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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その206~統一武術大会四回戦、ロゼッタvsカサンドラ~

***


「勝者、セイト!」


 統一武術大会は続く。最初の数試合が白熱した試合だったからか、どの試合も手に汗を握る試合となることが多かった。その中で残ったイェーガーはライン、ヴェンに続いてセイトも勝ち残った。

 セイトの相手はA級の傭兵だったが、重装に身を包む相手を的確に崩しての勝利となった。セイトの実力なら楽勝だろうと思っていた面子もいたが、セイトも汗だくになっていた。ここまで勝ち進んでくる競技者は全員猛者揃い。セイトといえど、楽に勝てる相手はいないのだ。

 そして続いてダロンと、ミューラーの鉄鋼兵ウーナとの試合があった。サティラの副官であるウーナはその巨体を活かしてここまで勝ち上がってきたが、さすがに相手が悪かった。巨人の中でも精兵であるダロンを前に善戦したが、最後はダロンが紳士的に相手を場外に押し出し、戦いは終了した。

 他にも獣将ロッハ、ブラックホーク2番隊隊長ルイ、カラツェル騎兵隊赤騎士メルクリード、第1シードのレーベンスタインなどシード勢が順調に勝ち進む中、ドロシーと第八シードのティーロッサの戦いが激戦となった。


「てぇりゃあああ!」

「くっ!?」


 ドロシーは開始直後から、無尽蔵にも見える体力でティーロッサを攻め立てる。ティーロッサは最初こそイノシシをいなすがごとく鮮やかに捌いていたが、ドロシーの剣は戦いの中にも鋭さを増していった。

 ドロシーは女性にしては類まれな身体能力と、そして優れた五感をよく特徴として挙げられる。だがアルフィリースだけは、


「ドロシーの長所は素直なところ」


 と、別の意見を述べた。多くの者は首をかしげたが、その続きの言葉を知る者は少ない。知るのはエクラやリサ、それにラインくらいだろうか。ドロシーの指導をてづから行っているのはアルフィリースなのだ。


「真綿が水を吸い込むとはよく言ったものだけど、ドロシーの場合そこからさらに発展させることができるのよ。弱点があるとすれば座学と魔術がからきっしなところだけど、勘の良さが欠点を補うわ。

 戦士として必要な能力はすべて備えている。ちょっと見ない逸材よ」


 果たしてその言葉通り、ドロシーはティーロッサの剣術を見る間に吸収し、そして捌いて反撃するまでに至ってしまう。最初こそあまり見ない女流の騎士剣に戸惑ったようだが、慣れてからは一方的に攻め立てて試合を終わらせたのである。

 つばぜり合いから足を掛けられ地面に倒されるティーロッサ。喉元に剣を押し当てられると、しばしの逡巡の後、潔く負けを認めた。


「私の負けですね。戦いの中で剣が鋭くなるとは、恐れ入りました」

「いやいや、魔術ありの戦いなら勝ち目はないっぺ。競技会だから勝てただけだぁ」


 ドロシーの屈託のない笑顔と田舎言葉にも、ティーロッサは嫌味なく返答していた。さすがに模範とされる女性騎士の筆頭であり、負けたティーロッサにも勝ったドロシーにも歓声が降り注いでいた。

 そして女性同士の華麗な剣技を見た後は、いかにも粗野で朴訥とした戦いになった。もっとも、激しさという点では本日一と評価される試合になった。カサンドラvsロゼッタである。


「でぇりゃあああ!」

「うぉらあああああ!」


 互いに似かよった戦い方をする剣士だが、体格に上回るカサンドラが激しすぎて普段は豪快に見えるロゼッタの方が技巧派に見えてすらいた。躱すことなど全く考えていないかのような打ち合いは、観客を大いに盛り上げる。よく木剣がもっているのが不思議なくらいに正面から打ち合う二人だが、さすがに100合以上も打ち合うと剣が木っ端微塵に砕け散った。

 そうして剣を取り換え、既に互いに三本目の剣となった。さすがにこの段階になると、体格的に有利なカサンドラが徐々にロゼッタを追い込んでいた。つばぜり合いになると、カサンドラがロゼッタを押し込んでいく。


「カハハ、強くなったじゃねぇのロゼッタ! だが後がねぇんじゃないのか!?」

「カー姉あんた・・・鈍ってんな?」


 勝ち誇ったような笑みを浮かべたカサンドラに対し、ロゼッタは不敵に微笑んだ。その瞬間、ロゼッタがぱっと剣を手放したせいで、カサンドラが前のめりに倒れ込む。前に出そうとする足を払い、手を引き掴むと、ロゼッタは地面を背にしてカサンドラの腹に足をかけ後方に投げ飛ばした。


「うわあっ?」


 予想もしないロゼッタの投げ技に、カサンドラは宙を飛んだ。そのまま着地は見事に決めたカサンドラだったが、その場所は既に場外だった。


「勝者、ロゼッタ!」


 観客が大いに盛り上がる。競技場の上から見下ろすロゼッタの手を取り、カサンドラが競技場に戻った。


続く

次回投稿は、8/12(日)14:00です。

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