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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その207~統一武術大会四回戦、神殿騎士イライザvsバウンサーのバネッサ①~

「ロゼッタ、まさか最初から狙ってたのか?」

「ああ、わざとカー姉に攻めさせてな。正面からやってもよかったんだが、木剣じゃあ十分に打ち合えねぇよ。それに、ここはどうしても勝っときたかったからな」

「なんだよ、冷静な戦い方をするようになりやがって」

「良い傭兵団に拾われたよ」


 ロゼッタが声援を送る仲間の方を見る。


「毎日自分以上の剣士と鍛錬ができる。それだけでも今の傭兵団にいる価値があるってもんだ」

「ふぅん、確かにアタシはここ最近全力で剣を振る相手がいなかったからな。基本的な鍛錬は怠っていないつもりだったけど、やっぱ戦いってのは常に戦場に身を置いてこそだな」

「アタイもそう思う。カー姉も働き口が欲しくなったらウチにきなよ、紹介はしてやるぜ?」

「生意気になりやがったよ。そうとばかりもいかねーことは百も承知だろうが」


 カサンドラはロゼッタの肩を小突いた。カサンドラにはターラムで経営する孤児院がいくつもある。実質的な経営は他人に任せているが、カサンドラの目が光っているからこそ大きな問題は起きていないともいえる。カサンドラとしてはリリアムのように、完全にターラムは離れる気はなくなっていたのだ。それも条件次第では考えてもよいと思うくらいには、魅力的な誘いだった。

 そして次の試合、バネッサvsイライザである。前説がいつもにまして高らかに盛り上げる。


「それでは次の試合は、注目の女性同士の対決だ! 一人はアルネリアの上級騎士イライザ! 美貌の双剣使いの前に切り捨てられるのは今日の敵か、それとも観客の皆か? なおイライザには特定の相手はいないそうだー!」


 妙な前説にイライザが顔を真っ赤にし、その表情を見て笑うのはミランダ。アルベルトが珍しくため息をついた。


「ミランダ様ですね、この悪戯は?」

「適当なところで負けなさいって言ったのに、全力で勝ち上がるからよ。せいぜい羞恥心で緊張するがいいわ」

「思わぬところに敵がいたものだ」


 従妹のイライザのことを思いやるアルベルトのため息だったが、ミランダは油断なく相手の姿を眺めていた。


「・・・まあそんなことをしなくても、厳しいでしょうけどね。相手――今大会の優勝候補かもよ?」

「それほどの女傑なのですか?」

「あれから調べ直したのだけど、やはり怪しい点はまだ見つかっていないわ。B級の傭兵と、この前正式に上級騎士に昇進したイライザ。実力なら本来比べるべくもないけど、ただ、スピアーズの四姉妹からあれほどの賞賛を引き出す相手よ? ただの傭兵のわけがない」


 ミランダが警戒する中、人気者らしくバネッサは観客に愛想を振りまいている。四方八方に投げキスをしながら、胸元の開いた服で時にセクシーなポーズも取って見せる。そんな姿に審判もやや顔を赤めながら紹介をした。


「さて、こちらは既にご存知の方も多いだろうが、バウンサーのバネッサだ! 今回ばかりは酒場も休み、自分の腕試しをするために出てきた。今回は出来る限り本気で戦ってみるので、応援よろしく頼みますとのことだ! 

 なおバネッサも独身だが、自分より強い男としか付き合う気はないそうだー! 我こそはと思う男は名乗りを上げろー!」


 審判のあおりに観客の何人かが応え、笑いが巻き起こる。今までとは少し違った盛り上がりを見せる会場で、のっぺらぼうとその肩に止まった猫の姿のウィスパーが会話をしている。


「バネッサの姉さんより強い男だってよ。世の中に何人いるのかね?」

「私の知る限り、確実に強いと呼べる男は一人もいないさ。何でもありの状況なら、バネッサより優位に立てるだけの逸材を私は知らんよ」

「すげぇ褒め言葉。じゃあ今回の競技場でなら?」


 のっぺらぼうの言葉にウィスパーが答えることはない。ウィスパーもまたバネッサの全力をしばらく見ていない。どこか飄々としていて、昔から無理難題をどれだけ押し付けても涼しい顔でこなしてきた女だ。バネッサが本気で戦うところなど、ここから先何度見ることがあるのだろうかと思う。

 そのバネッサだが、今日は自らの武器を持参していた。木製のトンファー。戦場で使用する傭兵は少ないが、熟練すれば小手と武器を兼用することができる。

 二人が面を合わせて審判の注意を聞く。その中でバネッサがイライザに話しかけた。


「ハァイ、アルネリアの上級騎士さん。可愛いお顔ね」

「・・・そういう貴女も美人だ」


 イライザは真面目に返事をしたつもりだったが、それがバネッサのツボに入ったのか、思わず戦い前に笑い出すバネッサ。


「フフフフ、あなたってば性格も可愛らしいのね。戦い方もまっすぐで羨ましい限り。でも今日はお姉さんがちょっと戦いの厳しさを教えてあげようかな?」

「戦場の苛烈さは知っているつもりだ」

「ああ、そういうんじゃないの。私、今回の大会はちょっと優勝してみようかなって思ってて。努力じゃどうしようもない領域ってのを体感させてあげるわ」

「・・・思い上がっているのか?」


 挑発ともとれる言葉に、イライザがさすがに反発する。だが笑顔でバネッサは返した。


「いいえ? ただあなたはどう見ても、才能に溢れる種類の人間ではなさそうだから。そんなにカワイイお顔をしているのだから、あたら戦いでその花を散らしてしまうより、今から女を磨いて良い男を捕まえる人生もあるってことよ。

 それか、人を捨てるかどちらかね」


 人を捨てる、ということばにどきりとするイライザ。その心中を見透かすかのように、先に距離をとったバネッサ。イライザもまた二剣ではなく双剣を構える。相手は一人だが、双剣の方が間合いがとれるために有利と思って持ってきたのだ。

 イライザの心中には穏やかではない感情が渦巻いたまま、審判が上げた右手を下ろして試合開始を宣言した。



続く

次回投稿は8/14(火)14:00です。

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