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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その213~統一武術大会四回戦、エアリアルvsジェミャカ④~

「あんた、よくやったわ」

「・・・」

「今日は退くわ。だけど、いつか殺す」

「できれば直接戦いたくはないな。今のままでは勝てる気がしない」

「はっ、そりゃあそうだわ。次に会う時までに、そこのヴァトルカ並みには風を扱えるようになってなさい。そうでなきゃ話にもならないわ」


 ジェミャカの捨て台詞には聞こえない言葉を受け、エアリアルは勝者とは思えないような浮かない顔でジェミャカを見送った。

 去りゆくジェミャカに、明らかな不機嫌な顔のヴァトルカが不満をぶつけた。


「忠告はしましたよね、ジェミャカ? どういうつもりですか」

「わかってはいたわよ。ただ見られたところで私たちの戦い方に対策を立てられるとは思えないし、私たちの『舞』の豊富さはあらゆる状況に対応できる。それに私達のように単純な能力じゃないお姉さまたちもいるわけだし、見られたところでどうということはないわ。それは歴史が証明しているでしょう?

 それよりもルナティカへの影響を考えたわ。まだ舞いも舞えないようでは、迎え入れる価値無しと考えるのだけど」

「舞の発現が早いか遅いかは才能に関係ありませんよ? あなたはただ暴れたいだけでしょう?」

「はっ、そんな悠長なことをいつまで言っているのやら。それに必要とあれば、ヴァトルカ自身が次の試合で引き出すつもりでしょう? あなたがやってよくて、私がやっちゃいけないのは理不尽じゃないのかしら?」


 じろりとヴァトルカを睨みつけるジェミャカだったが、ヴァトルカはその殺気を無表情に受け流した。


「・・・まあいいでしょう。あなたが暴走するのは今に始まったことではないですし。ただ私の方が節度というものをわきまえていることはお忘れなく」

「カッときた時にヤバいのはどちらかしらねぇ」


 ジャミャカは嫌味と共に引っ込んだが、ヴァトルカは諦観しているのか、無表情でその後に続く。会場ではメイソンが先ほどの魔術の使用を反則ではないことを説明する声が響いている。なんでも魔術が使用できないように競技場内に結界を張ってはいるが、結界の範囲から出さえすれば魔術の使用を禁止するとはどこにも書いていないとのことだった。よって、エアリアルの行為は反則にはあたらないとの判断だった。

 とはいえ、場外負けを考えれば現実的には競技場の上空くらいにしか結界の効果の及ばぬ場所はなく、そこに自力で到達できるほどの跳躍力を持つことは獣人でも不可能だと考えたうえでの設計のはずなのだが。それでもその予想外を覆す誰かがいないかと、あえてミランダは規則を作る時に『魔術使用禁止』の一言を明言せず、『魔術は原則使用できない』としか記載しなかった。

 そんな解説をさておき、銀の一族の背を見ながらウィスパーとのっぺらぼうが話しあっていた。


「ありゃあなんだい、ウィスパーの旦那。地面が揺れたようだが、魔術じゃないのか?」

「アルネリアの結界は完璧だ、魔術は使えない。何だろうな、特殊能力とでも呼ぶべきなのか。だがこれで彼女たちの異常な戦闘力に説明がつく。極度に高い身体能力に加えて、一人で軍を粉砕できる理由はこれか。しかも一人一人能力が違うようだ」

「大地を揺らす能力と、風を蹴ったように見えたぜ?」

「もし彼女たちの能力が私の想像通りなら――思ったよりも対策は立てやすいかもしれないがな」

「それはどういうことだ?」


 ウィスパーは不敵に笑ったが、隣で不思議そうな顔をするのっぺらぼうにはその理由を語ることはなかった。


***


「――さて、ちょっくら全力で戦ってきますよ」

「勝算はあるのか?」


 獣将ロッハの言葉に肩を竦めたのは、同じく獣将のチェリオ。隣にはリュンカもいる。応援としてヤオやニア、その他イェーガーに属する獣人達もいた。チェリオはそれらの応援を嫌がったが、ロッハが声をかけて集めたのである。

 だが彼らを前にしてもチェリオの態度はいつもと変わることがなく、どこか飄々としていた。


「さてねぇ。こればっかりはやってみないと何とも言えませんよ」

「貴様、私にあれだけの啖呵を切ったのだ。無様な戦いは許さんぞ」

「ははっ、こりゃあ耳がいてぇな」


 苦笑しながら準備運動を繰り返すチェリオだが、その動きの軽やかさを見るに闘志が漲っているのがヤオには見て取れた。もっと細身の戦士だと思っていたのだが、隆起した筋肉には一部の隙もなく、戦いを待ち受けているように見える。

 チェリオの名前が競技場から呼ばれると、チェリオは顔をぱんぱんと叩き一転笑顔になり、軽く手を挙げただけで、無言で出て行った。彼の次なる相手は、あのティタニアなのだ。

 その背後で獣人たちが口々に声をあげる。


「なんだかチェリオさんって、とらえどころがないんだよなぁ」

「そうなんだよな。獣将の中で一番若くて俺たちと世代も近いはずなのに、あまりとっつきにくいというか、そっけないというか」

「直属の部下もガラの悪いのが多いしなぁ」


 獣人にガラもへったくれもあるかとニアは思ったが、そこは口に出さないでおいた。だがその疑問はリュンカも同様のようだ。


「確かに私もチェリオが獣将に選ばれた理由をあまり知りません。確か欠員の補充で獣将の地位を与えられたのでは? 軍属での出世ではなく、現場での功績だと聞きました。私が南方戦線に出向いていた時だと思いますが」

「そうだ。奴は正式には軍属ではなく外部協力の戦闘集団だったが、その実力と功績が認められ、ロン宰相とドライアン王で説得して丸ごと引き抜いたのだ。本人が何度も辞退したが、軍属となっても今まで通り好きにやってよいとの王のお達しでな。最後は渋々ながらも引き受けたと聞いている」

「王の誘いを断るとは変わり者だ。どこの出身なのです? 相当グルーザルドの中でも辺境だと聞いていますが」

「ボルサヌーアだ」


 その名前を聞いて獣人たちがざわついた。グルーザルドに限らず、獣人達なら誰でも知っている荒れ果てた土地。各国獣人の国と南方の大森林の空白の地帯にあり、土地を追われた獣人の犯罪者が流れ込む場所だ。南方からの蛮族の襲撃にも絶えずさらされ、常に争い事が絶えない土地なのだ。彼らなりの一定の秩序があるとは聞くが、まっとうな獣人なら恐れて近づこうともしないほど物騒な場所としてボルサヌーアは有名だった。



続く

次回投稿は、8/27(月)13:00です。

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