戦争と平和、その202~統一武術大会四回戦、ヴェンvs神殿騎士アリスト②~
そしてその2人が対峙すると、無口な2人には珍しく同時に声を発していた。
「「あの――」」
互いに同時に声をかけたのに驚いたのか、2人が目を丸くした。そしてヴェンが年長のアリストに譲ったのだ。
「お先にどうぞ」
「では――いつから剣を?」
「物心ついたときには。そちらは?」
「私は恥ずかしながら、剣を握ったのはアルネリアに拾われてからです」
アリストが気恥ずかしそうに答える。この会話を聞いていたのは審判とセンサー能力に等しい聴力を持っていた者だけだが、その内容が非常に物騒であることに気付いたのはさらに何名もいなかった。
さらにヴェンがアリストに問いかけた。
「ではそれまでは我流で――?」
「はい、恥ずかしながら。今では随分と荒っぽいやり方だったと考えています」
「今ではもっと上手くできる?」
「そうですね。ですがそれはお互いに、でしょう?」
アリストの言葉にヴェンが微笑んだ。
「そうですね。ただ護る者が増えたせいで、中々思うようにゆきませんが」
「それはお互いさまですね――今の待遇に何の不満もありませんが、時に窮屈だと感じてしまうのは、あなたも同じ?」
「ええ、そうかもしれません。ですがやはり私の勘は正しかった。私たちは同じ匂いがします。ここで出会えたのは僥倖でしょうか? それとも――」
「そうですね、ちょっと濃すぎるでしょうか。でもきっと我々の出会いは僥倖でしょう。聖アルネリアの導きではないでしょうが」
アリストがくすりと笑う。その時の微笑みに殺気が混じったような気がして、思わず審判がびくりとアリストの方を見た。だがそこには笑顔のアリストがいるだけなのだ。審判は気のせいかと考えなおし、最後の注意事項を告げた。
「では二人とも、正々堂々のふさわしい勝負を」
「そうですね。正々堂々、互いに恥じぬ勝負を」
「はい。今日くらいは存分にやりあいましょう」
二人は互いに礼をして距離をとったが、一見礼儀正しいこの二人の間におよそ似つかわしくない危険な空気が流れたのをレイヤーは見逃さなかった。
「・・・いやいや、似た者同士だね」
「は? どのへんが?」
背丈も見た目も全く違う二人を見て、ゲイルは理解ができなかった。ゲイルの問いにレイヤーは答えなかったが、おそらく斬り捨ててきた数なら引けをとらないだろうということは容易に想像できた。
そしてヴァトルカとジェミャカもまたレイヤーのように、二人は似ていると感じていた。
「キレイな殺気ね」
「ええ、人間が放つにしては混じりけなく美しい。あの二人、随分と殺してきたのでしょう」
「私たちと同じくらいかな?」
「それはどうでしょうか。ただ、人間にしては多すぎるのは確かでしょうね」
ヴァトルカの指摘があっているかどうかは誰もわからないが、開始の合図と共に、アリストとヴェンの二人は顔に見合わず激しく打ち合った。まるで久しぶりに会った若い二人の恋人が再開を喜ぶかのように、二人の剣戟が激しく絡み合う。
「凄いぞ!」
「全く剣が見えん!」
先ほどのラインとイヴァンザルドも大したものだったが、この二人の剣は速度が違う。最初から全速だと思われた打ち合いは、さらに速度を増していく。
続く
次回投稿は、8/4(土)15:00です。