表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
1663/2685

戦闘と平和、その201~統一武術大会四回戦、ヴェンvs神殿騎士アリスト①~

「・・・7、8割といったところか」

「は?」

「全盛期のあれは、もっと強い。そうか、イヴァンザルドでもまだあの領域ではないか」


 ディオーレの表情は残念そうでもあり、喜んでもいるようだった。その表情の意図をほとんどの者は知り様もなかったが、イブランだけは察していた。

 そしてイブランが人知れず呟くのである。


「徐々にその姿を取り戻しているのは好ましくもあり、妬ましくもありますね。さて、こうなると強引に引き戻すのは難しいのでしょうか。一計を案じるべきか、それとも・・・?」


 イブランもまた企み深く笑ったが、彼の意図をこそ知る者は誰もいなかった。


***


「副団長強い!」

「すっげぇ! アレクサンドリア師団長に勝っちまいやがったぜ!」

「俺らの傭兵団、凄くねぇか!?」


 イェーガーの面々はラインの勝利に大いに盛り上がっていたが、古参の面々ですらラインの実力に驚いていた。実力もあれば頭も切れるのは誰もが知っていたが、ここまで強いとは思いもしなかったのだ。ラインはこれまで虚を突いたり周到さで上回ることはあっても、正々堂々の戦いでの剣技も見事なものだった。団員たちも、ラインの全力を目撃したのは初めてだった。


「あそこまで強いとは・・・」

「ははっ、やっぱりアタイの目に狂いはねぇな。やっぱり一発ヤッときゃよかったか? いや、今晩にでも・・・」

「ふむ、やはり子種をもらうならあの男か。ロゼッタ、搾り取りすぎるなよ?」

「そこの野生児共、はしたない話はおよしなさい」


 リサがロゼッタとエアリアルを窘めたが、リサもまた驚いていた。リサも同じ感想である。ここまで強いとなると、自分の調査が真実味を帯びたとリサも考えていた。


「この戦いをアルフィリースが見ていないのがなんとも間が悪いというか・・・まぁ本会議もあるからしょうのないことですけど。この戦いを見ていたら、アルフィリースの中のラインの株も上がるでしょうに」


 リサはため息をついたが、其の間にも次の試合が始まるところだった。会場は先ほどの興奮の余韻を残しつつも、次の試合に向けて歓声が巻き起こる。それはイェーガーでも同じだった。

 次の試合はアリスト対ヴェン。互いに属する組織では大人しく前に出ることはないが、その実力は折り紙付きの二人。

 アルネリアの上級騎士であるアリスト。リサはその名前を知っているが、ジェイクの実質的なお目付け役であり、剣技の指導も行う猛者ということらしい。面倒見もよく苦労人だが、ジェイク曰く、毎日のように手合せをしながらまだ一本も取らせてもらえないとか。アルネリア内での剣技の序列はどうなのかとリサも一度問いかけたが、


「う~ん、よくわからないな」


 というのがジェイクの答えだった。10傑には入るはずだと答えるが、ラファティやアルベルトとアリストが手合せをしているところを誰もみたことがないのだ。アリストは誰と手合せをしているのかと一度ラファティに聞いたことがあるが、ラファティの答えはこうだ。


「アリストは剣の手合せはしないし、私が少年の頃から見たことがないね。だって、彼は天才だから手合せなんて必要ないのさ」


 そんなことはないだろうとジェイクは反論したが、ラファティの答えは明快だった。


「アリストはもう十分に自分の求める強さを手に入れたのさ。アルネリアが求める強さも持っている。だからアリストは現時点では今以上の強さを必要としないから、手合せもしない。

 アリストは天才なんだよ、ジェイク。鍛錬をしなければ強くなれない私やアルベルトとは違って、本当の意味での天才だ。だからアリストが鍛練なんて始めると、彼が神殿騎士団団長になってしまう。そんなことを本人も周囲も望んでいないから、彼は鍛練をしないのさ。

 それにラザール家以外が神殿騎士団団長になれば、それはそれで面倒かもしれないしね・・・あっと、これは内緒ね」


 内緒も何も理由がわからないジェイクだが、アリストが少し他人と違うのは伝わって来た。そしてリサはその話を聞きながら、ヴェンとよく似た戦士なのだなと思った。


「ヴェンもその本当の実力を誰も知らないんですよね・・・」


 ターラムの闘技場での戦いぶりはリサも知っている。それにヴェンが場所によってはラインにも勝てると発言したことも。普段はエクラの護衛に徹するヴェンは、求められれば人の剣の相手もするし、技術を教えもする。それにアルフィリースの要請に応じて、個別に依頼を受けたりもする。

 宰相の娘の護衛としてそれなりの教養を身に着けたのか兵法にも割と明るく、中隊から大隊の指揮くらいはこなしてみせる。口数は少なくあまり誰とも親しくは話さないが、堅実な仕事ぶりは仲間からも評価されるようになってきていた。

 だがやはり他人と距離を置いていることには違いがない。求められなければ鍛練をしている様子も見ないし、いつ訓練をしてあの剣の鋭さを保っているのかと思う。

 だがジェイクの話を聞いて、リサは一つの可能性を考えた。アリストと同じく、ヴェンもまた天才型の剣士なのではないかと。鍛錬をするまでもなく、戦い方、殺し方がわかる種類の人間。つまり、この戦いは似た者同士なのではないかと考えていたのだ。



続く

次回投稿は、8/2(木)15:00です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ