしりだ。あんなワヌ・ヨッダの戦士は見たことがない。

 おそらくは部族を統率する立場の戦士が出てきたんだ。獣将どころの強さじゃないかもしれないぜ?」


 チェリオの言葉が正確がどうかを知る術を彼らは持たないが、確かにオルルゥはウィクトリエを圧倒し始めていた。まだここまで一撃当てるどころか、武器すら振るっていない。



続く

次回投稿は、9/22(土)12:00です。

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