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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その215~統一武術大会四回戦、獣将チェリオvs剣帝ティタニア②~

 だがチェリオが突き出した拳を、ティタニアはわずかに頭を傾けるだけでよけてしまう。凍るように冷静な瞳と、チェリオの燃える瞳が交錯した。


「ふむ、速いですね」

「まだまだ!」


 チェリオはそのまま猛然と連打を繰り出した。チェリオは正式な武芸を習ったわけではないが、ボルサヌーアでは日々が生存のための戦いの連続だった。強いと評判の戦士やならず者の戦いは常に見てきたし、その中でもっとも有効と思われる技術は見て吸収してきた。

 拳は「振る」ものではなく、「突く」ように繰り出すことが最速だと知っている。直線的な動きにはなるが、その分頭と体を細かく振って、相手を追いかけながら的を散らして拳を突き出した。

 だが、その拳を全てティタニアは最小限の動きで避けていく。ティタニアの表情にはまだまだ動かない。


「些か単調ですね?」

「心配するな、面白くなるさ!」


 チェリオの言葉通り、チェリオの拳の軌道が突然変化した。避けるティタニアを追尾するように軌道変化した拳に対し、初めてティタニアが拳を払い落とすように防御した。

 チェリオの一連の攻防はこの攻撃を当てるための仕込みだったのだが、当たらなかったことで一度距離をとった。


「これも躱すかよ。どんな反射速度だ?」

「なるほど、面白い攻撃です。筋肉のおこりまで隠せていれば、当たっていたでしょうが」

「そりゃどうも。で、まだ防御に徹するのか?」


 ティタニアは開始からまだ剣を抜いていない。ここまでティタニアの戦い方は一貫しており、最初は防御に徹し、相手の出方を見る。そしてまるで稽古でもつけるかのように、少しずつ攻撃の速度を上げていくのだ。さらには使う武器もばらばら。腰に木剣を佩いてはいるが、ここまで槍、双剣、手斧とそれぞれ別の武器で勝ち上がっていた。

 そしてチェリオの言葉を受け、ティタニアが予備の武器から選択したのは、ポールアクスだったのだ。速度で利のある獣人相手のこの選択に、会場がざわついていた。

 もちろんチェリオ自身も驚いていた。


「おい、そりゃあどういうことだ?」

「愚策だと思いますか?」

「・・・いや、やればわかることだな」

「その通りです」


 ティタニアが嬉しそうに微笑んだ瞬間、チェリオがもう一度突撃していた。今度は軌道の変わる拳での連打。手数でティタニアの動きを封殺しようとしたのだが、そのチェリオの初撃に合わせてポールアクスが振り下ろされていた。


「うおぉ!?」


 チェリオは腕をポールアクスに叩き落とされて地面を転げ回った。そして顔を上げた時、背中の毛が逆立つような悪寒を覚えて、何も確認せずに宙に飛んだ。その足元をティタニアのポールアクスが通過した。


「さすがに勘がよい」


 ティタニアの軽口に合わせる余裕はチェリオから消えていた。ティタニアは驚くべきことに、ポールアクスを振り回すことによる体の流れをそのまま移動に転用していた。木製とはいえ重量のあるポールアクスを力づくで制御するのではなく、流れるように一連の移動から攻撃を開始する。

 その攻撃が全てチェリオの動きの間に飛んでくるので、チェリオは躱すのが精一杯で、反撃の余裕などもない。この攻防を見て唸ったのはイライザである。


「攻撃だけでなく、移動にまで重量のある武器を利用するとは。どうしてそんなことが可能なのだ?」

「予兆じゃよ」


 イライザの疑問に答えたのは、午前の会議が終了しこちらに出てきたミリアザールである。ミリアザールはアルベルトがひいた席にぽすん、と飛び乗ると腕を組んで説明を始めた。


「戦いが高速化すると、目で見て反応するよりも読み合いになる。相手がどこを狙っているか、あるいはどこに攻撃したいのか。相手の狙いや視線、好みなどを把握することが重要になる。そのために最も重要で嘘をつかないのが、筋肉のおこり。

 高名な格闘家には肉体美を強調するよりも、どちらかというとゆったりとした服を着る者が多い理由がそれよ。筋肉のおこりを少しでも見えなくするためじゃな」

「理屈ではわかります。筋肉が動かない限り攻撃はできませんから。しかし、ここまで圧倒するとなると、何手先まで読んでいるというのですか?」

「読んでおるのではなく、誘導しておる。自らの攻撃で相手を誘い、防御、避けからつなぎまで、全てティタニアの掌の上じゃ。

 それを可能とするのは力みのない動作による歩法じゃが、あの領域に達するまで武器を振るうのがどのくらい時間がかかるのか。ポールアクスに関しては、ティタニアは素人だと思っていたのじゃが・・・」


 まるで達人のようではないかと言いかけて、ミリアザールは言葉を飲み込んだ。そこから考えられる一つの恐ろしい可能性。ティタニアは剣だけではなく、あらゆる武器に精通しているのではないかということ。剣帝は武器を選ぶことなく最強だとしたら、獲物を奪って無力化するという方法は無意味かもしれないのだ。

 そんなことを考えるうちにも、戦いの趨勢はティタニア優位となっていく。チェリオは本能で危険を察知していた。



続く

次回投稿は、8/31(金)13:00です。

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