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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その194~統一武術大会四回戦、レクサスvs仮面の剣士①~

***


――会議八日目、朝――


 統一武術大会は四回戦に入る。ここまで勝ち進んできた選手はその名前が観衆の口にのぼり、予想屋連中による賭けが横行していた。アルネリアは原則賭博を禁止しているが、アルネリア郊外ということでミランダはあえて黙認することにした。

 むしろ賭けがあるからこそ統一武術大会は盛り上がる。こういう催しは多少の倫理観よりも、盛り上がっていくらであると考えていたからだ。むしろアルベルトを使って賭けさせようとしたが、賭け方がわからないと言われて断念したのはエルザたちにも内緒のことだ。

 そして統一武術大会朝の一巡目、準備をしているのはレクサス。隣にはルイも控えていたが、その表情は気怠そうないつもの表情ではなく、引き締まってレクサスを案じるものだった。


「レクサス、調子はどうだ?」

「いつも通りっすよ、変わりないっす」


 レクサスは準備運動をしながらルイに応える。その表情は柔らかだが、自然体が一番力を発揮できることをレクサスは知っている。またルイもレクサスの身を案じても無駄だということを知りつつも、準備に油断はなかった。

 レクサスは剣士というよりは、戦士である。必要に応じて得物を変え、素手でも戦うことができる。幼いころから戦場稼ぎをしていた生い立ちのゆえだろうが、戦い方に形式がない。ブラックホークとして戦う時には剣を使うことを主流とするが、個人で勝つことだけを目的とする場合、どれほど残酷な手段でも躊躇なく使うのが本来のレクサスのやり方だ。

 そのためこういった競技会で『素』が出ないかと心配するルイだったが、その懸念を察したかのようにレクサスが笑った。


「姐さん、心配しなくても大丈夫ですって。こんな競技会でマジになりゃしませんって」

「それならいい。だが忘れるな、私たちの目的は天覧試合まで勝ち抜いて、アルネリアの上層部に直接会うことだ。最高教主に直接目通りできれば最高だな」

「それは忘れちゃいないんですけどね。なんで正面から会いに行かないんです? 言っちゃなんですけど、ブラックホークの知名度は伊達じゃない。厳戒態勢の今ですら、正面から行っても目通りできる確率は結構高いと思うんですけどね」


 レクサスの疑問はもっともだった、ルイがそっとレクサスに近づいて耳打ちした。レクサスはルイの顔がここまで近づくことは滅多にないため一瞬鼻息が荒くなったが、ルイにぴしりと頬を打たれてしょげていた。


「阿呆、何を考えている」

「だってぇ、イイ匂いするんですもん」

「そんなわけがあるか。だがヴァルサスの話では、アルネリアでは最高教主以外は信用するなと言っていた。どんな理由があるかは知らんが、ヴァルサスは意味のないことは言わん。まぁ、そういうことなのだろう」

「ふーん、国とかデカい組織は面倒っすね」


 レクサスは興味ないと言わんばかりに素っ気ない返事を返したが、会場で審判が開催の挨拶を始めると、表情が一気に引き締まった。


「さ、出番っすね」

「武運を祈る」

「え、祈ってくれるんすか?」

「当然だ、お前が負ければ我々の名前に傷がつく。ブラックホークは大陸最強の傭兵団でなくてはならんからな。イェーガーに実力、知名度共に負けるわけにはいかん」

「ははっ、そりゃあそうっすね」


 レクサスはいつものルイの態度にがっくりと肩を落としたが、ルイはさらに付け加えた。


「お前にはあまり実感がないかもしれないが、統一武術大会は本来全ての戦士にとって名誉なものだ。私にとっても、今でも敬意を払うべき大会でもある。ここの天覧試合以上に進むことは、戦士にとって誉れだ。今回のように大規模で、しかも競技者の水準が高い大会ならなおのこと。優勝というのは格別の栄誉となるだろう。

 お前も戦士の端くれなら、多少は誇りと敬意をもって戦え」

「忠告ありがたいんですけどね。俺にとって戦う理由は、金以外ありゃあしないんで」

「――ふむ、いつも通りだな」


 レクサスの返答に逆に安心したのか、ルイはレクサスの胸をどんと拳で叩くと、レクサスを送り出した。


「行って来い」

「ちょいと勝ってきますよ」


 レクサスは競技場に向かったが、いつも通りの自分の調子に満足していた。レクサスが戦う理由は金以外にも――本当はブラックホークのためというのももちろんあるのだが、それは意識しないようにしていた。情を先行させれば判断が鈍る。自分は嫌われ者で、他人に小馬鹿にされるくらいが気楽で丁度いいと考えていた。

 ルイもそれに気づいているのか、いつも通り送り出してくれる。この関係がこの数年崩れたことはなく、レクサスは居心地のよさをいつも感じていた。

 だが競技場に上がると、様子はいつもと異なっていた。会場からは妙な応援が飛び、歓声だけでなく笑いが溢れている。どうやら対戦相手の大道芸によるもののようだが、妙なのはその姿形だった。確か相手の名前は仮面の剣士――明らかに偽名だったが、妙なのはその面である。


「えーっと、あれ何ていう面でしたっけ・・・確か、ひょっとこ?」


 東方で大道芸を行う者がつけることがある面だと記憶しているが、本物を見るのは初めてだ。その面をつけた男が、手と足に棒を複数本乗せ、その上で皿を回していた。片足だけ残して器用なものだと、レクサスも思わず拍手をしてしまった。



続く

次回投稿は、7/19(木)16:00です。

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