戦争と平和、その208~統一武術大会四回戦、神殿騎士イライザvsバウンサーのバネッサ②~
「それでは始め!」
合図と同時にイライザの双剣がゆっくりと回転を始める。重量のある双剣は、遠心力や自重の軌道を変化させることで繰り出す。腕力だけで扱う武器ではなく、そのため構えていない場面では非常に脆いといえる。だからバネッサが距離をとってくれたのは、正直ありがたかった。
イライザが様子を見るためにゆっくりと武器を回転させていると、ゆっくりと回るように動いていたバネッサが突然笑顔になった。
「先制攻撃を念のため警戒して後方に飛んだけど、その必要もなかったかな?」
「?」
「私の攻撃の気も読めないかぁ。レーベンスタインとやってた少年の方が、勘だけなら相当マシね。まぁちょっと指導をしてあげましょう」
バネッサの言葉の意味を考える暇もなく、イライザの左肩にはバネッサの手が置かれていた。
そして――
「伏せ」
の言葉と共に、イライザは身動きが全く取れなくなり、左膝を地面についていた。バネッサが笑顔で語り掛ける。
「予測、反応速度、体捌き。減点20点ってところかな? あ、減点100点で失格ね?」
「っ・・・ふざけるな!」
イライザが自分からさらに肩を下げ、バネッサの姿勢も崩して反撃を試みる。だがバネッサは脱力したままその回る独楽のように、イライザの連撃を躱す。
イライザの連撃を躱しながら、バネッサが語りかける。
「双剣の悩みは、常に初撃をどうするかということ。馬上で突撃時に扱うならまだしも、対面での戦闘では非常に使いにくい。連携を重んじる騎士様では、そこまで考えたこともないかもしれないけど」
「・・・」
「仮に初撃の準備をくれるような甘い相手だとしても、回転のリズムや軌道が一定では、そこから繰り出される攻撃方法なんて種類が知れてしまう。あなたの真面目な性格も災いするのか、手に取るように攻撃のパターンがわかるわ」
「・・・黙れっ!」
バネッサの指摘を振り払うかのように、イライザが強い振り下ろしの一撃を放つ。と見せかけて軌道が途中で変化して突きへと変わる。普通なら見切ることすら困難なその突きを前に出ながら躱し、すれ違いざまにイライザの耳元でバネッサが囁く。
「その突きも、連撃で放てないとね。牽制なら最低3発、決めるつもりなら6発が必要だわ。あ、私相手なら最低20発は欲しい所ね。はい、減点10」
「~~」
そしてすれ違いざまに風船を二つ割っていくバネッサ。イライザはここまでの攻防で相手との実力差が天と地ほどもあることを理解したが、それでも黙って負けるわけにはいかない。何か相手に隙を作れないかと考えたが、その間を与えるほどバネッサはお人よしではない。
相手に戦い方を教えつつも、自らが手抜きをするほどバネッサはイライザを舐めているわけではないのだ。武器を持って出てきたのがその証拠なのだが、イライザはそこまで考えが及ぶわけではなかった。
バネッサはイライザが立ち直る暇も与えず、構えをとる。
「じゃあ次は防御ね。どこまで防げるか見せてみなさい!」
「くっ!」
イライザは横薙ぎの攻撃を繰り出す。重量のある双剣での防戦は向かない。理想は攻撃し続けることで相手に攻撃させないことだが、そうも言っていられない状況だ。せめて横払いで相手に距離をとらせたかったのだが、バネッサは躱すのではなく、振り払われる剣の下をかいくぐって突撃してきたのである。
当然、普通の人間なら姿勢の制御などできようはずもない低さだ。
「なあっ?」
「そらっ!」
いかに低い棒の下をくぐるか、という踊りがあることを大道芸などでは演目の一つとして出すことはあると聞いたことはあるが、それにしてもその姿勢のまま攻撃してくるとは考えたこともないイライザ。最初の二発は躱したが、三発目が腹を捕えた。
「むぐっ」
「目はそこそこよし、柔軟な思考での対応にやや難あり。減点20!」
イライザはバネッサの上体が起きる一瞬の隙に反撃に出たが、バネッサはそれもするりと躱してさらに反撃を叩きこむ。そしてイライザが双剣でバネッサの攻撃を受け止めることに成功すると、ぱっとその手を放して二剣に持ち替えた。
続く
次回投稿は、8/16(木)14:00です。