戦争と平和、その211~統一武術大会四回戦、エアリアルvsジェミャカ②~
そして審判であるメイソンが開始の号令をかけた。エアリアルは既に二本目の槍を手にし、さらには予備の武器まで補充している。
「それでは、始め!」
「きゃっはー!」
歓喜の声と共に飛び出したジェミャカは、十分すぎるほど引き絞った矢のようだった。だがただの矢と違うのは、迎撃するエアリアルの槍を見てふわりとかわすことができる。決して戦いの興奮に任せて、ジェミャカは無茶な突撃をしているわけではない。
エアリアルの槍を躱しざま、振りかぶった錘を叩きつけるジェミャカ。エアリアルも大振りをなんなく躱すが、地面に叩きつけられた錘は折れるのではなく粉砕されていた。
木製とはいえ一撃で錘を粉砕し、地面を抉る力。多少の当りどころを選ばず、人間を即死させる力がある。エアリアルだけではなく、会場に緊張感が走った。
「避けるのは上手いねぇ?」
「それだけではないぞ?」
エアリアルは腰につけていた手裏剣を取り出した。刃が途中で曲がった形状のそれらを明後日の方向に二つ同時に投げ出すと、槍を再び構えて突撃したのである。
「形から考えると、曲がるのかなぁ?」
「想像に任せよう」
ジェミャカは興味深そうにエアリアルの攻撃を捌いている。彼女が何をするのか見定めるつもりでいるのだろう。
そしてエアリアルが三連突きを放つと同時に、別方向から手裏剣が同時に二つ飛んできた。三方向から同時の攻撃にも、余裕の表情のジェミャカ。
「器用に誘導するねぇ?」
「躱せるかな?」
「余裕っしょ」
ジェミャカの言葉通り、三方向からの同時攻撃もジェミャカは目を閉じたまま体を折り曲げて曲芸よろしく鮮やかに躱していた。だがこれもエアリアルは織り込み済み。
エアリアルが突きから回転での払いに移行した時、ジャミャカはエアリアルの槍の尾の変化に気付いた。
「(何か、ついてる?)」
ジェミャカは咄嗟に腕で防御したが、ジャミャカの腕に巻き付くようにして風船が割られていた。エアリアルが槍の尾に取りつけた物は、短便に錘をつけたものを10本も付けた武器だった。これなら仮に防御をしても、確実に相手の風船を割ることができる。
ジェミャカが鬱陶しそうにその武器を睨み、振り払って距離をとった。
「審判、あんな武器あり?」
「事前に審査を受けている、問題ない。根元では一つであり、一つの武器としてカウントされる。同様に投擲武器も本数ではなく、重量制限で審査されている」
「ハァ? 聞いてないし」
「わざわざ説明もしていないが、但し書きには書いてある。規則をしっかり読まないのは貴様の落ち度だ。
それにあれを見て文句を言われても困るのでな」
ジェミャカが目にしたのは、エアリアルが既に10本以上の手裏剣を構えている場面。あれらが全て変化して襲ってくるとしたら、さすがのジャミャカにも余裕はない。
ジェミャカの表情が苛立ちに変わった。
「あぁ、もう! 鬱陶しいなあ!」
「避けてみろ!」
エアリアルが手裏剣を同時に放つ。エアリアルとてこれが致命傷になるとは少しも考えていない。だが、これは武術大会という一定のルールに基づいた大会なのだ。それならば、戦い方はいかようにでも工夫できる。
参考にしたのはアルフィリースの発想。根が真面目なエアリアルは奇抜な武器を用いた方がいいだろうということで、ドワーフに相談し、様々な武器を見せてもらった。今回使用した鞭の形状はそのうちの一つである。
エアリアルがジェミャカとの戦いを想定したわけではない。だがルナティカのごとき速度のある相手と戦う時、どうするべきかは常に考えていた。そして次の相手の気配から、ルナティカと同じような身体能力であることを想定し、念のために持ち込んでおいたのだ。根拠があったわけではないが、ここまでは想像通りの展開となっている。
予想とは違ったのは、ここからだった。
続く
次回投稿は、8/23(木)14:00です。