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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その199~統一武術大会四回戦、ラインvsアレクサンドリア師団長③~

 だがラインの周到な奇襲でも、一撃で勝負が決着することはなかった。ラインの居合に咄嗟に反応したイヴァンザルドが、木剣の腹でラインの攻撃を受けていた。結果、イヴァンザルドの木剣は砕けていたが、ラインの木剣にはヒビが入っただけで終わる。

 ためらわずラインは連撃を繰り出したが、イヴァンザルドはいくつかの風船が割れるのを覚悟の上で、それらを積極的に腕で守った。木剣とはいえ全力で振り下ろせば腕を折らんばかりの威力を伴う。だがイヴァンザルドは予備の武器をとりに行くのではなく、ラインの木剣の耐久力がそれほどないことを見たうえで、防御でラインの木剣を折りに出た。

 そしてラインの木剣が折れたのを見てから、初めて武器を取りに走ったのだった。

 この試合では互いの武器は競技場の反対側に設置してある。今までは同じ場所に設置してあったが、ある試合で自分の得物をとった際に相手の予備武器を放り捨てる競技者がいた。マナー違反ではあるが、ルール上は問題がない。だがその行為に非難の声が上がり、大会側は互いの予備武器の設置場所を反対にすることに変更した。

 だからイヴァンザルドはラインの武器を破壊した段階で、ラインの攻撃が中止されると思っていた。だがラインは木剣が折れた後も躊躇なく、イヴァンザルドの後を追った。これにはイヴァンザルドも驚いたが、脅威は武器をとる瞬間。イヴァンザルドは武器を掛けている木製の台座を利用して蹴り、武器を取りながら反転するつもりだった。

 イヴァンザルドの長身が宙に舞う。だがイヴァンザルドが台座を蹴ろうとした瞬間、台座の板がほとんど抵抗なく抜けたのである。これには驚きを隠せないイヴァンザルド。企み深い笑みを浮かべるのはライン。


「阿呆が、そのまま場外へ落ちやがれ」


 ラインは台座の釘を予め抜いておいたのだ。さらにイヴァンザルドが何らかの方法でこらえれば、追撃を入れて場外させるつもりでいた。

 だが驚いたことに、イヴァンザルドは直垂を一瞬で外し、それをラインの腕に巻き付けると場外を防いだ。ラインも体ごと捻って巻き付いた直垂を外したが、逃げようとする間にイヴァンザルドの攻撃が体をかすめていく。

 ラインは得物がないことの不利を悟ると、自らの得物を補充しに反対側に走った。それを見てからイヴァンザルドはゆっくりともう一つの予備の武器を取りに行ったのである。そしてもう一つの予備の武器の台座の強度を確かめると、納得したように頷いた。


「なるほど、予め仕掛けておいたとは。たったこれだけの設置物しかないのに、余念のないことだ」

「けっ、涼しい顔してかわしやがって。可愛くねぇやつだ」


 ラインが予備の武器を手にして再度対峙すると、観客は大いに沸いた。ここまで息を突かせぬ展開と、二人の身のこなしに観客は夢中になる。

 唸るのはイェーガーの面々も同様である。


「さすが副団長、すげぇ身のこなしだ」

「でも相手の騎士もすげぇな。まだ涼しい顔してついていってるぞ?」

「アレクサンドリアの師団長って言ってたな。騎士の国ってのはすげぇな」

「アレクサンドリアは家柄がよかろうが、実力が伴わない奴は出世できないそうだからな。頭でっかちの指揮官もそうだ。心技体、周囲の人望が全て揃って初めて上に立つそうだ。そうなると師団長ってのはとんでもない強さだろうな」


 それらの会話を聞きながら、リサは試合前のイヴァンザルドとラインの会話を思い出していた。リサには彼らの会話は当然のように聞こえていたが、その中ではイヴァンザルドの方がラインに敬意を払っているようにも聞こえた。

 リサはラインの素性を以前から少しずつ調べていたが、おおよその正体は見当がついている。まだアルフィリースにも話してはいないが、もしリサの調査と予想が正しければとんでもない大物が最初からアルフィリースの傍にいたことになる。


「(アルフィリース、あなたはとんだ強運の持ち主ですよ。ラインが味方であること、それがあなたの人生における最大の幸運かもしれませんね。ラインの正体はおそらく――)」


 リサの想像には、若くしてアレクサンドリアで異例の出世をし、そして大罪を犯して国を追われた若者の姿があった。

 そして現実のラインはイヴァンザルドと一定の間合いを保ちながら、競技場をゆっくりと円を描くように回っていた。奇襲が通用しないなら、正攻法で戦うしかない。だがさすがにイヴァンザルドに隙がない。既に距離を保ちながらも色々仕掛けてはいるが、まるで乗ってくる様子がないのだ。

 イヴァンザルドは予備の武器を二本とも取り出して、二刀流に変えていた。ラインはかつての記憶を思い出す。



続く

次回投稿は、7/29(日)15:00です。

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