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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その195~統一武術大会四回戦、レクサスvs仮面の剣士②~

 ひょっとこの仮面をかぶった対戦相手は万来の拍手に礼をすると、くるりとレクサスの方に向き直った。丁寧に皿を片付けるあたり、鈍いのか大物なのか中々の落ち着きぶりである。だが一つ妙なのは、レクサスの洞察力をもってしても、相手の実力がいまいちわからないことだ。おおよそは体捌き、歩き方、身のこなしで実力が想定できるのだが、この相手の実力が想定できない。もちろん面で表情が見えないせいもあるが、強そうにも弱そうにも見える。

 そして肝心なことはもう一つ。どこかで見たことがあるかのような既視感がある。レクサスは思わず問いかけた。


「あんた、どこかで会ったことがあるっすか?」


 だが相手は返事をせず、肩をすくめるだけだった。そうするうちに審判が前説を始める。


「さて、今日の対戦はかの有名なブラックホーク2番隊副隊長、死神レクサス! 急遽参加のため予選からの出場となったが、その実力は申し分なし。ここまで一つの減点もなく勝ち上がる安定ぶりだ! 対戦した競技者は不運と言わざるをえない!

 対するはひょっとこ仮面! 本人の希望により本名は明かさないそうだが、予選からの出場でここまでぎりぎりの勝ち上がり! いつもハラハラさせ、笑いも忘れない展開で大人気の競技者だ! なお、ここまでの人気投票では4位に入っている」

「誰がそんなもの集計しているのかしらね」


 責任者も知らない人気投票にミランダが呆れていたが、司会者は饒舌に紹介し、観衆を煽っていた。

 この試合を見ているのはレイヤーやイェーガーの面々もそうだったが、何人かは眉をひそめて難しい表情をしていた。レクサスと同じ印象を抱いていたからだ。今日はエルシアだけでなく、ゲイルもレイヤーとともに観戦している。


「ははっ、面白い仮面だな。普段は大道芸でもやっているのか?」

「あれ、正面が見えているのかしら? やりにくいだけだと思うんだけど・・・あれで勝ち上がったのなら、逆に凄い実力者かもしれないわ」

「そうかぁ? 前の試合を見たけど、全然大したことなかったぞ? 何にもないところでこけたりしてたし」

「・・・よくわからないな」


 レイヤーがぼそりと呟いた感想は、まさにレクサスと同じものだった。レイヤーにもあの仮面の剣士の実力が読めない。こんなことは戦場でもこの競技会でも、初めての経験だ。レーベンスタインやディオーレですらおおよその見当はつくというのに。

 レイヤーの疑問はだがしかし、ゲイルには通じなかったようだ。レイヤーの背中を叩きながら、笑っている。


「そりゃあわからないだろうよ! あんな仮面してちゃ表情も読めないしなぁ」

「そうじゃないんだけど・・・まぁいいや」

「始まるわよ」


 エルシアの言葉で三人が目の前の試合に集中する。審判が開始の合図をすると、それぞれが得物に手をかけた。

 レクサスが本気なら、抜きざまに終わらせることもある。だがここまで盛り上がった試合を一瞬で片付けるのもどうかと思い、レクサスは普通に抜剣した。仮面の剣士も合わせて剣を抜こうとするが、抜けたのは剣の柄だけだった。刀身が抜けなかったことに焦り、なんとか鞘から刀身を抜き取ろうとするさまが滑稽で、観客からは笑いの渦が巻き起こった。

 レクサスは一瞬驚き、そして呆れてため息をついた。戦いとはレクサスにとっていつも生きるか死ぬかの瀬戸際で、ある意味神聖ともいえる場所ですらある。いかな状況とて、ここまでふざけられると良い気はしない。


「・・・くっだらねぇ」


 レクサスはさっさと試合を終わらせることにした。そして大きく一歩を踏みこんで、頭を打ち据えて終わらせるつもりだったのだ。だがその一撃が空を切った。そしてあろうことか、背後をとられたのだ。


「何っ!?」


 レクサスが驚いたのも束の間、仮面の剣士は足がもつれて一人で倒れていた。そしてあろうことか、背中の風船を自損したのだ。勝手に自滅した仮面の剣士に観客は再び爆笑したが、レクサスからは笑みは消えていた。一瞬とはいえ、たしかに背後をとられたのである。

 レクサスが油断なく構え直すと、仮面の剣士の観察を始めた。正面切っての戦いで、背後をとられたのはいつぶりだろうか。レクサスがじっくりと相手のことを観察し始めると、相手の行動の特徴がわかりはじめた。


「(無駄な動作が多いんだと思っていたっすけど、どうやらこれは全部攻撃の予兆に繋がるんすね。無拍子なんてものは観察力との戦いだし、呼吸を乱せばわかることも多いんすけど、こう予兆が多いとどれが本命なんだか)」


 レクサスが仮面の剣士の踊りに戸惑っていると、その様子のおかしさにルイが一番に気付いた。周囲からはわからない何かがあの仮面の剣士にあることは間違いないが、それが何かがわからない。一つわかるのは、ルイはあの剣士をどこかで見たことがあるような気がしているだけだ。

 ルイは控室にまでやってきて賭け事の元締めをする男を呼ぶと、自らもレクサスの勝利に賭けながら男に問いかけた。


「どっちが有利だ?」

「へぇ、1対3でレクサスでさぁ」

「あまり開きがないんだな?」

「そうですねぇ。確かにギリギリの試合が多いんですけど、あの仮面の剣士は負けかけたところからいつも大逆転するんで、それを知っている連中が大枚はたいてるんでさぁ。

 本戦の二回戦だったかな? アレクサンドリアの騎士を相手にまさかの風船全損からの一発逆転には会場がアッと言いましたぜ」

「・・・」


 ルイが再度試合を見ると、レクサスが一方的に猛攻を仕掛けていた。それに伴い仮面の剣士の風船は徐々に破損しているのだが、有効な一打はまだ取れていない。ルイの見る限り、レクサスの打ち込みは本気だ。ルイですら、レクサスの本気の打ち込みを全て捌くのは不可能にもかかわらず、体捌きだけでそれを可能にする仮面の剣士。

 もはや実力を隠していることは疑いようもなかった。思わずルイが叫ぶ。


「さっさと決めろ、レクサス!」

「んなことはわかっちゃいるんですけどねぇ!」


 レクサスは相手が呼吸のつなぎを狙っているのだと思っていた。だがレクサスは息継ぎなしでも、水中で楽に300を数える肺を持つ男である。呼吸にはまだ余裕があったし、相手の出方を見るつもりでいた。 

 だから突然相手の顔が間近に接近してきたときは、思わず叫びそうになった。その時、相手の瞳が仮面越しに見えた。相手の瞳はひょっとこの面とは違い、鋭くレクサスを捕えていた。

 観察していたのはレクサスではない、仮面の剣士の方だったのだ。



続く

次回投稿は、7/21(土)16:00です。

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