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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その219~千年の因縁①~

 ティタニアはその背中を見送ると、試合が見える位置にそっと移動した。その両隣に、音もなく立つ影が二つある。拳を奉じる一族の長であるベルゲイと、戦士ウルスだ。

 ベルゲイは静かにティタニアに問いかけた。


「余裕だな、見ず知らずの少女に指導するとは」

「余裕ではありませんよ。ただ、才能の原石を見ると嬉しくなるのは、誰しも同じでしょう?」

「我々は眼中にないというわけか?」


 ウルスの殺気立つ一歩前の鋭い問いかけに、ティタニアはふっと笑った。


「眼中にないわけではありません。そこのベルゲイ殿に伍する競技者はほとんどいない。このままいけばどこかで私と当たるでしょう。強者の気配は肌で感じていますよ。かつて私を追い詰めた者たちと、似た気配をね。

 私から言わせてもらえれば、貴方たちの方がよほど暇なのだと思いますが。千年経ってもなお、まだ私を追いかけてくるとは。もう勇者を助ける者を育てるのは止めたのですか?」

「魔物たちの時代は去り、我々の一族は役目を終えた。貴様を討つのを諦め、只人として生きる決意をした者が多いのも事実だ。

 我々が暇とは思わぬが、確かに我々は異常だろうな。妄執に憑かれていつ活動を再開するとも知れぬ貴様を倒すため、何百年も費やしてきたのだから。

 が、今更やめられぬ。貴様だからこそわかってくれると思っていたが」

「ええ、わかりますとも。千年役目を忘れられない私も十分異常ですから。ただ、私は可能であれば役目など負いたくはなかった。それでも私は逃げられなかった、そんな選択肢は用意されていなかった。逃げるという選択肢があった貴方たちとは、決意のほどでは敗北しているかもしれませんね」


 寂しそうに笑うティタニアを見てウルスは想像と違う剣帝に戸惑った。かつて我々の一族を慈悲なく虐殺し、全てをなげうって逃げたと聞いていた。その後も追跡する者を悉く返り討ちにし、一度の敗北も知らぬ最強の女傑。目的のためなら自らの幼馴染や、許嫁になるはずだった男すら躊躇いなく全てを返り討ちにする。そんな酷薄な女であるという想像が、今ウルスの中で揺らいでいた。

 だがベルゲイにとってそんなティタニアは予想外ではないのか、じっとティタニアの横顔を見ていた。

 会話が一度なくなった後、ティタニアの方が再度問いかけていた。


「――で、貴方たちの屋号はどちらになるのです? ポワン? それともクラーク?」

「・・・フォウストだ」

「――ああ、あの誠実な若者の。確かタリクとかいいましたね。どうりで真面目そうなわけだ」

「開祖ではないが、貴様と直接関係があった時代の戦士だとは聞いている。一つ聞きたい。タリクとはどのような戦士で、貴様とはどのような関係だったのか」


 ティタニアは横目でベルゲイをちらりと見、問いに答えた。


「知っての通り、私は物心ついてからはほとんどが旅に出ています。タリクという若者とは顔見知りでも、口をきいたのはただの一度だったでしょうか。

 無口で、誠実な拳闘家だったと聞いています。姿を見かけた時は、いつも大樹に向けて拳を打ち込んでいた。屋号を背負っての勢力争いには無縁で、ただひたすらに己の技を磨く。そんな若者だったようですね」

「――どんなことを話したのだ」


 ベルゲイが問いかけた時、会場で歓声が上がった。シャイアが勝利したのである。ティタニアは懐かしむようにふっと笑って、踵を返した。


「今の長ベルゲイよ、私に勝てたら教えてあげましょう。少なくとも貴方たちが誠実な戦士でよかった。私も誇りをもって剣を振るうことができる。

 戦うなら何時いつ如何いかなる時でも受けて立ちましょう。それが私の業であり責任ですから。が、私の前に立つのなら、思い残しのない者だけが立つがいいでしょう」


 ティタニアはそれだけ告げると、その場を去って行った。その背中を見ながら、ウルスが呟いたのだ。


「あれが――あの覇気のない女性が剣帝ティタニア? 伝承ではもっと殺伐として、悪鬼のような女だと聞いていたのに」

「――なるほど、口伝は本当だったのか」

「は?」

「なんでもない。貴様は知らずともよい」


 ベルゲイは思わず口をついて出た言葉がウルスに聞かれたことを、少々後悔しているようだった。そしてそれきりベルゲイは一言も話さず、試合に臨んでいった。元々無口なベルゲイではあるが、ここまで話をしないのはウルスにとっても初めての経験だった。

 ベルゲイが何を知っているのかは気になるところだったが、ウルスもまた自らの成すべきことに集中する必要があった。次の相手が容易ではないことはわかっていたからだ。

 試合を終えて勝利したベルゲイが戻ってくると、ウルスは準備を終えて待ち構えていた。ベルゲイがようやく口を開いた。


「次だな?」

「はい」

「並ではない相手だ。どこまで戦うかは貴様に任せるが、戦うからには勝て」

「わかっています。本来全力で戦う必要のない相手ですが、私にも少々因縁がありまして」


 ウルスは反対側の入り口にいる相手を見た。そう、ウルスの相手はアルフィリースなのだ。



続く

次回投稿は、9/8(土)13:00です。

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