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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その191~会議七日目、夜④~

 藤太は言い澱む詩乃に対して、ため息をついた。


「オラは正直あんたが嫌いだ。浄儀の旦那もそうだろうが、四家の存在が討魔協会、ひいては東の大陸を腐らせたと思っている。四家の尖兵として使われたオラ達の吉備津家は、度重なる戦いで死んだり呪いを受けたりでもう絶える寸前だ。それでもご奉公しろって親父たちが言うからオラは召集に応じたが、決してあんたの命令で動いているわけじゃない。浄儀の旦那だからオラは動いている。それだけは忘れないでくれ」

「もちろんですとも。召集をかけたのは私かもしれませんが、それが理由でないことくらいは」

「そうかい? ならなんであんたは自分で討魔協会を掌握しようとせずに、四家を統率しようとしているんだい? もう白儒はくじゅ赫宮せきぐう玄壌くろつちのどの家にもロクな人間が残っていないのは、あんただってわかっているんだろ? あんたが本当の意味で討魔協会を統率し、東の大陸を良くしようと思っているなら四家は取り潰して財産を回収するのが一番早いはずだ。どうしてそうしない?」

「それは――」


 詩乃には詩乃の考えがある。だが確かに東の大陸を本当の意味で再建するつもりなら、藤太の言う通りに四家は潰した方が良いことは明白だ。

 だが詩乃は、本当の理由を言うことができなかった。それは藤太にもわかっているのか、またもため息をついたのだ。


「オラは浄儀の旦那には義理があるし信用もしている。浄儀の旦那が最終的に何を考えているか、聞いたことが?」

「・・・いえ」

「あんたは期待されているかもしれないが、信用されていない。いや、浄儀の旦那は本当の意味ではあんたのことを信用したがっている。あんたが信用されない理由は一つ、あんたが誰も信用していないからだ。あんた、信用できる仲間が一人でもいるかい?」

「それはもちろんですとも」


 詩乃は即答したが、藤太は首を横に振っていた。


「本当にそうか? まあいいさ、オラもあんたの目標には興味がない。仕事はきっちりやるから、あんたと不和になるつもりはないけどな。

 一つわかっていることは、このままじゃああんたはこっぴどい裏切りにあってロクな人生を歩むことはないだろうってことだけさ。本当の意味で信頼できる人物は誰なのか、信頼すべきは誰なのかしっかり考えた方がいい。じゃなけりゃあんたが君臨するのは、誰もいない焼け野原だ。忠告はしたぞ?」

「――ご忠告、いたみいります」


 詩乃は深々と礼をしたが、それすらも藤太は信用していないのか、じろりと胡散臭そうにその仕草を見ていた。

 そして不意に夜空の月を見上げながら言った。


「ブラディマリアの話じゃあ、空に月はかつて一つしかなかったそうだ」

「は? ではどこかから生えてきたとでも?」

「知らんよ。魔人の中でも御伽話として伝えられるほど古い逸話だそうだ。昔々、とても仲の良い三人の女神がいましたが、妹の女神2人が死んだとき、その死を憐れんだ姉の女神が二人を月に変え、忘れないように空に浮かべて皆に見てもらうようにしたんだと。

 だがそれを伝える魔人たちも死んだんじゃあ、結局誰もその女神とやらのことを覚えていないよなぁ」

「・・・何が言いたいのです?」

「どれほどのことを成し遂げようと、それを伝える者が全部死んだら意味がないってことだよ。ならばオラたちは、その時その時を悔いなく精一杯生きるべきじゃないかね?」


 それだけ言い残すと、藤太はその場を去った。丁度交代の時間だったのか、猿丸が代わりの屋上に上がってくる。

 その猿丸に向けて、詩乃はふと思いついたことを聞いてみた。


「ねぇ、猿丸殿」

「は」

「女神が転じた月というのは、青い月と白い月のどちらなんでしょうね」

「は?」


 猿丸は問いかけの意味がわからず思わず聞き返していたが、詩乃は猿丸の心情など気にも留めてはいなかった。先ほどの藤太の忠告も正直意味を掴みかねてはいたが、何か大事なことを言われた気がして二つの月を目にしながら考え込んでいたのだった。



続く

次回投稿は、7/13(金)16:00です。

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